魔牙の四王天竜
セレン・セレスティーは大急ぎで馬を走らせた。
全く休みを取らず、ただ走り続け、モーンを出発した二日後の昼過ぎには中央ラザンに到着した。
検問を無視して、セレスティー家に、そのまま馬で向かう。
今までの人生の中で、ここまで焦ったことがあっただろうか……そう考えつつ、セレスティー家の門を
馬は中央の噴水が目の前に見える、屋敷の入り口、数十メートルで手前で止まった。
セレンは細目で入り口のドアを見ると、1人の貴族服の男が出てきた。
赤色と銀色が、ちょうど半々の短髪。
ワインレッドの貴族服。
キリッときた顔立ちで、左目には傷があり潰れ、左腕も袖を結んでおり、それは左腕が無いことを示していた。
「イレイザー……リエン卿……」
セレンは、そう呟き、馬を降りる。
その男との距離は数十メートルはあったが、百戦錬磨のセレンですら今までに感じたことのないほどの強者の圧を、イレイザーという男から感じていた。
「セレンか……大きくなったな……」
「屋敷には父上や妹達、レイア、私の部下がいたはずだ……」
「さぁ?どうしたんだろうね?もしかしたら、この薬と一緒に消えて無くなったのかもしれんな」
そう言ってイレイザーは服のズボンのポケットに手を入れて小瓶を取り出す。
中には透明な液体が少量だけ入っていた。
「貴様……」
「なにせ俺は"イレイザー"だからね。俺と戦った人間は、形も残らん」
セレンのこめかみに血管が浮き出る。
凄まじい殺気はイレイザーという男にも伝わったが、それを感じても笑みを溢ぼす。
「貴様こそ、この世界から消してやる!」
「ああ、そうか。だが、その前に……」
イレイザーは右手を前に突き出すと、指をパチンと鳴らした。
すると屋敷が大爆発を起こし、爆風と爆煙が包んだ。
爆煙から少しずつ姿を現すイレイザー。
驚く表情を浮かべるセレンを鋭い眼光で睨む。
「俺を消す?過去の俺の"告発"と一緒にか?」
「何を……言ってる?」
「セレスティー家がやっていることだ。長女なのに知らないとは言わせんぞ」
「何の話をしている……?」
ため息をつくイレイザーは少しずつ歩いてセレンに近づく。
困惑するセレンに睨みをきかせているのは相変わらずだ。
「この家に生まれた男にしている行為のことだ。レイアの顔色を見たが、まだ"アレ"をやってるんだろ?」
「……」
「"セレスティー家の男にエンブレムを刻む実験"……お前らにとっては"儀式"とか言うんだったかな?」
「あれは私がやめさせた」
「そうか。だが、よく彼をここに残しておいてたな。昔、俺以外のこの家の男子はみんな土の国の奴隷商に売られたが……やはり高魔力は貴重か」
「な、なんだと……」
「なぜ、俺は土の国へ行ったと思う?」
「ま、まさか……お前は……兄弟を探しに行ったのか……」
「俺はね、セレン。許せなかったんだよ、このセレスティー家でおこなわれていることがね。だが、どうだ?みんな見て見ぬふりだ」
「だからと言って、人を殺してもいい理由にはならないだろうが!」
「確かに。だが、俺が殺していたのは"俺に歯向かってきた人間"だけだ」
「都合がいい言い訳だな」
「なんとでも言えばいい。しかし、俺が捕まってモーンへ送られた理由は人を殺したからだけじゃない。この事実を知られて困る人間がやったことだ。自分達の、それぞれの利益のために大勢の悪事を隠して、たった一人の正義の言葉を排除する……ヘドが出るね」
「私は……知らなかった」
「これは"知るか"、"知らないか"の問題ではない。知らなかったとしても、セレスティー家なら皆、同罪だ」
「私は……」
「俺は、このセレスティー家を潰す。何が"女家系"だ。偽りの名家はここで終わりだ」
「ここで暴れれば"王"が降りてくるぞ」
「"王"?"火の王"は俺なんて小物は気にしてないさ。昔もそうだった」
セレンは、さらに強く放たられるイレイザーの圧に息を呑む。
「セレン……君を殺して終わりだ」
「貴様……やはりレイア達を……」
「もし俺を倒せたら……この先へ進んで自分の目で確かめるといい」
イレイザーは透明な液体が入った小瓶をズボンのポケットへと戻し、左腰に差してあっステッキ型の杖を抜いた。
「魔力覚醒」
その瞬間、真っ赤な熱波が広がり、イレイザーの隻眼も赤く染まり、髪の色が全て銀色になった。
周囲の温度上昇も異常なほどだった。
数十メートル先に立つセレンも銀の槍を両手で持って構える。
そして、槍の持ち手の部分が刃になった部分にスッと両手をスライドさせると手を切った。
セレンの血液は銀の槍に吸収され、赤黒いオーラを放ち始めた。
「その槍のデメリットは知ってる」
「そうかい。貴様程度、デメリットなんて、あって無いようなものだ!!」
ドンと地面を蹴り、一気にイレイザーへ向かいダッシュするセレン。
それを見たイレイザーは右手に持つ杖を横に振る。
瞬間、連続した"爆発"が横方向に展開し、セレンを襲う。
噴水も破壊され、セレンの姿が見えなくなるほどの爆発だったが、爆煙から槍をグルグルと回してジャンプで飛び出す。
着地し、さらに前へでようと一歩前に踏み込むと、何か足元に違和感を感じたセレン。
瞬時に目を下へ向けると、足の爪先に、"火の魔石"があり、それを踏んでいた。
「マズイ!!」
火の魔石は一瞬、光を放つと大爆発を起こす。
セレンはたまらず顔を覆うクロスガードで防ぐが、衝撃で数十メートル吹き飛び地面を転がる。
かろうじて片膝と槍を地面につき、踏みとどまるが、凄まじいダメージだった。
「相手のスキルを封印する宝具……だが、ブラッド・オーラ発動中は自分のスキルも封印される……エンブレムが使えなくなるのは聖騎士にとって致命的だろう」
「……どっちにしろ貴様は"竜の涙"を持ってるんだろ?エンブレムが使えたところで、無効化されたんじゃ意味ないだろうが」
「そうだな。だが、その宝具の"リミッター解除"は脅威だ……その前に終わらせたいね」
イレイザーは杖を左腰へと戻す。
そして上着のポケットに手を入れると大量の火の魔石を掴み、それを大きく振りかぶり投げた。
周囲の地面に散らばる火の魔石は、まさに"地雷原"とも呼べた。
「そんなに、この宝具の"リミッター解除"が嫌か?まぁ私も……一度しかやったことないし、その時は死にかけたから、本当はやりたくはないが……」
「やはり噂通り。宝具の"リミッター解除"、体にかかる負荷は命を縮めると聞くが……やる気か?」
すぐさま左腰のステッキ型のを抜くイレイザーが、その杖をセレンへ向けて魔法を放った瞬間だった。
「私はね、負けるのが嫌いなんだよ。ペイル・ベイン……"リミッター解除"」
セレンの目の前で大きな爆発が起こる。
だが、その爆音を掻き消すほどの大竜の咆哮が響き渡ると、槍から放たれる赤黒いオーラは大きく広がり、巨大な四つ首の竜となる。
それらは、とぐろを撒くようにして高速で動くと、爆炎を全て飲み込んでしまった。
「命を賭けるか……セレン・セレスティー……」
「どっちにしろ死ぬなら勝ってからだ……」
ゆっくり立ち上がるセレン。
赤黒い槍を両手持ちで前に構え直すと、赤黒い四つ首の竜のオーラはセレンの両肩、両腰付近に並ぶ。
「ヤツを魔法ごと喰らい尽せ"
そしてセレンは再度、地面蹴り、猛スピードでイレイザーへと向かった。
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