べルートにて……
火の国 べルート
数週間ほど前
夕刻、燃え盛るハートル家を背にアルフォード・アルヴァリアは庭を抜け、門へと向かう。
門の前には1人、執事服の男が立っていた。
長髪で色が、銀と黒で、それはちょうど真ん中から分かれている。
背が高く、血色の悪い、若い執事だった。
「ディランテか。君がここにいるということは……」
「はい。グランド・マリアが陥落しました」
ディランテの言葉に全く驚く事なく、アルフォードは無表情で頷く。
「ジレンマは倒されたか」
「はい。ご子息がシックス・ホルダーになられ、セカンドを完膚なきまでに」
「やはり予想通りだね」
そう言って笑みをこぼす。
そこにディランテが両手に持つ物をアルフォードへと差し出した。
「グランド・マリアから回収できたのはこの二つだけです」
それは、"赤黒い水が入った小瓶"と、拳ほどの大きさの"緑色の水晶玉"だった。
「黒水の工場は完全に壊滅。黒水の残りは、この小瓶に入った分だけです。ただ、この小瓶に入ってるのは……」
「"全ての銀の獣達の血"……最強の魔人を生み出すために保存していたものだね。そっちの水晶は昔、エルヴァンヌにプレゼントしたものか」
「あと、妙な情報を耳にしました」
「なんだい?」
「水の国から、セレスティー家に"例の薬"が運ばれると」
「ああ、それは厄介だね……僕の計画が台無しになる」
そう言って、アルフォードは少し思考した。
そして、ディランテが持つ"緑色の水晶"に目をやった。
「そうだ。それを最初の持ち主へ返しに行こう。そうすれば僕と君が姿を現すことなく、勝手に状況だけが動いてくれるだろう」
「持ち主とは……まさか……」
「ああ。"イレイザー"だ」
「ですが……彼は……」
「20年前……土の国での最後の任務。僕とアメリア、ビショップとエヴィの4人で捕まえたんだ」
「危険では?」
「僕は大丈夫さ。ちょうど手土産も持ったし。彼の復讐の矛先はセレスティー家だろう。あの時、相当恨んでいたからね」
アルフォードはディランテから緑色の水晶と小瓶を受け取った。
水晶をまじまじと見て、笑みをこぼす。
「そうなると、ここの火事の発見を少し遅らせたいね。"ジェムズ"を置いていく。町の住民には悪いが死んでもらわねば。この町を訪れた者も生きては返さない」
「私はどうしましょう?」
「僕と一緒に"モーン・ドレイク"へ。あそこの門は分厚いと聞く。君がいれば楽に入れるだろ」
「かしこまりました」
ディランテは深々と頭を下げた。
アルフォードは構う事なく、ディランテの横を通り過ぎ、ハートル家の屋敷の門を抜け、べルートを後にするのだった。
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