モーン・ドレイク
火の国 平野
日中、雲一つない炎天下、その暑さでセレン隊一同は皆、腕で汗を拭う。
皆が顔を顰めるが、少しの風が涼しく感じさせ、それが唯一の救いだった。
平野は道がYの字に分かれていた。
セレンの前に聖騎士と魔法使いが集まる。
最前列にはアイン・スペルシアもいた。
「ここから二手に分かれる。"モーン・ドレイク"と"中央ラザン"だ」
集まる魔法使い、聖騎士達に緊張感が走る。
たった8人で、どうパーティー編成をするのか、一同が気になっていたところだ。
だが、それをよそにセレンは一呼吸置き、アインの方を見る。
「アイン・スペルシア、お前はここからどうする?」
「俺は……」
「もし、行き先が決まってない、ただの旅なのであれば、少し付き合って欲しい」
「構いませんよ。俺の旅は"山で針を探す"ようなものだ」
セレンはニヤリと笑い、隊全体の方に向き直す。
「私とアイン・スペルシアで"モーン・ドレイク"を目指す。お前達は全員、"中央ラザン"へ行け」
隊員全員が耳を疑った。
スペルシア家といえば名家ではあるが、それにしても、たった2人でモーン・ドレイクを目指すとは、自殺行為だったからだ。
「あ、あの隊長!お言葉ですが、さすがにそれは……」
「お前の言いたいことはわかるさ。たった2人だけで魔物も多い火山地帯を抜けて行くのは無理がある……」
「あの火山地帯には魔物が多く、それに劣悪な環境のせいで、かなり凶暴化しています」
「大丈夫さ。シックス・ホルダーが2人もいるんだからな」
一同、その言葉に驚く。
そして皆がアインを横目で見た。
確かに数日前に見せた魔法の全属性連携は誰も見たことが無かった。
もしやとは思っていたが、アレを見せられれば納得せざるを得ない。
この青年は間違いなくシックス・ホルダーだと。
「私とアインでモーンへ向かう。あとの者は"薬"を私の屋敷へ運べ」
「了解しました!」
「緊張を緩めるなよ。その荷物は、お前ら全員の命よりも重い」
こうして、モーン・ドレイクへはセレンとアインの2人。
他のメンバーは全員がラザンへ向かうこととなった。
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火の国 火山地帯前 森林
森林を移動する荷馬車の御者を務めていたのはアインだった。
その隣を並走する馬にはセレンが乗る。
森林は、大きく成長した木々によって日景となり、先ほどまでの暑さは無い。
むしろ風通りがよく、涼しさを感じさせた。
「なぜ火の国に来た?」
「え?」
ここまで無言のセレンだったが、さすがに気になったことだ。
スペルシア家の長男が、"一人旅"ということに対して疑問を持っていたのだ。
ここまで名家になるとバディと共に各地で任務をこなして名を上げ、場合によって、どこかの部隊の司令官にでもなる。
「探している人がいます」
「探している人?」
「"マリア"という女性です。ご存知ないですか?」
セレンは首を傾げた。
その名前に心当たりはなかった。
「知らんな。そいつに会ってどうする?」
「聞きたいことがあるんです」
アインはそう言うと、胸の辺りのポケットから一枚の紙を出して、セレンに手を伸ばして渡した。
「なんだこれは?」
「読んでみて下さい」
セレンがその紙に書かれた文章を読む。
そこに書かれていた内容の最後の文に目がいった。
「お前……転生者なのか……?」
「ええ。なぜか、その記憶は無いですけど。俺が気にしてるのはそこじゃない。その前の文だ」
「前の文?」
それは"愛する人を救え"と書かれた部分だった。
「これがどうかしたのか?」
「俺には、それが誰だかわからない……救えたのかどうかすらわからないんです」
「なんだと?」
「家族なのか恋人なのか、妻なのか……」
「バディの可能性は?」
「多分それは無いです」
「なぜだ?」
「俺とバディになったと思われる"マーシャ・ダイアス"という女性がいた。彼女と土の国で会ったんですが、俺とは、ある一定の距離を保っていたように感じさせる。そんな別れでした」
「そうか……」
「俺は真実を知りたい。そして、なぜ俺をこの世界に呼んだのかも」
セレンは少し思考した。
自分の考えが正しければ、アインは"真実"に辿り着くことはないだろうと思った。
「お前、ロスト・フォースのブラッド・オーラ発動中に他属性の覚醒魔法を"何回"使った?」
「え?4、5回……ですかね?」
「もう使うな」
「どうしてですか?」
「どうしてもだ」
セレンとアインの会話はこれだけだった。
ただ無言で、馬車は前に進んだ。
この時、檻の中のグレイは、その会話を聞いて笑みを溢していた。
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森林の涼しさから一転して、火山地帯の暑さは常軌を逸していた。
大地が熱を帯び、ゆらゆらと空間を歪める。
さらにドス黒い竜血が、ひび割れた大地から見え、瘴気を放っていた。
山は円形上で、登り切ると、さらに下りがある。
下った先に、また森林があり、その森林の中にモーンドレイク刑務所が建っていた。
ここに行くには、現実この火山地帯を通る以外に道は無かった。
山道を登る2人だが、セレンは眉を顰める。
その暑さ以上に気なることがあったのだ。
「魔物の気配が全く無いな」
「ええ……妙ですね」
「宝具が二つもあるんだぞ……デカいのが来てもおかしくはない」
その言葉に一瞬、動揺するアインだが、セレンが言うように"何かいる気配"が全くない。
「ここは竜血の量も多い。魔物も多いはずだが……」
「誰かが倒したんですかね?」
「それなら嬉しいがね。嫌な予感がする」
2人は周囲を見渡しながら、警戒して進むが、全く戦闘することなく火山地帯を抜け、山道を下った。
そして、何事もなくモーン・ドレイクに到達してしまった。
モーン・ドレイクは円形上の壁に覆われる。
高さが30メートルを超え、それは風の魔法を使って飛んでも届かないとされる高さ。
壁の上の部分は反り返り、壁を登って上がっても出られない。
正面の門も、その半分はある鉄製の門で、四属性魔法の中で最大の火力を持つと言われる火の魔法でも破壊できない。
入ったら最後、どんな魔法使い、騎士も出ることはできないとされる刑務所だった。
だが、セレンとアインが、その鉄製の門の前に辿り着くと、ありえない光景を目にした。
「まさか……ありえん……」
そうセレンが言うのも無理はなかった。
分厚い鉄の門には巨大な円形の穴が空いていた。
周りは黒く変色し、焦げ臭かった。
その形状を見るに、明らかに中から破壊されていた。
「この門に穴を開けるだと……?」
「騎士じゃないですね……魔法使い、だとして、なんという魔力量……いや、通常の魔法の火力だとこんな穴は開けられない」
「こんなことができるやつは1人しかいない……」
2人が息を呑む中、檻の中のグレイも立ち上がり、その門の状態を見た。
「おいおい、脱走か?ここの刑務所はエンブレムが壁にびっしり刻んであって魔法が効かないって聞いたぞ」
「お前は黙ってろ!!」
セレンの罵声が森林に広がった。
そして馬を降り、門に近づく。
アインも荷馬車から降りて門へ歩いた。
「まだ煙が上がってるな」
「さほど遠くには行ってないですね」
「荷馬車は置いて、追いかけるぞ」
「え?」
「脱走したのが、"ヤツ"なら一刻も早く止めねばならない」
「ヤツ?誰ですか、それは?」
そう聞き返した瞬間、門の先に気配を感じて、すぐに左手に持つ杖を構えた。
セレンも槍を持ち、ゆっくりとアインより前に出る。
セレンとアインは細目で、門の先、数メートル先にある刑務所の入り口付近を見た。
すると門へ向かって、ゆっくりと歩いてくる二つの人影があった。
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