Evol.072 隣に立つために

 視界に映った流れ星が地面に落ちる。


―ドォオオオオオオオンッ


 すさまじい轟音が鳴り、清らかな白い光の衝撃が広がった。


「ギャォオオオオオオオンッ」


 その瞬間に俺に群がっていたスケルトンは粒子となって消え去り、ドラゴンもその闇の衣を剥がされてもがき苦しんでいるのが辛うじて見える。


 そして俺の視界には純白の鎧を身に着けた人物が映った。


 ああ……あの背中は前に見たことがある。


 それは三〇年前に見た物と全く同じ。


「リフィル……」


 そう。それは俺の命の恩人であり、憧れであり、想い人である彼女の背中だった。


「ふむ。まさか一発で辿りつけるとは思わなかったが、危機一髪といったところか?」


 彼女が辺りを見回した後で俺の方を振り返り、特に慌てることもなく俺に近づいてきて尋ねる。


 どうやら助けに来てくれたらしい。


「はっ……まだ動けるっての……」


 彼女に無様な姿をこれ以上晒したくなくて、全身に力を入れて無理やり体を起こそうとするが、全身の骨がボロボロになっているため、体が思うように動かず立ち上がることさえもできなかった。


「ふっ。無理するな。とりあえずこれを飲め」

「い、いや……俺よりも先にスフォルをどうにかしてくれ……」


 起き上がろうとして無様な姿を見せる俺に、リフィルはポーションらしきものをちらつかせる。しかし、俺は自分のことよりもスフォルの様子が気になった。


 彼女はスケルトンに切りつけられてかなりの傷を負っていたはず。

 もう死んでいるかもしれないと思うと気が気じゃない。


「ん? ああ、あれが例の少女か。分かった。お前はこれを飲んでおけ」

「んぐっ」


 リフィルは俺の願いを聞き届け、持っていたポーションの瓶のキャップを開け、俺の口に押し込んで視界から消える。


 おお……。


 俺は突っ込まれたポーションをごくごくと嚥下する。それにより体がだいぶマシになった。


 しかし、黒ずんだ部分は治っていなかった。


 俺はどうにか体を起こして立ち上がる。


「ラストさん!!」


 俺の背にスフォルの声が聞こえた。


 どうやら無事だったらしい。

 はぁ……良かった……本当に……。


 彼女が生きていてくれたことに心から安堵した。


「ピュリフィケイション!!」


 彼女は俺に近づいてくるなり浄化魔法を唱える。それにより俺の体の黒ずみと重さが綺麗さっぱりと消えた。


「ありがとうスフォル。無事でよかった」

「はい、ラストさんもご無事で何よりです」


 俺はスフォルの声がした方を向き直って彼女に微笑むと、彼女も俺に向かって杖を抱きしめた状態で花のように笑った。


「おいおいお前達。悠長にしている場合じゃないぞ」


 俺とスフォルの会話に割り込む声。リフィルは俺達をヤレヤレと首を振っていた。


 そうだ。俺達は今ボスとの戦闘中で倒したわけじゃない。リフィルの奇襲によってダメージを受けたようだが奴は健在だ。アンデッドに健在というのもおかしな話かもしれないが。


 視線を向けると、失われた黒い霧も徐々に戻ってきていてもうすぐ全身に行き渡るところだった。


 リフィルがどうやってここにきたのか気になるが、それも後で聞くことにしよう。


「そうだったな。さっさとアレをどうにかしないと」

「うむ。それでどうする? 私がやっても良いが」

「いや、リフィルはスフォルを守ってくれ。あいつは俺がどうにかする」


 自信ありげなリフィルに俺は首を振った。


 確かにリフィルならアイツを倒すことができるのだろう。でも、それじゃあ三〇年前のあの時と何も変わらない。あの時と違って今は力がある。


 どうにか回復も出来たし、心強い味方も出来た。スフォルを彼女に任せて心置きなく戦える。もう背中を見ているばかりは嫌だ。俺は彼女の隣に立ちたいんだ。


 いや、絶対に立ってみせる!!


「満身創痍だったのにどうにかできるのか?」

「どうにもならなかった時は頼んだ」

「仕方ないな。そんな顔で言われたら断ることはできん」


 痛い所をついてくるリフィルだが、ここは譲れない。


 リフィルは微笑ましい者でも見るかのような表情で肩を竦めた。


「ありがとう。それじゃあ行ってくる!!」

「ああ」

「ちょっと待ってください!!」


 後方を引き受けてくれたリフィルに感謝して、いざドラゴンに向かおうをとしたその時、スフォルが俺を引き留める。


「ん? どうした?」

「私の出来る事なんてこれくらいなので。パワーアップ、フィジカリティアップ、マジックアップ、アジリティアップ、デクスタリティアップ」


 彼女が俺をとどめた理由が分からず首を傾げたら、彼女は杖を前に突き出して魔法を唱えた。


 力が漲るのを感じる。


 そうだ、彼女にもきちんと頼れる力があった。


「付与魔法か。ありがとう。それじゃあ行ってくる」

「ご武運を!!」


 俺は彼女に礼を言って駆け出した。俺の背中にスフォルの声が掛かる。


 辺りにはスケルトンが湧き出し始めていた。


「どけぇえええええええ!!」


 俺は群がるスケルトンをなぎ倒してドラゴンまで疾走する。


 そしてスケルトンを何百匹となぎ倒した時、信じらないことが起こった。


 俺の体が発光し始めたのだ。


 それは間違いなく最近体験したばかりの光だった。

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