偽りのシックス・ホルダー


風の国の最初の町であるモルナアトラで一夜を過ごして、アルフィス含めた二つ名全員は中央のレイメルを目指した。


アルフィスとエイベルは馬車。

ヴァイオレットとワイアットは個人で馬で向かった。


アルフィスとエイベルは3日掛けてようやくレイメルに到着した。

町は中央と言うだけあって火の国の中央ラザン並みに大きく、高い壁が円を描くように町を守っていた。

そして町の真ん中には風の王が住む塔が天まで聳え立つ。


アルフィスとエイベルが町の門前に着くと、なにやら魔法使いと聖騎士が揉めていた。

それを見たエイベルは呆れ顔だった。


「ワイアットとエリス……またあの二人か……」


エイベルが二人に近づき、アルフィスが続く。

魔法使いの方はワイアットだった。


そしてもう一人は銀髪のショートカットで聖騎士学校の制服上に鎧を身に纏い、左腰に二本のショートソードを差した聖騎士だった。

アルフィスはその聖騎士を見て思い出していた。

それは魔法学校入学式の次の日に出会った、聖騎士団副団長のエリス・マーデンだった。


「エリスちゃん、今回は俺とバディを組んでくれよ」


「"ちゃん"付けはあれほどやめろと言っただろう!斬り刻むぞ!」


ワイアットがニヤニヤしながらエリスに言い寄っていた。

アルフィスもそのセリフを聞いて呆れていた。

どこの世界にもこういう奴はいるんだなと。


「君は本当に綺麗だ……特にその髪の色……どう表現していいのか言葉が見つからない……ただ美しい……それだけだ……」


エリスはその言葉を聞いて顔が引き攣っていた。

あまり褒められ慣れていないのか顔も少し赤くなっている。


「き、貴様……人前でよくそんなことを……それに、髪の色の話はするなと言っているだろうが!」


エリスは半ば切れ気味でアルフィスとエイベルも睨み、町の中へ入って行った。


「あらら、行っちまったよ」


「ワイアット、からかいすぎだ」


「俺らまで睨まれたぞ……」


ワイアットが苦笑いしながら頭を掻く。


「俺は真面目だぜエイベル。彼女のためなら俺は死んでもいい」


「お前が言うと本気なのか冗談なのかわからないな」


アルフィスはその言葉には同意だった。

ワイアットの性格はいつか災難を招くだろうと思っていた。


「それに、彼女の言う通り、髪の色の話しはするな。エリスは気にしてる」


「髪の色?何かあるのか?」


アルフィスはそのことが気になった。

ワイアットは髪の色を褒めていたのに、エリスはそれに怒っていたように見えたからだ。


「少年、何も知らないのか?髪の色は血統で決まるんだよ。そして銀色の髪の人間は珍しい」


「どういうことだ?」


「髪の色には血統の強さが現れる。高い地位の貴族だとその国特有の色が濃く出るんだ」


エイベルの説明にもアルフィスはイマイチよくわかっていなかった。


「髪の色はレッド、ブルー、グリーン、ブラウン、ゴールド、ブラックが主流だ。ブラックは血統があまり濃くない。中級や下級貴族に多い」


そう言うエイベルの髪の色は黒色に銀が少し混ざっていた。

ワイアットも緑色の髪に銀が少し混ざっている。


「お前らの髪に銀色混ざってないか?」


「ああ、最初は無かったんだ。恐らく魔力覚醒の影響だろう」


「魔力覚醒ってスペシャルスキルのか?」


「そうだ。私達は魔力覚醒できる。何度も使っているうちに髪に銀色が混ざり始めたんだ。これについては私にもなぜかはわからない」


「火の王なんて髪の色ほぼ全て銀色らしいが、それでも赤い髪が混ざってるって噂だ。髪の色が全て銀髪の人間なんて俺はエリスしか見たことないぜ」


アルフィスは首を傾げた。

アイン・スペルシアも魔力覚醒していたが青髪で銀色なんて混ざっていなかった。


「あくまでも噂だがエリスは"魔女"じゃないかと言われているのさ」


「ワイアットここまでにしよう……これ以上はマズイ」


エイベルはワイアットの言葉を聞き終わった瞬間、すぐこの話題を止めた。

アルフィスは"魔女"という単語に首を傾げた。

この世界に来て一度も聞いたことが無かったからだ。


「あいさ。まぁ今のは聞かなかったことにしてくれ」


そう言うとワイアットは笑みをこぼして町の中に入っていった。

アルフィスとエイベルもそれに続いた。


アルフィスは以前に会った、全ての髪が銀色の男のことを思い出していた。




________________




アルフィスとエイベル、ワイアットはレイメルの町中央の聖騎士宿舎に入った。

一階の大広間から隣の小部屋へ入ると、椅子がいくつか置いてあり奥には壇上があった。

アルフィスが見るに、ここは会議室なのだろうと思った。


中にはすでに数人いた。

中央の壇上にはノア・ノアール。

その後ろ隣にエリス・マーデン。

入り口の後ろ角に立つのはナナリー・ダークライト。

左前に置かれた椅子にふんぞり返って座っているヴァイオレット・ペレス。

そこにアルフィス、エイベル、ワイアットが入ると二つ名が全員揃っていた。


「ようやく来たな!お前ら遅刻だぞ!」


ノア・ノアールが魔法使い三人を罵倒する。

エリスも三人を鋭い眼光で睨んでいた。


「いやいや、時間指定されてなかっただろうに」


「とにかく始めよう。あまり時間がないんだろ?」


「あ、ああ、そうだな」


エイベルに促されたノアは渋々それに応じた。

アルフィスとエイベル、ワイアットはバラバラに椅子に座った。


「みんな、よく集まってくれた!今回シックス・ホルダー討伐と宝具奪還作戦の指揮を執るノア・ノアールだ。よろしく頼む」


その挨拶に皆が無言で聞き入る。

さすがのアルフィスもここで口出しして時間を取られても嫌なので黙っていた。


「知ってる者もいるかもしれないが、この国の宝具が数年前に盗まれた。そして今、偽りのシックス・ホルダーがそれを所持している」


この話はアルフィスが水の国でリヴォルグから聞いていた話と一緒だった。


「これは機密情報だが、宝具を盗んだ犯人はクローバル家の当主であるガウロだった。今はこちらで拘束している」


この言葉に一同驚いた。

驚いていないのはアルフィスとナナリーくらいだったが、アルフィスは"クローバル"という苗字が気になり首を傾げた。


「そして、ガウロから聞き出した話しだが、このシックス・ホルダーの名前もわかった」


そう言ってノアは持っている紙を細目で見る。

しかしなかなかその名前を言わなかった。


「おいおい、どうしたんだ?」


その遅さにイライラしていたアルフィスが口を開く。

エイベルとワイアットは顔を見合わせた。


「読みづらいんだよ!なんなんだこの名前は!」


アルフィスはイライラを抑えられず、立ち上がり壇上に立つノアの元へ行って、その紙を取り上げた。


「お、おい!」


「貴様!団長に無礼は許さんぞ!」


アルフィスはノアとエリスをほっといて、シックス・ホルダーの名前が書かれた紙を見た。


シックス・ホルダー "カゲヤマリュウイチ"


アルフィスはこの名前を見た瞬間、一気に血の気が引いた。

それは自分と同じ日本人の名前だった。

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