小さな町の女王
土の国 ライラス
アルフィス、クロエ、リオンの3人はライラスに到着した。
荷馬車がライラスの中に入ると、町の住民がニコニコしながらアルフィス達を見ていた。
さらに所々の建物の上にある悪魔のような彫刻が荷馬車に視線を向けているようで気味が悪かった。
そしてアルフィス達は初老の男性に案内され宿に着く。
宿の中に入ると、やはり店主は笑顔を崩すことなく応対し部屋に案内した。
部屋は二部屋取ったが、アルフィス達3人はその一部屋に集まっていた。
さほど大きくはない部屋にリオンはベッドに座り俯き、アルフィスとクロエは腕組みをしながら立っていた。
「一体どうなってる?聖騎士が領主だと?」
「"メイヴ"なんて聖騎士は聞いたことがない。聖騎士落ちかしら?」
「聖騎士落ち?」
「ええ。私みたいに騎士団から離れて活動している聖騎士のことよ。土の国では珍しくはない……でも領主だなんて……」
クロエはそう言って眉を顰める。
確かにその町の貴族の家系で娘が領主になる場合もある。
アゲハがそのいい例であるが、この町の状況はかなり違っていた。
「"メイヴ"という令嬢がいるなんて聞いたことないわ」
「だったら、どっから来たんだその聖騎士は」
アルフィスとクロエが首を傾げる中、俯くリオンがいきなり顔を上げて口を開く。
「まさか……マイアスと同じ状況なんじゃ……」
「どういうことだ?」
「マイアスの前領主は他の町から来たゾドムに追い出されてしまったんです。それで師匠が来るまでゾドムが仕切ってました……」
「なるほど。"メイヴ"という聖騎士がここの領主を追い出したというのは考えられる」
クロエはリオンの話に納得していた。
だがリオンは自分が言ったことに青ざめた。
まさかマイアスと同じ状況の町が存在することに怯えだしていた。
「ここの元領主ってのは?」
「ゼビオル家だったはず。最近先代が亡くなって息子が継いだと聞いたわ。息子はかなりの魔力の持ち主で魔法学校時代、対抗戦で優勝して帰ってきている」
「そりゃ興味あるな。だが追い出されてるんじゃ戦えんか……」
アルフィスはため息をつきながら頭を掻く。
だがクロエは少し考え、思い出したように口を開いた。
「いや、もしかしたらまだいるかもしれない」
「ん?何でそう言える」
「リオンの知り合いの首に巻きついた蛇のような砂。あそこまで細かい魔法操作ができる人間は少ない。そしてあの悪魔のような彫刻」
「ああ。あの悪趣味なやつか」
「ええ。私達の移動に合わせて首が若干動いていた。恐らく監視のために作られた魔法の彫刻よ」
「マジか!?」
アルフィス達がこの宿に着くまで、その悪魔のような彫刻は30体ほどはあった。
そこまで多くの土の彫刻を作る魔力とはどれほどなのかとアルフィスは息を呑んだ。
「あの彫刻、町の入り口の門の上にもあった。私達のような旅の人間もそうだけど、恐らく外で仕事をしている人間を監視するためのものと考えられる」
「なんでそんなことを……」
リオンは涙目になっていた。
ようやく奴隷という立場から抜け出したと思ったら、また現実を突きつけられ動揺していたのだ。
「リオン、さっきのは知り合いか?」
「はい……僕の村にいた親戚のルドルフおじさんです。母同様、村から逃げる時に離れ離れになってしまって……」
「ここに逃げてきたと考えても、あの扱いはひでぇな……」
「し、師匠……」
リオンは涙を流しながらアルフィスを見る。
アルフィスはそれに応えるようにニヤリと笑った。
「流石にこのまま見過ごせねぇな。情報ついでだ、おじさん助けっぞ!」
「師匠……ありがとうございます!」
リオンは号泣していた。
アルフィスはリオンのその表情を見て鼻を掻く。
クロエも笑み溢していた。
「だが、監視する彫刻なんて町中にある状態で、どうやって情報を得るかだな……」
「まぁ普通に観光しましょう」
「はぁ?」
「警戒心丸出しで行動したら逆に怪しまれる。この町を楽しむふりをして見て回ったほうがいいと思うけど」
「確かに……」
アルフィスはクロエの言葉に納得した。
町に入る人間の誰が敵だかもわからず、さらに土の彫刻の監視がある中で行動するなら"観光目的"というのを全面に出したほうが怪しまれない。
「あと、リオンの服装もなんとかした方がいい。そのボロ服じゃ目立つわ」
「え……」
リオンはクロエの発言に唖然とする。
服は確かにボロいが、マイアスを出る時に着替えていた。
普通の村人が着るような布の服だった。
「とりあえずリオンは休め、明日は俺達だけで町を見て回る」
「は、はい……」
「私は部屋戻る」
そう言うとクロエが部屋から出ていった。
それを見届けたアルフィスとリオンは旅の疲れからか、すぐに眠りについた。
____________
早朝、宿の入り口でストレッチをするアルフィスは通りすぎる町の住民を横目で追っていた。
住民達はニコニコとアルフィスにお辞儀しながら通り過ぎていく。
その住民達を監視するように町の建物の上にある悪魔のような彫刻は町の人間を監視するように首が少しづつ動いていた。
「どこもかしこも気味悪いな……」
アルフィスがそう呟くと後ろに気配を感じた。
振り向くとそこにはクロエが眠そうな目で立っていた。
「土の彫刻は住民を監視して、住民達は部外者を監視する……嫌な町ね」
「だな……てか、もしかして朝が苦手か?」
「ええまぁ。あんたは平気なのね」
「いや苦手だが、昔母さんが寝坊で人に迷惑かけるなってうるさかったんだよ。そしたら早起きになった」
「ふーん。いい母親ね」
クロエは目を擦りながら笑みを溢す。
アルフィスは何かを考えている様子で、そんなアルフィスを見たクロエは首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや……変なこと聞くけどいいか?」
「なに?」
「無属性魔法に詳しいか?」
「母が使えたからそれなりにわかるけど」
「無属性魔法に"時を巻き戻す"魔法はあるか?」
アルフィスの発言にクロエは再び首を傾げる。
質問の意図が読めなかった。
「私が知る限り、そんな魔法は"無い"わ」
「そうか……」
「ただ……」
「ん?なんだ、何かあるのか?」
「いえ……なんでもない。行きましょう。ここにずっといたら怪しまれる」
「そうだな」
クロエは何かを言いかけたが、アルフィスはあまり気にしなかった。
そして2人は町の探索へ向かうのだった。
_____________
町自体はさほど大きくは無く、半日もあれば見て回れた。
アルフィスとクロエは建物が立ち並ぶ町の中心部にいた。
商店なども多く活気があった。
町は至って普通だった。
ただただ穏やかで町の住民もニコニコしながら歩いている。
初めは気味の悪さを感じていたアルフィスだが、ここまで平和だとこれが普通なのだと錯覚するほどだった。
「何にも無いな……」
「いえ、不自然よ」
「なに?」
クロエの言葉にアルフィスが反応する。
特に変わった部分なんて見受けられなかったからだ。
「女性と子供を見た?」
「確かにすれ違うのはみんな男ばかりだが……」
アルフィスは周囲を見渡す。
町ゆく人を見ても、みな男性ばかりで女性がいない。
また公園なども見たが、子供が遊ぶ姿が無かった。
「やっぱり何かあるわね」
「ああ。住民から聞き出せればいいんだが、あの土の彫刻がな……」
アルフィスがそう言ってため息をつく。
すると町の奥の方から珍しく慌てた様子の住民が走ってきた。
「メイヴ様だ!!メイヴ様がお通りになる!!」
その言葉にずっとニコニコしていた住民達は一気に真っ青になった。
そして皆が壁の方に寄ってしゃがみ込む。
アルフィスもクロエに促されて地面に膝をついた。
2人は横目で道の先を見るが、その光景に絶句した。
真っ黒な人間が4人、御輿を担ぐようにして台を肩に乗せて歩いてきた。
台の上には椅子があり、その椅子に女性が足を組んで座っている。
「な、なんだと……魔人なのか!?」
「声がデカい」
アルフィスが驚くのも頷けた。
真っ黒な人間は瘴気を放っている。
それは明らかに魔人だった。
椅子に座ってる若い女性は色白でショートカットの"銀髪"、そして絶世の美女とも言えるほどの容姿をしていた。
黒いビキニのトップスに黒いジーパンを身につけ、左手には長い剣の鞘を握っている。
さらに右手には白い包帯がぐるぐると指先から肩まで巻かれていた。
「おお、メイヴ様……」
周囲の男性は涙を流しながらメイヴという女性を見ていた。
その異様な光景にアルフィスとクロエは息を呑む。
そしてメイヴの乗る台を担ぐ魔人達はアルフィス達の目の前で止まった。
メイヴは台の上からアルフィスとクロエを見るとニヤリと笑う。
その不気味な笑顔を見たアルフィスとクロエは言葉を失っていた。
「客人とは珍しいな。安心するといい、この魔人達は完全に掌握している。誰にも手を出さぬよ」
「……」
「ただ、何か問題があれば……黙ってないかもしれないな」
そう言ってメイヴは高笑いすると、再び魔人達が歩き出した。
そして魔人達の後ろには台と長い鎖で繋がれた1人の男性がゆっくり歩いている。
ボサボサの金髪で褐色肌、ボロボロの布の服を着ており裸足。
それはまるで奴隷のようだった。
住民達はメイヴが見えなくなるまで地面に膝をついていた。
そして完全に見えなくなると立ち上がり、また笑顔で町を歩き出す。
アルフィス達も立ち上がると2人は顔を見合わせた。
「魔人を掌握してるだって?どういうことだ?」
「わからない……でも一つだけハッキリしたことがあるわ」
「なんだ?」
「私達は……"アレ"を倒さなせればならない」
クロエの言葉にアルフィスも納得する。
明らかにこの町はおかしい。
だがそれ以上に"メイヴ''という聖騎士の異様さは尋常ではなかった。
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