Evol.038 初めての落札

「最初の商品は、芸術家レオナルが描いたモーナリンザ。これは金貨五○○○枚からとなります」


 初めに登場したのは有名な芸術家の絵画。絵なんて描いたことのない俺だが、圧倒されるような力強さがあり、感性にダイレクトに訴えかけてくる何かがある気がした。


「それにしても最初が金貨五○○○枚か。凄いな」


 開始早々超高額な絵画から始まったことに驚き、俺の口から思わず言葉が漏れる。


「一番最初も目玉商品の一つですからね。もうないとされたレオナルの絵画が見つかったと言うことで、目利きの貴族たちが今日はこぞって参加しているという噂です」

「それならアイテムバッグの購入には有利そうだな」


 俺はステラさんの解説を聞いて嬉しくなった。


 なぜなら、他の参加者が他の商品にお金を使ってくれれば、俺がアイテムバッグを購入できる可能性が上がるからだ。


「そうですね。今日はアイテムバッグ以外にも目玉商品が沢山あるみたいなのでライバルは少ないかもしれませんね」

「それは良かった」


 他の参加者が金を使う機会が多くなると聞いて俺はますますアイテムバッグをゲットできる可能性が上がったことを実感してさらにテンションが上がった。


「それでは始めます。入札価格は五〇〇〇から……五六○○……六五〇〇……一〇〇〇○○」


 入札が始まり、金額がどんどんつり上がっていく。


「一〇〇〇○○……他に在りませんか?」


―ダンダンッ


「一三番の方、落札です」


 最終的に金貨一〇○○○○枚までつり上がった後、木づちが叩き鳴らされて落札となった。


―パチパチパチパチ……


『わぁああああああああっ』


 参加者たちからの拍手と歓声が上がる。気づけば俺達も拍手していた。


 それからも存在感のある芸術作品の数々や、煌びやかな衣装や武具、装飾品などがセリにかけられては落札されていく。


 ステラさんの言う通り、どの商品も目玉になりうるランクのモノだったらしく、軒並み高額な金額で落札されていった。


 その熱気と興奮は入札に参加しなかった俺にも伝わってきて、一緒にドキドキしたり、ソワソワしたり、落札された感動を味わったりしていた。


「次は中級治癒魔法の魔導書です。こちらは金貨一〇○○枚から……」

「~~!?」


 ただ、次に提示された商品を見て俺は驚愕した。


 なぜなら魔導書の中でも治癒系は人気がとんでもなく高い上に、中々ドロップしたりしないし、宝箱にも入っていないので、最下級でも金貨五〇枚はするというレア魔導書だからだ。


 下級で金貨二五〇枚。中級ともなると一〇○○枚以上する上に中々見つからない。


 最下級のキュアの魔法でもある程度の外傷は治せるし、下級だと大概の傷は治る。中級ともなると骨折や臓器損傷などの内部的なところまで回復が及ぶので、かなり重宝されるのだ。


 難点は最下級と下級を覚えていないと魔導書を使用できないことだが、今の俺には金があるので、それを使えば最下級と下級の魔導書を購入するのは難しくない。


 だから俺はその魔導書が滅茶苦茶欲しくなってしまった。ソロで潜っているとやはり回復魔法がほしい場面がいくらでもあるからだ。


「ラストさん、あの魔導書が欲しいんですか?」

「いや、その……まぁな」


 中級魔導書に目を輝かせていたら、ステラさんにはバレてしまったらしい。


 俺はバツの悪そうに頭を掻く。


「ちょっとお金に余裕もありますし、参加してみたらいかがでしょうか?」

「お、いいのか?」


 ステラさんは咎めることなく、逆に俺に参加を勧めてきた。意外だったのでつい問い返してしまった。


 俺としては嬉しい限りなのだが。


「アイテムバッグの時の練習に丁度いいですし、ダンジョン探索でも役立つので良いと思いますよ」

「分かった。参加してみよう」


 ステラさんから許可を得たので俺も入札に参加してみる。何事もチャレンジだ。


「二二○○……二三○○……」


 すでに入札は始まっていたので、俺も慌ててステラに道すがら教わった通りに入札してみる。


「三〇○○……他におりませんか?」


 俺が三〇○○を提示したら価格の上昇が止まり、他に入札する人がいなくなった。


 俺は追加の入札が入るのか入らないのかドキドキしてその時を待つ。


―ダンダンッ


 木づちの音が鳴った瞬間俺は心の底から安堵した。


「いないようですので、五六番様落札です」


―パチパチパチパチ……


『わぁああああああああっ』


 再び拍手と喝さいが巻き起こり、その中で俺は満足げな気分に浸っていた。


 オークションにハマる人たちの気持ちが分かるな。商品そのものよりもこの高揚感とか優越感みたいなものを得るために来ているのかもしれない。


「おめでとうございます。三〇○○枚なら良い買い物だったと思いますよ」

「ありがとう」


 ステラさんがいい買い物だったと笑顔で褒めてくれたので、俺も笑顔で礼を返す。


「後はアイテムバッグですね」

「その通りだな」


 俺達は前哨戦を終えたので、二人で気合を入れ直し、アイテムバッグ登場する時を待った。

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