停止
アルフィスとナナリーはレイメルから北東にある港に到着した。
時刻は早朝で、まだ肌寒かった。
ここは町というよりも港のみで、近くには倉庫が建ち並んでいた。
港には大きな船が一隻停泊している。
周りには貨物を下ろす作業員が数人いるだけで変わった様子はない。
アルフィスとナナリーはその船の方へ歩いて行った。
「でけぇ船だな……」
「明らかに他国の貨物船ね……どこの船かしら?」
二人は荷下ろしをしていた作業員に近づき、アルフィスが話しかけた。
「すまない、この船はどっから来たんだ?」
「ん?土の国だが」
アルフィスとナナリーが顔を見合わせた。
それを見た作業員は首を傾げた。
「何を積んでるんだ?」
「……魔石とか食料だが。あんたら誰なんだ?」
「私達は密輸の調査をしているの。今は誰がここの責任者なの?」
作業員はその言葉に怪訝な表情をした。
明らかにアルフィスとナナリーが怪しまれていた。
「クローバル家の執事だよ」
「執事は行方不明だと聞いてるわ」
「はぁ?何言ってんだ。ずっといるぞ。俺たちはあの執事の指示でずっと来てるだからな」
「なんだと……」
アルフィスとナナリーは混乱していた。
一年以上前に行方不明になったはずのラムザがずっと指示を出していた。
「ガウロが嘘をついたとしか考えられないわ……だとしても何故?」
「ここに来させたのも理由があるのか?」
「別荘の件もガウロからの情報だった。まさか……」
ナナリーは自分の考えていることが恐ろしく感じていた。
「そっちの倉庫を見てもいいか?」
「あ、ああ。構わないが、さっきも言ったが魔石と食料しかないぞ」
作業員は倉庫の方を指差し、アルフィス達はその方向へ向かった。
船から少し離れたところに大きな倉庫があった。
倉庫は横に四つ、海に面して建っている。
アルフィスとナナリーは倉庫内部を確認した。
一つ目の倉庫を確認するため、大きな門を開けると、そこには魔石が大量にあった。
二つ目の倉庫は食料が入っており、三つ目も食料だった。
四つ目、一番奥の倉庫の内部を確認した際、違和感があった。
まずこの四つ目の倉庫だけ鍵が付けられており、それが壊されているようだった。
さらに内部には何も無かったが、誰かが寝泊まりしていた形跡があった。
「最近まで誰かいたようね……」
「確かに生活感があるな。さっきのやつに聞いてみるか」
アルフィス達は先ほどの船近くにいた作業員のところまで戻ると、見知らぬ男性と話をしていた。
そして作業員はアルフィス達のほうを指差すと、男性がアルフィス達を見た。
数メートル先にいる、その男性は白髪で上品な顎髭を生やした執事服の初老の男だった。
「てめぇ……まさか……ラムザか?」
アルフィスはゆっくり太もものバックに手を伸ばし両手に火の魔石を握った。
ナナリーも左腰に差した剣のグリップを握る。
「いかにも。私がラムザです。何かご用意ですかね?」
「あんたは宝具を盗んで、異世界から転生させたカゲヤマリュウイチをシックス・ホルダーにした……間違いないか?」
「よくご存知で。確かにそうですが、全てガウロ様の指示ですよ」
「なんだと?」
「私は計画を話しただけだ。実行の指示は全てガウロ様が出しました。そして今もその最中です」
アルフィスとナナリーが"最中"という言葉に反応した。
アゲハをシックス・ホルダーにしたかったガウロだったが、それがカゲヤマになった。
それはいいとしても、宝具のデメリットの重さによって"最強のシックス・ホルダー計画"は破綻したはずだった。
「お前の計画はカゲヤマをシックス・ホルダーにすることじゃないのか?まだ何かあるってのか?」
「恐らくガウロ様は途中までしかお話しされなかったんですね。計画には続きがあるんですよ。ああ、あと邪魔者は排除するようにとの指示です」
ラムザはそう言うと、ゆっくりとアルフィスとナナリーの方へ迫った。
アルフィスは一歩一歩近づくラムザの"圧"に只者ではないことを悟った。
巻き込まれたくないと思ったのかラムザの後ろに立っていた作業員はすぐさま船へ乗り込んだ。
「複合魔法……下級魔法強化……」
「エンブレム・
アルフィスの立っている場所に魔法陣が展開する。
ナナリーも剣のグリップを引き抜くと、透明のオーラの糸が伸びる。
アルフィスの足元の魔法陣が消えた瞬間、左手に持っていた火の魔石を宙に放り、右ストレートで打ち出した。
右手に握る火の魔石が砕けて、右グローブには炎を纏った。
その瞬間、アルフィスはその場から消えた。
「ほう。懐かしい……」
ラムザはアルフィスが飛ばした火の魔石を高速の左ジャブで弾く。
それはあまりにも速すぎて、何もないところで魔石は砕けて燃え、火は空気に消えた。
「
アルフィスはラムザの目の前に現れ、右のショートアッパーを溜めた。
それをラムザは再び左のジャブで弾こうとしていた。
しかし、アルフィスの背後からナナリーが放ったオーラの糸が伸び、ラムザの左手首に巻き付く。
ラムザの腕は横に引っ張られ、その勢いで左肩の骨が外れた。
アルフィスの灼熱の右ショートアッパーはラムザのボディにヒットした。
ドン!という音が周囲に響き渡り、アルフィスの灼熱の拳はラムザの執事服だけでなく、皮膚も一瞬で焼いた。
アルフィスが右拳を振り抜くと、ラムザは数メートル吹き飛び、地面を転がった。
「手応えは十分……さすがに起き上がれねぇだろ……」
そのアルフィスの言葉にナナリーは少し安堵していた。
明らかにラムザの圧は常人ではなかった。
二人はこれで終わって欲しいと思っていた。
だがラムザはムクリと起き上がる。
そして何事もなかったように立ち上がると、焼けた腹を見てため息をついた。
「この服、気に入っていたんですがねぇ……」
アルフィスとナナリーはラムザの言葉に驚く。
確かにクリーンヒットしたはずのボディブローだがラムザは一切ダメージが無い様子だった。
「馬鹿な……骨が砕ける感覚があったんだぞ……なんで平然と立てる?」
「なかなかのパワーですが、あと一歩といったところですかね。今度は私の番です。ちょっと本気でいきますね」
ラムザはそう言うと、一瞬でその場から姿を消した。
「下級魔法解除!複合魔法・下級魔法きょう……」
アルフィスの詠唱が完了する寸前にラムザは目の前に現れ、渾身の右ストレートを放った。
アルフィスはそのスピードに全く反応できず、ラムザの右ストレートはアルフィスの左胸に直撃した。
ズドン!という音と共にアルフィスの胸骨を砕く。
「かはぁ……」
そのあまりの衝撃にアルフィスの心臓は停止した。
後ろで見ていたナナリーは何が起こったのかわからず立ち尽くすだけだった。
アルフィスは両膝を着くとラムザはその体を支え、仰向けにゆっくり寝かせる。
「強者に敬意を……しかし、これほどの強さの人間は珍しい……ここで死ぬには惜しいですが仕方ない……」
ナナリーは戦意喪失していた。
エンブレムは自然に解除される。
放心状態でトボトボとアルフィスに近づき、目の前に敵がいるのにも関わらず、しゃがみ込んだ。
「戦う気がない人間を殺すのは紳士的ではない。私はこれで失礼しますよ」
それだけ言うとラムザはしゃがみ込んで項垂れるナナリーを通り過ぎ、倉庫の方へゆっくり歩いて行った。
ナナリーは倒れたアルフィスを見ながら涙を流していた。
「そんな……あなたは死神を倒してくれると……そう思ってた……私のせいで……アルフィス……ごめんなさい」
ナナリーはずっと泣き続けた。
ここまで本気で誰かのために泣いた事は無かった。
母が亡くなった時はさすがに泣いたが、その他の家族や親戚、バディがいなくなっても、なぜか悲しくはなかった。
ナナリーは信じたかったのだ、この呪われたシークレットスキルを越える存在はアルフィスだということを。
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