Evol.036 見違える姿
その日も昨日と同様に依頼を済ませ、気が逸ってしまって少し早めに帰ってきた。
「それじゃあ、早退してきますので少々お待ちください」
「分かった」
入金手続きを完了させた後でステラさんは他の受付嬢に引き継ぎを行い、一度関係者以外立ち入り禁止のエリアに引っ込んだ後、荷物を持って俺の許にやってきた。
「お待たせしました」
「ああ、今日は本当にありがとうな」
「き、気にしないでいいですよ。いきましょう」
「分かった」
わざわざ早退してまで俺をオークションに連れて行ってくれる彼女に礼を告げると、彼女はアワアワと手を振った後、先導するように先に進んでしまった。
俺はそんな彼女を慌てて追いかける。
「おい、見たか、今の……」
「俺たちのステラちゃんが!!」
「あんなどこの馬の骨とも知らない男と一緒に帰るだなんて……」
「あいつなにもんだよ……」
俺の背に何やら騒いでいる探索者の声が届くが、詳細までは聞き取れなかった。
「あっ。すみません、早足になってしまって……」
暫く歩いた後でステラさんがふと立ち止まったかと思えば、振り返って俺に頭を下げる。
「いやいや大丈夫だから。それよりもこれからどうするか教えてくれ」
「そ、そうですね。まずこのオークションは多数の身分の高い方が出席されるイベントになるので正装をしていただく必要があります。なので、会場に行く前に貸し衣装のお店に行って服を借りようと思います。その後で会場に向かいます」
「なるほどな」
オークションにはドレスコードが必要なのか。俺一人だったらそんなことも知らずに招待状だけ持っていって、入り口で門前払いを食らって途方に暮れていたかもしれないな。
本当にステラさんには助けられている。
「正装はお持ちではないですよね?」
「当然な」
一応といった感じで尋ねてきたステラさんに肩を竦めて返事をした。
「それでは行きましょう」
「分かった」
俺たちはまず着替えるために貸衣装屋を目指して歩き出した。
「それではまた後程」
「ああ」
店についた俺たちは各々衣装を選んで着替えるために別れた。今回はステラさんが一緒に行ってくれるので彼女の分も用意する必要があるからだ。
「後で決済する時は彼女の分も俺のカードから引き落としてくれ」
「分かりました」
俺はステラさんの分の貸衣装代も引き落としてもらうように言い含めておく。付き合ってもらうのに彼女に払わせるのは悪いからな。
「お客様はどのような衣装にされますか?」
「俺はあまりゴテゴテしたものは好きじゃないから、スッキリとして落ち着いた雰囲気の衣装にしてくれ」
「分かりました」
俺の要望を聞いた店員がいくつかの衣装を持ってきてくれたので、俺は試着室で合わせて、一番しっくりときたシンプルなスーツに着替えて、待合室のソファーに腰かけてステラさんが戻ってくるのを待った。
「お、お待たせしました……」
待合室にやってきたのはどこかの姫でも通りそうな可憐な女性。彼女は金髪のロングヘアーを後ろで結ってまとめ、エルフである彼女の尖った耳が大きく露出している。
そして、深い青のオフショルダーのドレスを身に纏っていて、露になっている胸元が目に毒だった。
「ステラさん……なのか?」
「え、ええ。どこか変ですか?」
俺が少し呆然としながら本人確認を行えば、ステラさんは困惑しながら返事をしつつ、自分のあちこちを見やってから俺に問い返した。
「いや、変だなんてとんでもない。とても似合っている。見違えたよ」
「そ、そうですか。それは良かった」
不安そうな彼女を安心させるようにきちんと褒めると、彼女は照れて少し俯いて返事をした。
普段のきっちりとしたギルドの制服姿とは違い、まるで別人のように女性らしさが溢れていて、一瞬本当にステラさんなのかどうか分からなかったほどだ。
「それじゃあ、これで頼む」
「承知しました」
これでドレスコードは問題なさそうなので俺は支払いを済ませる。
「あ、私のも」
「ここは俺が出すから気にしないでくれ」
彼女もカードを出そうとするが、俺が手でそれを押しとどめる。
「い、いえ、そんな悪いですよ」
「時間外に付き合ってくれるんだ。それくらいさせてくれ」
「わ、分かりました。今回だけですからね」
「ああ、分かったよ」
彼女は困惑していたが、今日の礼だと言えば納得してくれた。支払いを済ませた俺たちはオークション会場を目指した。
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