牢獄


土の国 ライラス



アルフィスとリオンは宿へ戻り、クロエと共に部屋で作戦会議をしていた。

だが町を歩くも情報自体が足りず、さらに住民から情報を得ようと思っても悪魔の彫刻があるため聞き込みもできずと手詰まりだった。


そんな中、リオンはベッドに座り何度も首を傾げていた。

クロエはそんなリオンが気になった。


「リオン、どうしたんだ?何かあったのか?」


「い、いやぁ、昨日のこと……やっぱり夢に思えなくて……」


「昨日のこと?」


クロエがリオンの言葉に反応する。

アルフィスは呆れ顔でため息をついた。


「さっきも言ったが、夢でも見てたんだろ」


「そ、そうですかね……」


リオンが申し訳無さそうに俯く。

だがクロエはそんなリオンの昨日の出来事というのが気になった。

今はなんでもいいから手がかりが欲しかったのだ。


「ちなみにどんな夢だったの?」


「え?ああ。昨日の夜にルドルフおじさんと会ったんですよ。それで住んでる家に案内されて一緒にハーブティーを飲みました」


「だから夢だって言ってるだろ。おじさんもいなかったし、そんな家無かったんだから」


「あんたは黙ってて」


クロエがアルフィスを睨む。

アルフィスは再度、ため息をついて黙り込んだ。


「でも夢にしては……あのハーブティーはほんとに熱かったんです……全然飲めなかったし」


「それで、おじさんはなんて言ってたの?」


「師匠の話をしたら驚いてました。あと……ハートルって名前を言ったら、"アメリアの息子か"って言ってて」


「なんだと!?」


アルフィスはリオンの発言に驚く。

リオンにもクロエにもアルフィスは母親の話はしていない。

"アメリア"という名前を知っているのはありえなかった。


「まさか……なんで俺の母さんの名前を知ってる?」


「わ、わからないです……」


リオンは困惑していた。

昨日出会ったのが本当にルドルフだとするならば、なぜアルフィスの母親のことを知っていたのかが不明だった。


「これは夢ではないわね。おじさんだとすると家ごと消えた理由がつかない。もしかしたら誰かが魔法を使ってリオンに近づいたのかも」


「なんのためにだよ?」


「んー。リオン、おじさんは何か他に言ってなかったの?」


「あっ!そうだ……"もしメイヴを倒そうとしてるなら町外れの下水道から屋敷の地下へ行け。そこには悪魔の彫刻は無い"って師匠に伝えてくれって言ってました!」


アルフィスとクロエは驚き顔を見合わせた。


「罠ってことはないよな?」


「私達はもう敵の本拠地にいるようなもの。こんな手の込んだことをしなくても始末するのは容易でしょう。そうなると……」


それは明らかに内部からの情報だった。

誰かがリオンを通してアルフィス達にメイヴを倒す手がかりを流したと考えるのが自然だ。


「俺の母さんの名前を知ってるってことは、情報を流した奴はまるっきり他人ってわけじゃなさそうだな……行ってみるか」


「そうね。どうせ何も情報は無かったんだから、行ってみましょう」


アルフィスとクロエは同時に頷く。

リオンには今度こそ宿に待機してもらい、2人は町外れの下水道へと向かった。




____________




ライラスの町外れまで足を運んだアルフィスとクロエ。

家屋が途切れるあたりで2人はあることに気づく。


「このへんに悪魔の彫刻が無いわね」


「確かに。リオンが言った通りだ」


そして町の一番奥にくると川が流れていた。

アルフィスが周囲を見渡すと石造りの床にマンホールのような四角く形どった鉄格子のようなものが埋め込まれた場所を見つけた。

開ければ人が1人通れるくらいの大きさだった。


「なるほど……ここから地下へ行けるみたいね」


「ここから屋敷の地下となると、かなり歩くな……」


アルフィスは下水道というだけでも嫌なのに、さらに長い距離進まなければいけないということに怪訝な顔をした。


「人通りも無いからこのままいきましょう」


「了解……」


クロエは格子を上へ持ち上げ、なんの躊躇も無く飛び降りる。

その勇姿に唖然とするアルフィスだったが、顔を引き攣らせながらも下水道へ飛び降りた。



____________




下水道は薄暗かった。

そして巨大な円形の通路がどこまでも真っ直ぐ続き、足のすねあたりまで水があった。


クロエは問答無用で前に進む。

アルフィスはクロエの後を追うが、あまりの異臭に鼻をつまみながら進んだ。


歩くこと数十分。

2人はようやく屋敷の真下あたりまで来た。

ゴール地点には鉄格子が埋め込まれ、前に進めなかった。


「なにか聞こえない?」


「ああ。この先だな……」


鉄格子の先から聞こえるのは男性のものだと思われる"笑い声"だ。

それは地下に反響しており、かなり不気味だった。


「鉄格子を破壊するか……複合魔法」


アルフィスは鉄格子を破壊しクロエと共に先に進んだ。

そこは薄暗い牢獄があった。

鉄格子が両サイドに向かい合っており、それが20も30もあった。

しかもその牢獄の中、全てに人が収められており、みなが各々の体勢で笑っていた。


「不気味すぎるだろ……」


「この人達は、なんで笑ってるの?」


アルフィスとクロエはこの牢獄の異様な雰囲気に息を呑みつつ前に進む。

すると左側に階段があり、その向かいに孤立した牢獄があった。


その牢獄まで辿り着くアルフィスとクロエ。

そこにいたのはボサボサの金髪で褐色肌の男性で服はボロボロだった。

ベッドに座て向き合う男性はアルフィスを見るとニヤリと笑う。


「よく来たな。客人」


2人はこの人物はメイヴを見た時に、鎖で繋がれた男性だったことを思い出した。


「お前がアルフィス・ハートルか?アメリアの息子の」


「なぜ母さんのことを知ってる?」


「そりゃあ知ってるさ。同期だからな」


「なんだと?」


「彼女は当時、"聖騎士学校最強"と言われていた。知り合いじゃなくても同期なら誰でも知ってると思うがね」


アルフィスはその情報に驚く。

母であるアメリアからはそんなこと聞いた事は無かった。

まさか"学年最強"ではなく"学校最強"とは。


男性はさらに目を細めてアルフィスを見ている。

そんな男性の姿を見てクロエはあることに気づいた。


「あなたは、ここの元領主の……」


「いかにも、私はゾルディア・ゼビオル。私のメッセージが届いてよかったよ」


ゾルディアは笑みを溢していた。

それは他の牢獄に収められている男性達の作られた笑いとは違い、心からアルフィスとの出会いを喜ぶような表情だった。

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