また、いつか、どこかで
火の国 南の野営地
早朝、野営地から少し離れた丘の上。
時より強く風が吹き、草木が揺れていた。
そこは広い平地で中央には大きな木が立っている。
その大きな木を中心として、周囲には多くの石造りの墓が無造作に並ぶ。
墓の数は百を超えていた。
その中にある一つの墓。
四角い石造りで、真ん中には赤い宝石が埋め込んである。
その前に立つのはアルフィスとセレンの2人だった。
アルフィスの手には黒い表紙の本があった。
「すまないな。無理言ったみたいで」
「いや、どのみち、ここの配属になったのなら私の部下に変わりはない。丁重に葬るのは当然のことだ」
「ありがとう。だが、あの薬はどうしてこの国に運ばれたんだ?」
「あれは、妹や部隊の仲間の竜血病を治すために運ばせたんだ。まだ、これからも悪化する者は多く出るだろうから、大量にな」
「なるほどな。しかし、あの小瓶以外、屋敷と一緒に吹っ飛んだんだろ?」
「いや、全て無事だった」
「なに?」
アルフィスは眉を顰めた。
これを画策した"イレイザー"という人間の目的が全くわからなかった。
「地下に、妹達とレイを閉じ込めていたが、そこに一緒にあったんだ。ヤツの目的は殺戮じゃなかった。ただ、正したかっただけなのさ……セレスティー家の所業をね」
「そうか……だが、レイも無事でよかった」
「お前のおかげだ、アルフィス。この礼は存分にさせてもらう」
アルフィスは笑みをこぼす。
だが、すぐに悲しそうな表情に変わった。
「いや、"癒しの薬"で貸し借り無しだ」
セレンにそう言うと、アルフィスはゆっくりと墓の前に歩き、しゃがみ込むと黒い本を置く。
「ん?大事な本なんだろ?」
「貸すって、約束だからな。また取りにくる」
「次はどこへ向かうんだ?」
「会いたい人がいる……そいつに会ってくるぜ」
アルフィスは立ち去ろうと振り向く。
すると丘を登ってくる人影があった。
「ノッポ……デブ……それに、あいつら……」
セレンも、その光景見るとニヤリと笑う。
登ってきたのはノッポとデブだけではない。
南の野営地、全部隊の聖騎士、魔法使い、数十名。
皆の手には一輪の花があった。
「たった一人のために……ここまで……会ったこともないんだぞ」
「確かに、見たことも話したこともない人間だが、そんなものは関係ない。この部隊に入ったからには、みんな家族さ」
「そうか……」
アルフィスは墓へ向き直る。
しゃがみ込み、真ん中に埋め込まれた赤い宝石にそっと触れると、自然に涙が頬を伝った。
「ヴァネッサ……ここに、お前をいじめるやつなんていない。ゆっくり休め。そして、また……いつか、どこかで……」
ノッポ、デブは号泣していた。
さらに集まった部隊全員は真剣な表情だ。
誰一人として、この死を
一人、また一人と順番に墓の前へ出ると、手に握る花を置いた。
アルフィスは、その光景を目に焼き付けると、南の野営地を出発して、セントラルを目指すのだった。
____________
セントラル 南東門
通例のごとく、そこには長蛇の列を作る。
アルフィスが乗る馬車はその列を無視して進むが、何か複雑な気持ちだった。
馬車を降りて検問へ行く。
そこには毎回、対応する顔見知りの聖騎士がいた。
「おう。通してもらうぜ」
「あ、はい!どうぞ!」
「おいおい、どうした、そんなに
「い、いえ!シックス・ホルダーともなれば流石に……」
アルフィスは頭を掻く。
視線を感じ周囲を少し見渡すと、列に並ぶ人々、全員が興奮気味だ。
アルフィスの姿を見た魔法使い達は声を上げ喜び、聖騎士の女性達は顔を赤らめる。
アルフィスはため息をつくと検問にいる聖騎士に向き直った。
「あんまり畏まるな。俺なんて大したことはない」
「い、いえ!そんなことは……」
「最強……、シックス・ホルダー、……なんて言われても、たった一つの命すら守れないんじゃ、そんなもんに何の意味もないさ」
それだけ言うとアルフィスは門を抜けてセントラルへ入っていく。
「あ、あの!どちらまで?」
「風の国に行く」
アルフィスは歩きながら聖騎士に手を振り、セントラルの中へと消えていく。
アルフィスは久しぶりに、一緒に戦ったバディに会うため、また少しだけ長い旅へと赴くのだった。
火の国編 完
____________
火の国
ある日の夕刻のことだった。
"火の塔"は入り口を抜けると螺旋階段がある。
その螺旋階段の数は作った人間ですらわからないほど。
数時間かけて上がると、巨大な門が佇む。
その中には大きな部屋があり、中は黒い壁と、焦げたような匂いが漂う。
そして赤絨毯が一本、部屋の奥へ向かって伸びる。
部屋の奥には数段の段差があり、真ん中には玉座があった。
部屋の天井まで届くほどの炎の彫刻が印象的な椅子だ。
そこに一人の男が目を閉じて座る。
銀の長髪に少し赤が混ざり、後ろで束ねる。
細身の筋肉質、上半身は裸で、下は黒いレザーパンツを着用していた。
足を組み、椅子の肘掛けに、左肘を置き、拳を作って頬に当て寝ている。
男はゆっくりと目を開けた。
その瞳は炎のように真っ赤だった。
「凄まじい気配が二つ……この位置はセレスティー家か」
瞬間、ズドン!という轟音が外に響いたのが聞こえた。
「なんという強さ……この二千年間、感じたことの無い、とてつもない気配だ。これは人間なのか?カインやリーゼ……レノをも超える気配だ」
外には、もう星空が見える。
玉座に座る男はニヤリと笑った。
この胸の高鳴りは何百年ぶりか……そう考えただけで口元が緩んだのだ。
「強さに飢えているのなら、ここまで上ってくるといい。この俺が……"火の王・ロゼ"が遊んでやる」
そう言うとロゼは高笑いした。
温度が上昇し、"真紅"の粒子が部屋中に広がる。
粒は数千、数万にも及び、その一粒、一粒は収束された魔力で構成された"極熱の炎"だった。
そして、ロゼの高揚に反応するかのように、巨大な地震が、火の国の全土を揺らした。
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