親友の女の子に恋した私の話

葉羽

例えるなら灰色

 最近、というかここ数年の間。よくジェンダーやRGBTなんて言葉を耳にする。


 すごく簡単にいってしまえば、いろんな性別があることを知ろう、いろんな恋愛対象者がいることを知ろう、こんな感じ。適当かもしれないけどまぁ大まかに内容をまとめるとしたらこんなものだと思う。もちろんこれだけではないのはわかっているけれど、どんな感じなのかと知らない人に大まかにでも把握してもらえればいいとだけ考えただけなので、この文章を読んで興味を持った人はぜひ調べてほしい。


 さて、さっそく本題というか私の話したい内容について暴露してみようと思う。今まで家族にも友人にも話したことのない一人だけの秘密。そういうとなんだかカッコよく思えるけど、そんなにいいものじゃない。


 最初にあんな話題を出して題名もこんなだから、きっと性別や恋愛対象者が他一般とは違うのだろう、と推測してくれた人がいるなら大正解。私は恋愛対象者が少し人とはずれているらしい。


私は女として生まれて、女として成長した。それを不思議がったことはないし、ピンクも可愛らしい服も特別嫌いじゃない。男らしくありたいと思ったこともない。でも、中学生のころ好きになったのは親友の女の子だった。


 その子をAとする。Aは小学校5年で私の通う小学校に引っ越してきた。最初の印象なんてもう覚えていないけど、ひと目見て運命を感じた、とかそんなのでは全くなかった。仲良くなれたらいいな、とは思っていたけど、少し自分とは合わなさそうだな、とも感じたのを覚えている。

 

すごくハキハキ話す子だった。すぐに友達ができて囲まれていた。その頃からもうコミュニケーション能力が高くて、知らない人ばかりの教室でもいつも楽しそうに笑っていた。私はAを見てすごいなぁと感心していただけだった。


 最初は全く話さなかった。でも住んでいる団地が同じで家が近かったから、いつのまにか一緒に帰るようになって、いつの間にか教室でも話すようになった。そこからクラスで一番Aと仲良くなった。あっという間で、どうしてそうなったのかもわからない。でもAの隣にいるのは私で、2人一組になれと言われて真っ先に向かうのがAのところになった。


 中学生になって、Aと私は地元の同じ中学へ進んだ。5クラスある中で、奇跡的に私たちは同じクラスになった。小学校では同じクラスの人が25人しかいなかったから、同じクラスになるのは単純に考えて5人。その中で私たちが一緒になったのは、本当に奇跡だと思った。


 私は中学に入ってから自分の容姿に自信が持てなくて、自分にまで自信がなくなって、すごくおとなしい子になった。


人見知りは元からあったけど他の小学校からきた人たちが怖くて仕方なくて、自分からは誰とも話さず席で本を読んでいるだけだった。


そんな私に話しかけてくれたのはAと、同じ小学校の数人。その数人もそのうち話さなくなって、Aだけが休み時間のたび私の席まで話に来てくれた。でも私はそんなAを気にせず本を読んだ。話なんてろくに聞かず、適当に相槌を打つだけでAの顔すら見なかった。

嫌われるかもしれない、もう話してくれなくなるかもしれない、そんなことも思ったけれど、一度本を読み始めてしまうと読み終わるまで他に意識がいかない性質が私にはあった。これを読み終わったら、自分から話しかけに行こう。そう考えているうちに、私が1人で本を読んでいるうちに、Aはクラスでたくさん友達を作っていた。


 Aは正直勉強もできないし、すごく可愛らしいわけでもない。ただ、友達を作るのが上手だった。天才なんじゃないか、そう思うくらいに人の心に入り込むのがうまかった。


 Aには趣味がたくさんあった。だからいろんな人と共通の話題を持って盛り上がれた。


Aは相変わらず私の隣にいてくれたけど、私を放って他の友達のところに話に行くことも多かった。当たり前のことだけど、A以外にろくに話せる人のいない私はAに置いていかれたら一人ぼっちだから、誰もその場に友達がいなくてもAに金魚の糞みたいについて行って、抱きついて待っていた。できるだけ気配を殺して、誰の目も見ないで、話だけ聞いて待つ。それが日常だった。それでも側にいて声を聞ければ私は満足だった。


 Aは私にいろんなことを勧めてくれた。私はそのほとんどに興味が持てなくて、話を聞いているだけだった。でも私はAの話を聞くのが好きだった。いろんなことに視点を向けて、知らなかった世界を教えてくれるAが好きだった。


 私がAと関わったのは五年間。短いと感じる人もいるかもしれないけれど、小学生中学生の五年間はすごく長くて大切な時間。


私が今小説を書いているのも、Aがアニメや漫画、小説が好きで教えてくれたからだ。今の日常生活も、ふとした時にでる仕草も、なんなら笑い方まで、全てがAに感化されて変化している。家族に言われて初めて気がついたことだけれど、小さな頃の五年間はそれほどまでに大きなものだと理解してほしい。


私はその大切な五年間全てを、Aの1人に勝手に捧げていた。


 話を戻すと、私たちの通う中学では一年生から二年生になる間にクラス替えが行われる。クラス替えの前には全員が先生と面談して、一緒のクラスになりたい人となりたくない人を教える。


私は一番にAと一緒になれれば誰と同じクラスでもいいと伝えた。Aはなんと答えたのか、気になったけれど私は聞かないでおいた。名前を上げていないと言われたら少しどころではなく辛いし、なんなら立ち直れなくなりそうだったから。


 高校生になった今、同じ中学だったちょっとした情報通の友達から話を聞くと、Aは私と同じクラスにならないなら不登校になる、と先生に伝えていたらしい。


 2年生になって、結果私たちはまた同じクラスになった。そのクラスでも、Aはすぐに友達を作った。でも、Aの一番は私だったし、私の一番はAだった自信がある。


 一時期、どうしてなのかはわからないけれど、Aが私に「愛してる」と何度も何度も言ってくるときがあった。ただ嬉しかった。でもどうせ私以外の人にも言っているんだ、とまともには受け取らなかった。受け入れて本気にして、後悔するのは私だけだからと。



「27歳になって独身だったら結婚しようよ」



 中二の夏にそう言われた。どうせすぐ忘れるくせに、と思った。でもやっぱり嬉しかった。嘘だとわかっても、適当だとわかっても、どうしようもなく嬉しかった。


その時にようやく、私はこの人が好きなんだと気がついた。辛かった。


Aは色々と適当だから、約束はすぐ忘れるし待ち合わせは遅刻するし自分の言ったことはわからなくなるしで、一緒にいて疲れることの方が多かった。言葉も私に対してのあたりも厳しくて、どうしてそんなこと言うの、と傷ついたこともあった。


それでも好きだった。それでも一緒にいたかった。

だから、約束したってどうせ忘れるんでしょ、といった。Aは絶対忘れない、本当に約束だからね、迎えに行くからね、そう笑った。その日が多分私のこれまでの人生で一番幸福を感じた日。


 三年生にもなると私にもAにも友達ができて、私とAとを含む4人で行動することが増えてきた。そして、三年生になると進路について考える機会がやってくる。


私は特別頭がいいわけじゃないけど、学年でたまに一桁入るくらいの頭は持っていた。というか、その分の勉強はしっかりしていた。対してAは勉強が嫌いで成績もよくない。


2人で帰る道中、Aは地元のそこそこ頭の悪い高校に行くから、一緒にその高校に入らないかと誘ってきた。同じ高校に入れば今と同じように2人でいられるし、毎日遊べる。だから一緒に行こうと。

でも私がその学校に通うには、かなりレベルが低かった。先生からも親からも止められるくらいには学力が低い高校だった。


 結局私はAと同じ高校にはいかないことにした。私の親はその高校の卒業生で色々と大変な思いをしたからもっと頭のいい高校に入って、できるだけ苦労しないでほしいと言われてしまえば、その高校に行こうとは思えなくなった。


その時から、Aは私に冷たくなった。見切りをつけた、と言うのだろうか。飽きられた、と言うのだろうか。

よくわからないけれど、この時から私はAに見限られていたのだろう。一気に話す機会が減って、態度も変わって、ああ嫌われたんだな、と思うには十分な扱いに変化した。


 Aがクラスの子と話しているのを見ると、異様に胸が圧迫されて苦しくて、頭が小さくなったように思考が染まる。話しかけた声が無視されると、目の前が真っ白になる。前ならAからきてくれたのに、その頃には私からAの元へ行くことしか無くなって。私をAが追いかけていたのがいつの間にか逆転していた。


 全てが辛かった。学校に行きたくなかったけれど、私が休んでいる間にAが他の人と仲良くなるのが許せないから、学校には絶対にいった。


 前は一緒に移動教室にいった。そのころはAは誰と行くでもなく1人で私を置いて移動した。

前は何も言わずとも2人で登下校をした。そのころは声をかけておかないと一緒には帰れなかった。

前は私の席に来て話をしてくれたし、Aから話しかけてくれた。そのころは私からいかないと違う友達のところにいって私とは視線も合わせなかった。

それどころか、私がAに触ったり挨拶をしたり抱きついたりするだけで顔を顰めて嫌がった。もうやめようと思っても、それしかAの気を引く方法が思いつかなくて、ずっとやめられなかった。


 私は生徒会に入って、より一層Aといる時間が減った。なんなら1日で一言も会話をしない日もだんだんと増えて、私の声に応えてくれたり向こうから話しかけてくれた日はテンションが高かった。目を合わせて会話をすると、なんだか相手と通じ合えてる心地がしてよかった。1日一言、それだけで私は幸せになれた。


 Aは徹底的に私と縁を切るつもりらしいと気がついたのは三年生の中盤。突然「高校に入ったらラインも電話も消して一生会わないからバイバイ」と笑いながら言われた。

本当に突然だった。


4人で楽しく話している中で、急にそんな会話をぶち込まれたのだ。当然驚いたけど他の2人は笑いながら冗談でしょ? といっていた。


私だって冗談だと思いたかった。でも本当にやりそうだな、となんだか納得してしまった。Aはそう言うところが潔くてさっぱりしすぎている人だから。

中学の縁を全て切って、新天地で新しい友達と生きていくのだろう。小学校の頃と同じように。そう、私1人だけが納得した。その夜には1人で泣いた。


 Aは本当によくわからない人だった。

私のことが嫌いで縁も切りたいと思っているはずなのに、私1人だけを祖母の家に誘った。私1人だけを、だ。そんなの、勘違いしてしまう。自分だけが信頼されているのだと、一番好かれているのだと、無謀すぎる勘違いをしてしまう。もうやめてくれと思った。どうせ関わらなくなるなら、あと腐れないようにきっぱりさよならしてほしいと。

それでも、毎日が苦しくて辛くても、たまにくれる優しさが泣きたくなるほどに幸せだった。


 ずっと特別になりたかった。どうせ高校に入って関わらないのなら、好きだと伝えようとも思った。

……でも、勇気は出なかった。もしかしたら高校に入っても話してくれるかもしれない、そんな希望が捨てきれなかった。臆病だった。


それに、思いを伝えて断られるならまだしも、「気持ち悪い」と言われて仕舞えば、もうどうしようもならないと思った。不登校どころじゃすまない。想像だけで、死んだ方がマシなんじゃないかと思った。結局は何も言えずじまいだけれど、心の奥底にずっと思いは燻り続けていた。


 そして、この長ったらしいエッセイのクライマックス。

三年生の最後。受験期が訪れた。Aの志望校は前期選抜があり、筆記試験なしに面接だけで浮かれる人もそこでは出てくる。仲の良かった4人グループのうち、Aともう1人、Bの2人がその高校の前期選抜を受けるらしかった。そして合否発表。結果、Aは落ちてBは受かった。そこまでは、まぁよくはないけれど問題はなかったのだ。問題が起きたのはそこから。


 合否発表の次の日、私は普通に登校してきた。1人で行きたいと言われてしまったからAとは別だ。


私が学校についた時にはすでにBは登校していて、私は真っ先にBに駆け寄り合否を聞いた。Bは微妙な顔で、「受かった」と言った。


もちろん私は喜んでいたが、Bの顔を見てもしかしたら、という嫌な予感が頭をよぎっていた。


そしてその予感は的中した。

Aは落ちた、とBは言う。私はAとどう接すればいいのか、わからなくなった。勝手にAの合否を聞いてしまった罪悪感もあるし、Aが登校してきて最初になんて声をかけたらいいのか思いつかなかった。


最終的に、私はAのもとへいかなかった。行けなかった。私が言って声をかけたところでどうにもならないと思ったのもあるし、本人から聞いてもいない合否について慰めるのも何だか嫌だった。だからといって何も知らないふりをして本人に合否を聞くのは酷だと勝手に判断して、私はAに話しかけなかった。


 朝の挨拶が終わって、Aは泣いていた。

どうして泣いているのかはわからなかったけれど、衝動的に慰めにいかないとと思って席を立った。その途端Aは先生に呼び出されていってしまった。多分前期選抜を落ちた後だから、これからどうするのか、と言う相談をするのだろうと思った。


私はやっぱり本人のところへ言って話した方がいい、そう思ったから帰ってきたら話そうと決意した。でもAは授業が始まるギリギリに帰ってきて、話はできなかった。それからもなんだか話しかけるタイミングがなくて。他の人に慰めてもらっている様子を見て、私がいなくても平気なんじゃないか、私が慰めない方がいいんじゃないいか、と思い始めた。

私は嫌われているから、今話しかけに行くのは間違ってるんじゃないかと思った。余計に嫌な思いはしてほしくないと、馬鹿なことを思ったのだ。


 その日の午後になって、Aはようやく笑顔を見せ始めた。だからもう大丈夫かな、そう思ってようやく私はAに話しかけた。Aは私の話を何も聞かずに「ラインブロックするから。ハブならもういいよ、じゃあね」と言って走って逃げていった。


 私には少しショックが大きすぎた。でもその言葉は本当なんだろうな、と確信していた。


Aが下校する時、お揃いで買ってくれたくまのぬいぐるみがカバンについていなかった。Aと話がしたくて、一緒に帰ろうと声をかけたらまた走って逃げた。


私とAは通学路が同じ。このまま帰ったら会うかもしれない。そう考えたらもうどうにもならなくて、歩ける気もしなくて、祖父に迎えにきてもらった。どうした、と聞かれたけど何も言えなかった。次の日は始めて学校を休んだ。私は始めて失恋というものを体験した。最悪の気分だった。


 それから卒業までの一ヶ月近く。私たちは一言も話さず目も合わせず生活した。


Bは自分が勝手に合否をバラしたせいでAと私がこんなふうになってしまったと責任を感じて、Aと色々話もしたらしい。話し合いで、これからは仲直りしてまた前みたいに4人でいよう、とAとBの中で話がついたんだとか。


でもそんなの私は知るはずないし、Bはそう言うけどAは相変わらず近寄りすらしない。相手から関わる意思がないなら、もういいやと私は諦めた。だってどうせ高校に入ればブロックされて合わなくなるんでしょ? と無理やり思い込んだ。


 Aは影からコソコソ仲間を増やしていった。私は先生にも呼び出されて、「Aさんと何かあったの?」なんて聞かれたりもした。適当に誤魔化したけど、Aはもう先生に有る事無い事実際に相談していたのだろう。あの子は、そういう子だから。


 ずっとずっと好きだった。でもAの汚い一面を真正面から受け止める立場になって仕舞えば、泣き崩れたばかりの私の心は簡単に掌を返した。嫌い、という反対の感情を持つことによってきっぱり諦め切れるかもしれないとも思って、私はAを徹底的に嫌いになることにした。そんなことできるならもっと前からしていたというのに。


 結局できるわけもない計画は全ておじゃん。コソコソと呟かれる悪口やストーリーに載せられる悪口も、全て私のもとへ届いた。なんでこんな人好きだったんだろう、と思った。でも毎晩毎晩Aの夢を見た。嫌いになんてなれるわけがなかった。何も私は諦めきれなかった。


それは高校生になった今でもそう。あの時躊躇わずに話しかけていれば今どうなっていたんだろう。そんな妄想を何十と重ねて、捨てきれずに記憶の奥底にしまっておいた。

私の恋は、こんなもの。




 すごく暗い話で、説明も下手くそ、しかも読みにくい文章でごめんなさい。私は恋愛対象に関して誰にも明かしたことはありません。告白もしないまま全てが終わってしまったから。


 この話を読んだ人は、ぜひ自分の想いを伝えることを躊躇わないでほしい。絶対に後悔をするから。同性でも異性でも、自分の感じたことをすぐに伝えるのは大切。私のように同性を好きになった人も、きっと怖いと思う。振られる、とかの恐怖よりも、私は気持ち悪いと思われて遠ざけられるのが震えるくらいに怖かった。伝えないのも、一つの選択ではある。でも、最後の最後でもいいから、勇気を出して見てほしい。どうか私のようにならないでほしい、と思う。


 全てが自業自得で、自己満でしかないこのエッセイもどき。ここまで読んでくださった方に、最大の感謝を。


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