燃ゆる空間
玉座に座るロゼへ到達したアルフィス・ハートルは右拳を腰に構えていた。
体に纏った
右腕のガンドレットには黒い炎が渦を巻き、さらに前に出した左手を広げると黒炎の小さな球が発生する。
この二つの魔力収束は一瞬のうちに行われた。
攻撃は顔面狙い。
アルフィスは左腕を引き、右拳を突き出す。
ロゼの目の前にあった黒炎の球を渾身の右ストレートで殴った。
「"
ロゼはすぐさま反応して左手のひらを広げて真紅の熱波でフィールドを展開。
「"
アルフィスの拳とロゼの熱波のフィールドの間にある黒炎の球は凄まじい勢いで連続した爆発を起こす。
「なぜ生きてる?普通の人間なら形も残らんほどの攻撃だ」
「それは、てめぇの魔法が、"なまっちょろい"ってことだろ?」
そのアルフィスの言葉にロゼは少し驚いた表情すると、すぐに鋭い眼光で睨んだ。
ロゼの上半身の筋肉が引き締まり、さらに腕に力を入れるが、アルフィスの黒炎の拳を押し切ることができない。
「まさか……俺が押されている?」
ロゼのフィールドにヒビが入り始める。
それは、だんだんと広がり、遂に粉々に砕け散った。
それを確認したアルフィスは一瞬で右手を引き両腕を腰に構えた。
ガンドレットに纏った黒炎が今まで以上に燃え上がる。
「"
両拳、音速の六連打。
玉座に放たれた、その攻撃は瞬く間に爆炎を上げる。
爆発音が連続するが、それは七度聞こえた。
「まさか……この俺を……」
アルフィスは爆炎が晴れた玉座を見るが誰もおらず、その声は後方、部屋の中央付近で聞こえた。
振り向くと、ロゼが鋭い眼光を向けて立つ。
ロゼは自分の爆炎の魔法の衝撃を使い、玉座から一瞬で離れ高速移動していた。
「ようやく立ち上がったな」
「この俺を、立ち上がらせるだけでなく、移動までさせるとは」
2人の睨み合いは数秒間続いた。
そこから最初に動いたのは玉座を背負うアルフィス。
ビュンと音を立てて姿を消すと赤い歪な線が猛スピードで部屋の中央に立つロゼへ向かう。
「貫け……"
アルフィスの攻撃は"闘気"の動きでわかった。
"左拳のアッパー"
だが、そのスピードはロゼが今までに見たことのないほどの動きだった。
"肉体"と"闘気"の動きの時間差が、ほぼ無い。
ロゼはすぐさま思考しクロスガードを選択するが、それはアルフィスの狙い通りだった。
アルフィスの拳がロゼの腕を直撃する寸前のこと。
正面、ロゼの腕の下に小さな黒炎の球が瞬時に発生。
アルフィスはその球を殴り、そのままロゼのクロスガードを、すくい上げるように攻撃した。
拳を振り上げるとズドン!!と凄まじい轟音と共に大爆発が起こると、爆炎にアルフィスとロゼが包まれる。
アルフィスが、さらに一歩踏み込むと熱波で黒煙が周囲へ吹き飛ぶ。
ロゼはガードが崩れて完全に仰け反っていた。
「闘気・
そこにアルフィスが、ゆっくりとロゼの胸に右拳で軽く触れる。
闘気を纏った右拳を少し前に突き出すとロゼの胸骨が砕けるほどの衝撃を与えた。
ロゼは、そのまま後方へ吹き飛び、入り口の扉に大の字で激突した。
「ぐはぁ……!!」
「これで終わりだ」
アルフィスは左手を前へ右手を腰に構える。
広げた左手の指先に、黒炎の球を一瞬で発生させると、すぐさま左ジャブを打つ。
撃ち出されたのは漆黒のレーザーで、それはロゼへと当たる。
「"
さらにアルフィスは左ジャブの引き際、黒炎の球を一瞬で発生させると、それを再びジャブで撃ち出す。
それを高速で数十回繰り返す。
撃ち出された無数の漆黒のレーザー砲は着弾するたびに爆発を起こし、もはや入り口の扉付近は大きな黒煙で何も見ない。
右拳を腰に構えたアルフィスは、その場から消える。
赤い直線が入り口の扉へと向かい、磔にされたロゼへ高速の右ストレートを打っていた。
扉に打ち込まれた右ストレートの衝撃で黒煙が広がって晴れる。
だが、そこにはロゼの姿は無かった。
「こいつを受けて、まだ動けるのか……」
アルフィスは玉座の付近に気配を感じ振り向く。
見るとロゼは玉座の前に立ち、口から出た血を腕で拭っていた。
ニヤリと笑うロゼだったが目は全く笑っていない。
アルフィスを睨む眼光は殺意を超える何かを感じさせる。
「凄まじ強さだ……"肉体"と"闘気"の動きの時間差が、ほとんど無い人間なんて見たことがない。それに、この恐ろしいほどの成長スピード……ここまで来るだけはあるな」
「……次は、そのムカつくツラに一撃入れてノックダウンだ」
「なるほど、俺は、お前を
アルフィスは玉座の前に立つロゼへと一歩踏み出した。
完全に次の攻撃で終わらせる……そう思っていたのだ。
「全開でいこうか」
「全開だと?」
「俺の"魔法具"を見せてやる」
そう言うとロゼが右手を掲げた。
すると部屋の天井付近に巨大な魔法陣が展開する。
「な、なんだ……魔法陣が……黒い!?」
「無属性魔法・空間転移」
巨大で真っ黒な魔法陣に黒い雷撃が走る。
魔法陣からは"大量の水"が滝のように落ち、その中を黒い影が通ると、それは部屋の中央にズドン!と音を立てて突き刺さった。
瞬間、凄まじスピードで部屋の温度が上昇し、水が全て瞬時に蒸発して消える。
部屋の中央を見ると、一本の"真紅の大剣"が突き刺さっていた。
「"竜骨の大剣"……これを人間相手に出すことになるとはな」
「な、なんだ、この魔法具は……」
大剣が突き刺さった床の四方八方に真っ赤な亀裂が入り、それは壁や天井にまで及ぶ。
亀裂からは少しづつ熱が噴射される。
「この魔法具は、ここにあると国土の温度を異常に上げてしまう。数日置いておくだけで人が住める大地ではなくなる。だから普段は北の海に沈めてあるんだ」
「な、なんだそりゃ……」
「アルフィス・ハートル……間違い無く、俺が出会った中で最も強い人間。お前なら、これを使うに値する存在だろう」
"竜骨の大剣"から放たれる熱量は異常だった。
部屋は目で見ると完全に空間が歪み、真っ赤に染まり眩しい。
床から伸びた亀裂からは真紅の炎が吹き出し始め、少しでも触れれば溶けてしまいそうなほどだった。
アルフィスとロゼの戦いは、お互いの最大の力がぶつかり合う最終局面へと突入した。
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