真紅と漆黒
火の塔 最上階
部屋は灼熱地獄と化していた。
門を背負い立つアルフィス、玉座を背負い立つロゼ。
その中央には、人間の体ほどの大きさの"真紅の大剣"が突き刺さっていた。
竜の骨で作られたその大剣の形は
大剣が突き刺さった場所から亀裂が無数の亀裂が入り、それが天井まで至る。
亀裂からは真っ赤な炎が吹き出し、触れれば人の体など一瞬で溶けてしまうほどの熱量だった。
「今度は……俺からいくか」
ロゼの闘気は実質見えない。
それは、この部屋を覆い尽くすほどの大きさのため、アルフィスには闘気による先読みができなかった。
ロゼの立つ場所に爆発が起きた。
その衝撃を利用して猛スピードで移動する。
玉座から、入り口の門へ、天井、そこからアルフィスへ向けて急降下。
アルフィスの立つ場所へ拳を打ちつける。
それを中央の方へ回避したアルフィスは、真紅の大剣を背負う形だ。
「そっちに回避していいのか?」
「なに?」
瞬間、床に突き刺ささる大剣から凄まじい熱波が放たれた。
アルフィスは熱波による高熱と衝撃を背中に感じると、一気にロゼの方へと吹き飛ばされる。
「なんだと!?」
「お帰り、お坊ちゃん」
ロゼの真紅の炎を纏った右ストレート。
その拳はアルフィスの頬を直撃した。
当たった瞬間、凄まじい爆発を起こすと爆炎が上がり、アルフィスは大剣の方へと吹き飛ばされる。
「"
魔法はロゼ本体からではなく、大剣から発生した。
大剣全体から炎が渦を巻き、巨大な炎の竜が現れ、床を転がったアルフィスに襲いかかる。
「"
転がるアルフィスは瞬時に受け身を取ると、熱波のフィールドを展開。
巨大な炎の竜は、熱波の威力で吹き飛んだ。
攻撃を受けながらもアルフィスはロゼの攻撃に冷静に対処していた。
完全に真紅の大剣を背負う形のアルフィスは、その熱量を背中で感じつつロゼの方を見る。
だが、入り口の門前にいたはずのロゼは姿を消していた。
「どこ行った!?」
「ここだ、ここ」
ロゼはまたしても爆発の衝撃を利用して高速移動していた。
横の壁から斜め上へ飛び、天井から急降下、アルフィスの目の前に降り立ったロゼは左拳を腰に構える。
「"魔力武装"……ああ、あとこれもオマケだ……闘気・
左拳はアルフィスのボディに入った。
それは、あまりの衝撃で空圧が広がる。
さらにロゼの左拳は大爆発を起こし、背中から大剣に激突する。
「がはぁ!!」
背中は灼熱の温度を持つ大剣によって凄まじい熱さに焼かれる。
意識が吹き飛びそうになるほどの激痛が走った。
「こういうのも、なかなか面白いな」
「くそっ!!」
ロゼは、さらに一歩踏み込み両拳による無数の連打を放つ。
アルフィスにも匹敵するほどの高速連打は上半身の骨を砕く。
「こうやるんだったか?」
「が、はぁ……」
背後にある灼熱の業火と正面からの猛打撃はアルフィスを無慈悲に痛めつけた。
そして、追い討ち、ロゼは顔面狙いで右ストレートを放つ。
「舐めてんじゃねぇぞ!!テメェ!!」
アルフィスの激昂。
瞬時に一歩踏み込み、こちらも右ストレートを放った。
拳と拳がぶつかると、ドン!という鈍い音とともに、部屋の中央に大爆発が起こる。
爆煙が上がり視界が遮られる中、再び巨大な炎の竜が飛び出すと、アルフィスを咥えて四方八方、壁や天井、床を抉るように叩きつけた。
部屋の入り口付近、空中。
滞空中のアルフィスは熱波のフィールドを展開すると、炎の竜を消した。
しかし、消し飛ばした瞬間、真下にロゼが現れ拳を放つ。
拳がアルフィスの胸に直撃した。
叩き込んだ瞬間の轟音は部屋に響き、さらに大爆発を起こすと、アルフィスは天井に大の字で叩きつけられた。
ロゼは、その攻撃による爆発の衝撃を利用して、急降下。
着地した瞬間、さらに爆発を起こして高速移動し、玉座の前に立った。
「これで終わりとは言わんよな?アルフィス・ハートル。お前は、この玉座を求めて来たのだから」
ロゼは笑みを浮かべ、天井から落ちるアルフィスを目で追った。
それは期待感からだった。
"落ちる途中、消えて、目の前に現れて攻撃を再開する"……そんな動きを期待していた。
だが、アルフィスは、そのまま床へ落ちた。
胸には拳ほどの大きさの穴が空いたままだ。
「そうか……惜しいな……」
ロゼの大きな溜め息は部屋に響くほどだった。
笑顔は消え、玉座を触る。
そのままロゼは玉座に座ろうと腰を下ろしかけた瞬間だった。
玉座の横から何かがロゼを襲ったのだ。
「いや!!そうこなくては……せっかちはよくないよなぁ。俺の悪い癖だ」
巨大な"黒炎竜"に咥えられたロゼは壁に叩きつけられさらに天井へ、最後は玉座の少し前の床に叩きつけられる。
そして黒炎竜は大爆発を起こし、ロゼは爆炎に包まれた。
「ロゼ……俺は何がなんでも、お前に勝つ……俺の願いを叶えるために」
アルフィスは入り口付近に立っていた。
お互いが最初の位置に戻った形だった。
「いいねぇ。俺は、お前が気に入ったよ、アルフィス・ハートル。お前の名は永遠に忘れることは無いだろう」
黒煙に包まれていたロゼは熱波で、それを吹き飛ばした。
口に溜まった血を唾と一緒に勢いよく床に飛ばす。
上半身は焼け焦げた跡があり、そこから見るにダメージは確実にあった。
「俺も本気でいく……ヴォルヴ・ケイン……リミッター解除」
アルフィスの立つ場所に熱波が何度も広がる。
黒炎が部屋を覆い尽くし、赤かった部屋を漆黒に染め上げる。
アルフィスの白髪は腰まで伸び、目元には赤く血管が浮き出る。
両腕のシルバーガンドレットは形状を変えて、胸まで覆った。
その姿を見たロゼは今までに感じたことのないような高揚感の中、ニヤリと笑った。
「最終ラウンド……"真紅"と"漆黒"、どちらの炎が強いか……決着をつけようではないか」
「ああ。名残惜しいが……決着はつけねぇとな」
アルフィスも笑みを溢していた。
それは間違いなく、アルフィス自身も高揚していることを意味するものだった。
"今まで経験したことのない最高の戦い"
そう思うと、自然に口元が緩む。
アルフィスとロゼの戦いは、いよいよ終わりを迎えようとしていた。
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