Evol.086 従魔の正体

 ギルドに足を踏み入れると、一斉に俺たちに視線が集まった。


「おい、あれ見ろよ……」

「うぉ!? あれってもしかしてドラゴンか?」

「しかもセイントドラゴンじゃないか?」

「確かに見た目はそっくりだ」


 その視線は値踏みをしたり、肉食獣のような獲物を狙うようなジットリとした欲にむれたものを感じる。


 何を言っているかは聞こえないが、道中で感じたように視線が俺から微妙に上にズレていることと、道中に『女神の導き』を考えれば、奴らが何を狙っているのかはっきりしている。


「すぴー、すぴー」


 どう見ても奴らは俺の頭の上で呑気に寝息を立てている真っ白なドラゴンを手に入れたいと考えているようだ。


 やはりドラゴンの従魔はかなり貴重で思わず欲してしまうくらいの価値があるのだろう。


「こんにちは」

「こんにちは。ラストさん……!? こっちに来てください!!」

「あっ、はい!!」


 俺はいつものようにステラさんに声を掛けたら、作業をしていたステラさんが俺だと気づいて挨拶した直後、一瞬固まってすぐにカウンターから華麗に飛び出してきて、俺の手を引いて奥へと引っ張っていく。


「それで、どうしたんだ、いきなりこんな部屋に連れてきて」


 応接室へと連れてこられた俺は、ほぼ予想はできてはいるが、一応尋ねる。


「どうしたもこうしたもありませんよ!! な、なんですか!! そのドラゴンは!?」

「やっぱりそうなのか……」


 詰め寄るステラさんの言葉が予想通りだったので俺は肩を落とした。


 はぁ……マジでドラゴンだったとは……。

 想像通りとはいえ、あんまり当たってほしくはなかった。


「し、知らなかったんですか?」

「ああ。ドラゴンの幼体なんて見たことがないしな」


 モンスターの正体を知らなかったことに驚愕しながらの問いに、俺は肩を竦めて答える。


「……そうでしたか。それでこのドラゴンはいったい?」

「えっとこの前の探索でドラゴンゾンビを倒した時に従魔の卵がドロップしてな。昨日孵ったんだ」

「そういうことですか……」

「やっぱりドラゴンは需要が高いのか?」


 手に入れた経緯に納得したステラさんに、女神の導きの件や他の探索者の視線から一番気になっていたことを尋ねる。


「高いなんてもんじゃありませんよ!! ドラゴンは従魔としてかなり優秀で戦闘力が非常に高い上に、空を移動できるので洞窟エリア以外では移動が短縮できるためかなり重宝されます。それに存在自体滅茶苦茶レアで年に一、二匹しか生まれません。そのため、かなり高額で取引されます。それどころか、分不相応な探索者が手にした場合、物騒な事件が起こったのも一度や二度ではありません」

「そ、そうか」


 俺はステラさんのあまりの剣幕に狼狽えつつ返事を返した。


 まさかそこまでの代物とは……。

 

「それにしてもその色はセイントドラゴンにしか……」

「セイントドラゴン?」


 俯いてブツブツと呟くステラの口からまた聞きなれない言葉が出てきたので、俺は首を傾げる。


「はい、ドラゴンの中でも最も位が高く、その強さとスキル、そして神々しさから神の使いとまで言われています。恐らくそのセイントドラゴンの幼体ではないかと。そのレア度は百年に一度見つかれればいいほどで、ただのドラゴンでさえ高ランク探索者や貴族の人たちが欲しがるのに、セイントドラゴンともなればどんな手を使ってでも手に入れようと躍起になります」

「げっ……マジかよ……」


 その上、そのドラゴンの中でも最上位の存在とはな……。

 俺はとんでもない従魔を手に入れてしまったみたいだ……。


 ただでさえ女神の導きに目を付けられたっぽいのに、これからさらに面倒ごとに巻き込まれそうな内容に、俺は苦虫を噛み潰したような顔をになる。


「そりゃあ道理で女神の導きってクランに所属する探索者も欲しがるわけだ」

「女神の導き!? 何かあったんですか?」

「ああ、それがな……」


 俺はギルドに来る途中にあった経緯を説明した。


「えぇええええええええええ!? 女神の導きに喧嘩を売った!?」

「はははは……正確には買ったんだけどな」


 その経緯を聞いたステラさんは目を見開いて大声で叫んだ。俺は乾いた笑みを浮かべて返事をするしかできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る