ケルベロス
ノア・ノアールはレイメルからセントラルに向かう途中だった。
ノアは馬車に乗りながら考えていた。
もし、山の上にいる魔人を二つ名達が処理できなかった場合。
また、もしそのままカゲヤマと戦闘になってしまった場合。
なによりも村に残った三人とカゲヤマが出会ってしまった場合を懸念していた。
なにかの不祥事が起こる可能性はあった。
これは極秘任務ではあったが、ノアはすぐにレイメルに早馬を出した。
"かなり危険な魔人がいる可能性がある、レイメルの精鋭全員でアーサル村まで行け"
この伝言はすぐにレイメルの聖騎士宿舎に届けられた。
魔人とは方便だった。
ノアが一番気掛かりだったのは"エリス"の安否だ。
もし村に残った三人とカゲヤマと戦闘になった場合がどうしても心配だった。
ノアはその心配をどうしても拭い去りたかったのだ。
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セントラル 聖騎士宿舎前
ノアがセントラルの聖騎士宿舎前に到着すると、その門の前に一人の魔法使いがいた。
異様な大きな杖を持ち、ローブを着た短髪で垂れ目の魔法使いだった。
「お前がリヴォルグの使いか?」
「は、はい!ロール・アベリアです!」
ノアは鋭い視線を向け、それを見たロールは息を呑んだ。
一般の魔法使いがシックス・ホルダーと会う機会なんてそうそう無いからだ。
「アベリア?聞かぬ家柄だが、"強運"の花言葉か……大層な名前だな。それで、会って報告したいとは一体どういうことだ?」
「はい。私達が捕らえた"グレイ"という土の国の魔法使いがブラック・ケルベロスという組織の人間のようで……」
「ケルベロス……久しぶりに聞く名だ……それで?」
「え、ええ、どうやら水の国だけでなくて風の国にも入り込んでると。10年ほど前にグレイが一人、土の国から密入国させたとのことです」
ノアはそれを聞いて驚く。
昔、土の王カインから聞いた話を思い出していた。
ブラック・ケルベロスという魔女崇拝組織を数百年前に潰したと。
だいぶ昔の話で、今ではこの組織の名前を知っている人間はもうほとんどいないだろう。
「その組織はもう無いはずだが……」
「それが……今、徐々に勢力を拡大みたいです。それで誰が内通しているのわからなかったので会ってご報告を。グレイの話だと風の国で"実験"があると……」
「実験?なんだそれは」
「風の国では"最強のシックス・ホルダー"を生み出すことが目的だそうです」
ノアは"風の国では"という言葉に引っかかったが、それ以上に最強のシックス・ホルダーを生み出すということに驚いた。
それが転生者カゲヤマリュウイチなのだろうと思った。
「なんて連中だ……そんな実験に10年も費やす?イカれてるな……その密入国させたやつはどんなやつなんだ?」
ノアの問いに、ロールはローブから一枚の紙を急いで取り出して読んだ。
「え、えーと、初老で上品な髭の男だったとののことです」
「なるほど。で、そいつの名前は?」
「名前は"ラムザ・サードケルベロス"だそうです……」
ノアはその名前を聞いて絶句した。
それは"クローバル家の執事"の名前だった。
さらにこの苗字は以前、土の王から聞いたことがあった。
"サードケルベロス"は組織に三人いるトップの一人に与えられる名前。
ラムザという男は"銀の獣"の一人だった。
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