計画
風の国 中央 レイメル
ノアとワイアットは聖騎士団宿舎へ向かった。
地下の牢獄にはガウロがおり、ベッドに座って本を読んでいた。
ノアとワイアットはガウロの牢屋の前に立つ。
ガウロは二人に気付き、本を閉じて眼鏡を外した。
「これはこれは団長殿。何かご用意で?」
「単刀直入に聞くが、お前達の計画の"最強のシックス・ホルダー"とは聖剣ライト・ウィングと魔剣レフト・ウィングの二刀流剣士のことか?」
ノアの言葉にガウロが笑みをこぼした。
「なぜそうだと?」
「北の遺跡でカゲヤマと戦った。もう老人だったよ」
「そうか……あの場所がバレたか」
「お前達が魔法使いを殺し続けていたのは私をこの任務につかせるためだろ?これほどの問題には私が出ることを見越して」
「確かにそれもあるが、あれはシャドウの暴走でもある。よほど憎いのだろう魔法使いが」
ワイアットがガウロを睨んだ。
友が二人も殺されたのはカゲヤマのせいだけではなかった。
親戚とはいえ、ワイアットは目の前の男を許す気はなかった。
「どこで私の宝具を奪うつもりだった?」
「さぁね。だが予想外のことが重なったな。誰が二つ名招集なんて考えた?こんな筋書きは"予言"には無かったぞ」
「予言だと?」
ノアとワイアットは予言という言葉に驚く。
二人は今まで予言というのは"王を超える者"の逸話しか聞いたことがなかった。
「カゲヤマを呼び出した魔女が言ってたものだ。数年前か?ラムザから聞いた話しだが、内容は鮮明に覚えているよ」
ノアはその魔女とはエリスのことだと気づいた。
「予言では、もう少し早い段階で団長殿とアゲハがシャドウと戦うはずだった。それがどうしたことか計画が乱れたな」
「アゲハ?なぜアゲハが出てくる?」
「なぜ?なぜって"最強のシックスホルダー"はアゲハだからな。そのために準備してきたんだ」
「どういうことだ!?カゲヤマじゃないのか?」
「彼は"最強のシックス・ホルダー"を生み出すための駒に過ぎない。なにせもう老人なのだろ?宝具の能力もまともに使えまい」
ノアは少し考えていた。
計画自体はともかく、カゲヤマがこの先どんな行動を取るのかが気になっていたのだ。
「カゲヤマはどこに居る?」
「恐らく闘技場だろう。北の遺跡の秘密がバレた場合の保険にしてあった」
「本当なんだろうな?」
「本当さ。この前ここに来た魔法使いには別の場所を言ったがね。邪魔されでもしたら困る。とにかく団長殿は急いで向かうべきだな」
ガウロはそう言うとニヤリと笑った。
早く行かねばカゲヤマはここからさらに何をしでかすかわからない。
だが、ここで行ってしまうと全てガウロの計画通りに運んでしまうことは目に見えていた。
「行くしかあるまい……」
「そうだな……」
ノアとワイアットは牢獄を後にする。
ガウロはその二人の姿を見届けると居丈高に笑い、その声は部屋全体に響いていた。
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数年前
ガウロの書斎、本棚が周りを取り囲み、中央よりに机が置いてある。
ガウロは席に着き、その机の前にラムザが向き合うように立っていた。
そしてガウロの机の上には宝具である魔剣レフト・ウィングが置いてある。
「まさか、本当に盗んでくるとは……貴様一体何者だ?」
「私が何者であるかは特に問題ではないと思います。大事なのはガウロ様が思い描いている未来だ」
ガウロはこめかみを掻いた。
そして机の上に置かれた宝具を見つめる。
もしかしたら自分の夢が叶うかもしれない。
ガウロはそう思うと心が高揚していた。
「以前に言っていた転生術か?」
「はい。賢者クラスの魔法使いを集めます。さらにいざと言う時のために魔女も用意して万全を期します」
「なるほど。具体的にはどんな計画になる?」
「転生術で強い剣士を呼び出します。そしてアゲハ様にその剣を教える」
「それでアゲハをそのままシックス・ホルダーにするということか」
「いえ、まだです」
「ん?どういうことだ?」
「その魔剣レフト・ウィングのデメリットを解決したい」
ガウロは首を傾げた。
宝具のデメリットについては聞いたことがあったが、それは使い手だけが知ることで、ほとんどの人間は知らなかった。
「私の部下にその剣を使わせたら、年を取ってしまった。もう少し細かく調べますが、一回能力を発動したら2、3年は歳を取る」
「なんだと……そんなものアゲハに使わせたら……」
「そこで、今セントラルの宝物庫にある聖剣ライト・ウィングを使う。この剣のデメリットは昔聞いたことがありましてね」
「どんなデメリットなんだ?」
「若返るんです」
ラムザの言葉にまたも首を傾げるガウロ。
"若返る"ということが果たしてデメリットなのか?
「それがデメリットなのか?」
「はい。つまりこの二つの剣を持てば、デメリットなどは無い。間違いなく"最強のシックス・ホルダー"が誕生する」
ガウロは一気に鳥肌が立った。
宝具にはデメリットが必ずあるが、それをクリアしてしまえば、なんのリスクもなく宝具の能力を解放できる。
さらに二つの宝具の能力を使えるのもまた大きい。
「セントラルから盗んでくるのか?」
「いや、私が連れてきた魔女の予言だと、この後すぐに"金色の獅子"が使い手になる」
「金色の獅子?」
「恐らく、かなり強い剣士だと思われます。そこで転生者に先にこの金色の獅子を倒してもらう。そして用済みの転生者は故郷へ返すか、死んでもらい、そして残った宝具二本をアゲハ様に渡す」
「なるほど……上手くいくのか?」
「予言通りならアゲハ様もその場にいて転生者と戦うことになりますが、死ぬのは金色の獅子だけです。そして最後にはアゲハ様は必ずシックス・ホルダーになります」
その言葉を聞いたガウロは笑みをこぼした。
自分の家柄からシックス・ホルダーが出たとなればこれほど名誉なことはない。
ガウロは自分の犯す罪の重さも知らず、この計画を押し進めることを決意した。
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