デストロイ・インフィニティ



魔竜絶爪ヴォルヴ・ケインの能力は不明。


それは魔竜討伐後、魔女達が宝具を作ってから二千年の間、誰一人として使いこなした人間がいなかったからだ。


魔力覚醒・魔力武装・魔力収束の全てのスペシャルスキルを使用できる。

だが、これはヴォルヴ・ケインの真の能力ではなかった。


真の能力はヴォルヴ・ケインのリミッターを解除した時に発現するが、アルフィス・ハートルは、その前に片鱗を見せていた。


その能力は全宝具の中でも最強。

デメリットも大きいが、下級魔法とスキルの組み合わせによって、それはもはやないと言ってもいい。


ヴォルヴ・ケイン最強の能力。

"デストロイ・インフィニティ"は今、遂に発動した。


____________



火の国 北西街道



アルフォードの周囲は円形の黒火の柱で囲まれるが、それはまさに闘技場。


草木がほとんどない荒野、地面には亀裂が入り、黒炎が勢いよく噴き出ていた。


炎の中から現れた、アルフィス・ハートルをじっと見つめているが、そこに恐怖は無かった。

ただ一つの期待感だけ。


ヴォルヴ・ケインのリミッター解除。

今まで誰も発動させたことのない能力。

それを考えただけで胸が高鳴った。


「まさか、この目で、その宝具の能力を見れるとは」


「これで終わらせる。アルフォード……生きて帰れると思うな」


銀の長髪で、目元には頬にはかけて赤い血管が浮き出る。

真紅の眼光は鋭くアルフォードを睨む。

両腕のガンドレットの形状は胸まで羽織る形で、アーマーと化していた。

全身至る所から黒い炎が上がり、特に両腕は肩まで炎に包まれる。


「見せてくれ……最強の宝具の力を!!」


アルフォードはニヤリと笑うと、先ほどとは比べ物にならないほどの大きさになった黒獅子を地面から這い出させた。

黒獅子は猛スピードで数十メートル離れるアルフィスへと駆ける。


それを見たアルフィスは右手の甲を相手に向け、掲げると力強く、その手を握った。


熱波が広がると同時に、アルフィスの目の前の地面から吹き出した黒炎が、一つ、"炎で模った肉体"が作られた。


それは魔法使い。

ローブを着用し、大きい杖を持つ。

髪は長く、後ろで結っていた。


「"エイベル・獄炎龍壁ドラグニック・ウォール"」


その言葉が言い放たれると、"エイベル"と呼ばれた黒炎の体の魔法使いは大きい杖の先で地面をドン!と叩く。


すると黒獅子の目の前に巨大な黒い炎の壁が現れ、それは炎の闘技場の端から端まであった。

壁は重厚で、簡単には打ち破れそうにもない。


「黒獅子は全て吸い尽くすさ」


「やれるものなら、やってみな」


黒獅子が炎の壁に辿り着くと、口を広げて炎を吸い上げる。

みるみる、その体を大きくさせるが、様子がおかしい。


「まさか……容量が……」


黒獅子は炎を吸収し続けるが、炎の壁は消える事なく、黒獅子の体はぶくぶくと太りはじめ、最後には風船のように膨らんでいた。


「"ヴァイオレット・剛空斬ごうくうざん"」


アルフィスが再度、右手を握る。

熱波が広がり、今度は地面を一本の黒炎が走る。

炎の壁を貫通し、膨らんだ黒獅子の目の前に一本の黒炎の線が辿り着く。


すると瞬く間に黒炎で肉体が模られる。

ショートヘアの聖騎士学校制服を着用した、背の高い女性の姿だった。

その女性は、両手で持つ黒炎の特大剣を地面に擦りつけるようしにて勢いよく振り上げる。


吸収容量が超えた黒獅子の体を真っ二つに切り裂くと、爆風が展開。

二つに両断された体は空中へ高く舞い上がる。


「"ワイアット・竜王炎天りゅうおうえんてん"」


次にアルフィスの目の前に現れたのは短髪でローブ姿の魔法使いだった。


その魔法使いが中型の杖を大きく上から下へ振り下ろすと、空が真っ赤に染まり、雲が集まる。

赤黒い雷撃が雲の中を行き来し、少しおさまった瞬間、赤黒い雷撃は二つに分かれた黒獅子に断続的に落ちると大爆発を起こした。


一部始終を見ていたアルフォードは眉を顰める。


「ありえない……あの炎で作られた体が一つ一つの魔法だとするなら、なぜ魔法中に魔法を使える?魔法は終わらなければ、次の魔法は発動できないルールのはず」


エイベル、ヴァイオレット、ワイアットの炎は残ったままだ。

魔法は連続させる事はできても、前に発動した魔法が終わってなければ、次の魔法を発動できないというのは魔法使いなら誰でも知ってる常識だった。


「まさか……ヴォルヴ・ケインの能力とは……」


「魔法同時発動だと思ったか?違うぜ」


「なんだと」


「これは、全て同じ魔法だ。もう最初の時点で発動してるんだよ、ある魔法を」


「魔法を発動している?」


無限破壊デストロイ・インフィニティ……この魔法こそヴォルヴ・ケインの真の能力」


「どういうことだ?」


「この闘技場にいる間、俺が今までに見聞きした全ての人間の戦い方を"炎"で模倣する。永遠に……相手が死ぬまで」


「なるほど……」


アルフォードには思い当たる節があった。

アルフィスが使っていた魔法の中には、オリジナルの魔法が含まれていた。

剣を作って敵の攻撃を弾いたり、弓を作って飛ばしたり、鎖を作って敵を拘束する。

これらはアルフィスが出会った者、一緒に戦った者の戦い方。


「ヴォルヴ・ケインの能力は"バトルコピー"か」


「まぁ、そんなところだ。あとは、お前だけだぜ、アルフォード」


「まだまだ、魔物は残ってるさ」


「そうか。なら全部出したらいい。こっちも全部出す」


アルフォードはニヤリと笑うと黒海を展開する。

温度上昇で凄まじスピードで蒸発する黒海だが、すぐに魔物達が這い出してきた。

その数は数百を超える。


アルフィスは全く動揺することなく、右手を力強く握る。


熱波が広がると地面から黒炎が吹き出し、その炎は体を模る。


それは長身で軍服の男性のように見える。

目元にはサングラスのようなものを付けていた。

黒い炎の軍服の男は右手に剣を持ち、左手には鞘を持つ。

その軍服の男は、アルフィスの前に現れると、左拳で地面を殴った


「"リヴォルグ・業火の烈竜剣れつりゅうけん・絶"」


地面から這い出した魔物達の立つ場所、地面から無数の炎の剣が突き出す。

剣が全ての魔物の体を貫くと、その体を黒炎で燃やした。


そして数十本にも及ぶ黒炎剣はアルフォードにも突き刺さる。


「な、なんとうい熱量!!がはぁ!!」


耐えられないほどの熱さ。

黒く燃え上がるアルフォードは悶え苦しむ。


だが、これはアルフィスの猛攻の始まりに過ぎなかった。

再度、右手を握ると、熱波が広がる。


「"クロエ・ニー・ストライク"」


アルフィスの目の前で発生した炎の球がレーザーのようにアルフォードへと向かう。

途中、黒炎で肉体が模られる。

ショートカットでキャミソール、ホットパンツの女性が、凄まじスピードでアルフォードの顔面に炎を纏った飛び膝蹴りを当てた。


「"セレン・魔人殺しの拳"」


アルフォードの目の前に、黒炎で模られたロングヘアで赤いチャイナ服のような服装の女性が現れる。

両腰まで切れ目の入ったスリットスカートだ。

女性は一歩前に踏み込むと、炎を纏う右のアッパーモーションを取る。

その拳はアルフォードの顎に直撃し、振り抜くと大爆発を起こす。


数十メートル、数百メートルもの上空へと打ち上げられるアルフォード。


「"ナナリー・リモータルドラグーン"」


次に黒炎で模られた女性は真っ黒なロングヘアで日本人形のような髪型、聖騎士学校の制服に似たブレザーを着ており、上からマントを羽織っていた。

剣は歪な骨のようで、そこから伸びる炎の鎖は空中へと向かうと、アルフォードへと巻きつく。

それを一気に振り下ろすと地面へと叩きつけられた。


「"シャドウ・重死船おもしぶね・爆"」


黒炎で作られた真っ黒な鎧に身を包む聖騎士。

腰に差した火縄銃のような剣のトリガーを引く。

すると空中で爆発が起こり、その衝撃波は凄まじい重力となって地面に倒れるアルフォードに追い討ちをかけた。


「"メルティーナ・ブラックローズ・ショット"」


アルフィスの近くに現れたツインテールの軍服姿の女性。

弓を構えて射出すると、それはアルフォードが倒れる場所へ直撃。

着弾地点に巨大な炎の黒い薔薇が咲き、連続した爆発を起こす。


「"ノア・ライトウィングブレイク"」


アルフォードの上空に黒い炎の塊が出現する。

それは瞬時にショートカットで聖騎士学校の制服を着た小さな少女に姿を変えた。

その体に見合わない黒炎の大剣を両手持ちで、振り上げ、地上へ降り立つと同時に振り下ろす。

ズドン!という轟音が響き渡り、黒炎は火柱になって天まで燃え上がった。


「"アゲハ・天覇一刀流・胡蝶・演舞の刃"」


黒炎で模られたポニーテールの女性。

聖騎士学校の制服で、左腰に黒炎の刀を構える。

女性は音もなく一瞬だけ抜刀し、即座に刀を鞘へと戻す。


斬撃は飛び、アルフォードに直撃すると体は吹き飛ばされ、その先で無数の斬撃に襲われた。

全ての斬撃には爆発が付与され、連続した爆発で黒煙が上がる。


「"ヴァネッサ・レディナイトソード"」


アルフォードの滞空中。

黒い炎は女性的な体の黒い鎧を模る。

片方の背中には3本の細い羽が生えていた。

鎧の女性は剣を下に構えると、羽ばたき、ビュンと消えてアルフォードが吹き飛ぶ方向へと飛んだ。


黒煙へ入り、アルフォードと共に猛スピードでそこから出る。


空中でヴァネッサの斬撃はアルフォードの首元へ。

熱を帯びる剣は簡単に、その首を斬り落としそうな勢いだった。


「まだだ、僕は……大いなる目的を……」


アルフォードはヴァネッサの剣を掴んだ。

手は大きく黒炎で燃やされるが構わなかった。

このまま振り抜かれたら死ぬということは容易に想像できたからだ。


「アルフォード……最後に母さんからの伝言だ」


「アメリアから……?」


「"また、いつか、どこかで"」


「……そうか、アメリア、僕は……」


アルフォードの剣を掴む手が緩む。

その一瞬の隙を見逃さなかったヴァネッサの形をした黒炎は、剣を一気に横へ振り抜いた。


アルフォードの首は胴から離れると、どちらも黒炎に包まれ、一瞬で灰になる。


だが、その一瞬はアルフィスにとって"永遠"のように感じられるのだった。

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