第6話 ヤバいお客さんとやたがらす たる酒かおりすぎます

 ようやくテキーラだ! 

 そんな風に思っていると、お店に入ってくる一人の女性。唯とリナ先生を見てギョッとした彼女は、マスターに似ている。ショートのマスターとは違いピンク色の長い髪、そして同じバーテンダーらしいが際どい格好。手には何か木製の容器を持っている。

 その中に瓶のような物が入っているようだ。

 

「えっと、まだ開店前だと思って、マスターくんと一杯やろうと思って、ヤタガラス持ってきたんだけど、日本代表応援がわりにさー」

 

「……現在の時間はこちらのお客さまの接客となりますので、お引き取りください。ダンタリアン」


「えー、やだぁー! そっちのお姉さん達も一緒にヤタガラス飲んで日本代表応援しよーよー!」

 

 ヤタガラス? どうやら、このダンタリアンという凄い美人でかなりヤバそうな女性が持っている物はお酒らしい。リナ先生が面白がってスケブにダンタリアンという人のイラストを描いている。

 なんとなくリナ先生とダンタリアンさんは気が合いそうだ。

 

「あーし達は全然構わないっすよ! 色んなお酒を試してみたいですし、ね? 唯さん」

「は、はい!」

 

 そういう唯たちを見て、このダンタリアンという女性は凄い嬉しそうに笑う。なんというかマスターと違い表情が豊かだ。二人は姉妹、あるいは兄妹か姉弟なんだろうか?

 

「はいー! じゃあバーにに合わない日本酒と思いきや! このスタイリッシュなボトル見てよ! 上と下がお酒飲む升になってんだよ? しかもヤタガラスの刻印あり! 可愛くない?」

 

 そう言って、トン。トンと私、リナ先生の前に升を置いてくれるダンタリアンさん。

 

「マスターくん、アタシとマスターくん用の升出して」


「……ここはバーですよダンタリアン」


「マスターくん、バーは客が所望するお酒を出すとこだよ? 洋酒だけ出してるようじゃまだまだだね。という事でアタシの芋焼酎・魔王も置いていこう」

 

 ドンと、私でも知ってるプレミアム焼酎。魔王の一升瓶をマスターに渡して、マスターは凄い嫌そうにそれを受け取るとリカーラックではないどこか見えないところにしまって、これまた嫌々升を二つ取り出した。

 

「マスターのレアな表情っすね」


「うん、ですね」

 

 ダンタリアンはヤタガラスのボトルを開けると、唯、リナ先生、そしてマスター、自分とお酒を注ぐ。そして皆で升を掲げ、

 

「「「かんぱーい!」」」

「いただきます」

 とマスターだけ慎ましく口にする。そしてダンタリアンが「マスターくん、このお嬢さん二人に説明したげなよ!」

 

「なにこれ? スッキリしてておいしー!」

「めちゃうまっすね!」

 

「……こちら、ヤタガラスですが奈良県の日本酒になります。一説には日本酒発祥の地と呼ばれており、神話の時代からお酒に関わってきた地域とも言えますね。八咫烏は三本足のカラス、導きの神様と言われております。私やダンタリアン、そして唯さんとリナ先生を導いていただいたのかもしれませんね? 飲み方は冷や、燗、現在の常温でも美味しいですが、時期も相まって熱燗がオススメです。この一杯を飲まれましたら燗をお付けしますので」

 

 そう言ってお銚子を用意しているマスター、日本酒関係の酒器も揃っているんだなと驚く二人。ダンタリアンは美味しそうにお酒を飲む。唯とリナ先生も一杯目を飲み終えると、マスターはお猪口を出してくれた。

 それに熱燗を注いでくれるので「熱い内にどうぞ」と一口。おすすめされるがままに唯とリナ先生が一口。その瞬間、隣のダンタリアンが指をパチンと鳴らした。

 


 ここはどこ? お座敷? 凄い広い部屋。

 唯とリナ先生用の料理だろうか? 和食膳が二つ並んでいる。だけど、人の気配が一切しない。

 

「リナ先生? いない」

 

 誰もいない。そう思った時、ふわりと風を感じる。横を見ると、山伏のような格好をして小さなカラスの仮面をした男の子?

 

「さぁ、主さん。マヨヒガになに用かね?」


「ええっと、貴方は?」


「主さんの手に持ってる猪口の中におるよね? ヤタガラスやね」

 

 出たー! 久々のリカー男子、ヤタガラスくん。唯の横でお酌をしてくれる。なんか凄いいい匂いがすると唯はドキドキする。

 

「主さん、美味しいやろ? たまには日本酒の優しい味も飲まなな?」

 

 確かに最近、スピリッツばかり飲んでいた気がする。そして唯もリナ先生も日本酒はあまり飲まない。確かに口当たりも滑らかで度数も低めの日本酒は女子に人気だ、地酒巡りをしている友人が唯にもいたなと思う。

 

「ヤタガラスくん、どんな飲み方が美味しいのかな?」


「そやね? 主さん、ちょっと横になり」


「えっ? えっ?」

 

 唯はヤタガラスに膝枕をしてもらい頭を撫でてもらう。甘やかしてくれるのはどういう意味が? ヤタガラスの体温が伝わってくる。そして耳元で囁くヤタガラス。

 

「人肌や!」

 

 ドキンと胸が高鳴った。その瞬間、目が覚める。そこはバー、隣ではリナ先生が頷いているのでリナ先生も同じような夢を見たんだろう。ダンタリアンは酔い潰れて寝ている。

 

「あの、マスター。人肌で頂けますか?」

「畏まりました。テキーラ、後日にしましょうか?」

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