Evol.092 好転

「分からん」

「そんな適当な!?」


 俺の返事を聞いたスフォルはさらに困った顔になる。


 とはいえ、俺たちは女神の導きの情報を知らなすぎるので、情報を集める必要があるだろう。


 ステラさんが言っていた通り、メインメンバーが出てこないと決まったわけじゃない。メインメンバーが出てくると考えて準備をしていたほうがいい。


「正直、今の段階じゃなんとも言えないしな。できればもう少し情報が欲しい。特にメインメンバーたちの情報が」

「そ、そうですね。まずは情報収集ですよね」


 ただ、俺たちに当てはない。自分で言うのもなんだが、俺もスフォルも交友関係がくっそ狭い。その中に情報に通じていそうな人はたった一人。


「流石に個人の情報はお教えできませんね」

「だよなぁ」


 一番頼りになりそうなステラのところにやってきたけど、そういう情報は守秘義務があるため教えてもらえなかった。


 さて、どうしたものか。情報と言えば酒場。酒場回りをして情報を仕入れるしかないか。


「私もお手伝いしましょうか?」

「え?」


 俺が考え込んでいると、意外な言葉が耳に届く。


「いえ、情報はお渡しできませんが、私が一時的にパーティに加入することは可能です」

「いや、それは色んな意味でだめじゃないか? ギルド職員だし、ステラさんも女神の導きに目をつけられてしまうだろうし、危険に晒すわけにはいかないんだが……」


 受付嬢に怪我なんてさせようものなら、ギルドのみならず、他の同業者たちからも大ブーイングがくるだろう。


 そもそも一受付嬢が特定の探索者に肩入れするなんて問題ありまくりに決まっているし、可能なら危ない場所に連れていきたくないんだよな。


「ギルド職員に手を出そうと考えるほど愚かじゃありませんよ、女神の導きも。それに、今回のクランウォーは不公平さは流石に目に余りますし、それにこう見えて元々冒険者をしていたんです。それなりに戦える自信はありますよ?」

「いや、でも……」


 そうは言うが、ちょっと二の足を踏んでしまう。


「本当に大丈夫ですから。それに、私も協力したいんです!!」

「わ、分かった。ありがとう。迷惑をかけるが、協力してくれ」


 ずずず、ずいーっと俺の顔に顔をグッと近づけてくるステラの威圧感に


「うふふっ、気にしないでください。それじゃあ、ちょっと手続きしてくるので待っていてもらえますか?」

「え、今からか!?」

「えぇ、時間がありませんからね」


 ウィンクして立ち上がったステラは、そのまま応接室の外に出て行った。


「ギルド職員が味方だなんて凄いですね!!」

「そうだな」


 確かにここでステラの協力が得られたのは大きい。これも俺とスフォルの運が高いおかげかもしれない。


 ひょんなことからステラを仲間に加えた俺たち。


「三人でも厳しいよなぁ」

「ですねぇ」

「ぴぃっ!!」


 俺の頭の上でビャクが俺の額をベシベシと叩く。


「悪い悪い。そうだな。お前も居たな」

「ぴっ」


 今回の要求対象になっていてすっかり忘れていたが、ビャクもれっきとした俺たちの仲間。仲間外れは良くなかったな。


「あっ、見つけた!!」

「ん?」


 俺を指さした少年とその仲間らしき三人組が俺たちの方に向かってくる。


「お久しぶりです!!」

「んー、あっ!! サワークラブから助けた奴らか」


 結構いろいろなことがあったせいですっかり忘れていた。少し前にサワークラブに囲まれていた駆け出し冒険者を助けたことを思い出す。


「はい、エピルですよ、エピル」

「そうだったな。それでエピル、俺に何か用か?」

「そうですよ。ラストさんにお酒を奢ろうと思って探していたんですけど、中々見つからなくて。今日ようやく見つけたってわけです。どうですか、これから」

「それがな……」


 女神の導きとのクランウォーが迫っている中じゃなければ大変嬉しいお誘いなのだが、今はそうも言ってられない。


 俺たちの置かれている状況を説明して断った。


「それは……中々凄いところに目を付けられましたね……」


 説明を聞いたエピルは、呆然としながら絞り出すように言葉を発した。


「そうなんだよ。だから、あんまり時間がなくてな。すまんな」

「いえいえ、気にしないでください……あっ、そうだ。ここは僕たちに任せてください」


 再度謝罪をして別れようと思ったが、ふと思いついたような顔でエピルは言った。


「どういうことだ」

「僕たちがその女神の導きの情報を仕入れてきますよ」


 ステラさんに引き続き、意外な提案をしてくるエピル。


「え、いいのか?」


 俺としては助かる申し出だが、彼らの時間を奪うことになる。駆け出し探索者は毎日ダンジョンで稼せがないと生活が厳しくなる。


 本来こんなことに構っている暇はないはずだ。


「はい。ラストさんには命を助けてもらいましたからね。これくらいお安い御用です」

「そっか。ありがとな。頼めるか?」


 彼らが折角そう言ってくれるので、俺はありがたく利用させてもらうことにした。


「分かりました。任せてください。これでも結構顔が広いんです」

「よろしく頼む」

「はい。任せてください。早速行ってきますね!! それでは!!」


 俺たちに手を振ってエピルのパーティは足早に去っていった。


 これで仲間も増えたし、情報の当ても出来た。後できるのは他の仲間をさがしたり、レベルを上げて戦力強化したりするくらい。


 仲間になってくれそうな人物に当てはもう一人だけあるけど、彼女に頼るのはどうなんだろうか。


 そう思いながら、ギルドカードを取り出した。




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いつもお読みいただきありがとうございます。

カクコン用の新作を公開しております。


戦乙女ヴァルキリー学園の世界最強の寮母さん(男)〜雑用をしているだけなのに英雄扱いされています〜

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