行き違い

ロールはアルフィスを見つけて下級の治癒魔法で癒した。

下級と言っても、ロールの杖のオーラは消えずに大魔法クラスの治癒術となりアルフィスの傷は全快してしまった。

そして治癒魔法の後に杖からオーラは消えた。


アルフィスとロール、ルイスは屋敷の中にいた。

屋敷は半壊しているが雪風は防げる。

三人は床に座り込んでいた。


「助かったぜ……俺だけなら死んでたろうな」


アルフィスは率直にロールに告げた。

あのままサーシャに追い討ちをかけられていたら生きてはいなかっただろう。


「僕の力じゃないさ。この杖の力なんだ」


ロールは杖をアルフィスに見せた。

ロールと出会った時から気になっていた異様に大きい杖だ。


「そうかもしれないが、杖なんてただの道具だ。前に進む勇気が無かったら、それは飾りでしか無い。ロール、お前の"勇気"が俺や弟を救ったんだ」


「アルフィス……」


ロールは涙目になっていた。

アルフィスの言葉を聞いて、ようやく自分は前に進むことができたのだと実感した。


「弟くんも無事でよかったぜ。あとは母さんだな」


「ああ。どこに行ったんだろう?」


この町を見て回ったが、見つけたのはルイスだけで他の住民はいなかった。

死体も見つからないということは、どこかに避難していたのだろうと二人は思った。


「とにかく一旦、ライデュスに戻るか。メルティーナも心配だしな」


「そうだね。途中でサーシャに出会わなければいいけど……」


アルフィスは握り拳を作った。

あの一撃を受けてアルフィスは確信していた。

リヴォルグの部隊が30人がかりで倒せなかった魔人はサーシャなんだと。


「そうだな。だが、まさかアインの妹が"白銀の魔人"だったとは……アインはそれを承知で俺に倒してくれと言ったのか」


アルフィスの気持ちは複雑だった。

さっきの半魔人だって家族がいただろう。

愛する家族が魔人に変わってしまい、それを倒さなければならないということに胸が締め付けられた。


「……とりあえず馬小屋に馬を見に行くよ。ルイスは乗馬はできるね?」


「はい!お母様に習っていました!」


アルフィスはこの立派な少年を見て言葉を失い真顔になる。

そして今度メルティーナにでも乗馬を習おうと決意した。


アルフィスとロール、そしてロールの弟ルイスがライデュスへ戻ろうと町の入り口にいた時だった。

一頭の馬に若い男性が乗ってやってきたのだ。


「お、お前、ロールか?」


「モーリス!無事だったのか!」


それは町の住人のモーリスだった。

なぜか方向的にはライデュスの方からやってきた。


「みんなライデュスに避難したんだ。銀髪の女の子が現れて町を破壊してな。聖騎士や魔法使いが対応したんだが全く相手にならなかったから、途中で討伐でなく避難に切り替えたんだ」


モーリスの話を聞いてアルフィスとロールは行き違いになったことに気づいた。

だが、ルイスが置き去りになっていたのを助けられたのはよかったと胸を撫で下ろした。


「そうだったのか……母は無事か!?」


「ああ、大丈夫だ。ルイスのことを心配していたから私一人で見にきたんだ。銀髪の女の子はどうした?」


「そうか!よかった!あの女の子は僕がなんとか追い払ったよ。モーリスが出会ってないってことはライデュスの方に向かったわけじゃないのか……」


モーリスはロール言葉を聞いて感動していた。

5年も会っていなかったが、ロールがここまで強い魔法使いだということを知って感極まっている様子だ。


「さすが我が町の代表だ!!アレを追い払うなんてな!!」


「あ、いや、大したことはないんだ……」


ロールは謙遜しているが顔を赤らめた。

褒められてまんざらでもなさそうだった。

そこにすかさずアルフィスが入る。


「いやぁロールがいなかったらみんな死んでたね!さすが天下の大魔法使い!」


「おお!!ロール……お前、大魔法使いになったのか……」


ロールはアルフィスの言葉に絶句していた。

一方、モーリスはその言葉に涙していた。

この小さな町の期待の星が大魔法使いなんて、町のみんなが知ったら泣いて喜ぶだろうと。


「まぁ、とにかくライデュスへ向かおう。ルイスは私の馬に乗るといい」


こうしてアルフィス、ロール、ルイス、モーリスの四人は皆でライデュスへ向かった。



______________________




ライデュスに到着すると噴水前は人だかりができていた。

避難してきたラタムの住民達がここに集まっていたのだ。

その中にロールの母親もいた。


「母さん!!」


ロールとルイスが涙目で母親に抱きついた。

母親もロールとの久しぶりの再会と、ルイスの無事に涙していた。

アルフィスはその二人の姿を見て笑みをこぼし鼻をかいた。


アルフィスは噴水の前を離れ、近くにいた魔法使いの所へ向かった。

 

「すまない、メルティーナはどこだ?」


「え?メルティーナお嬢様ならグレイ様の部隊とダイナ・ロアへ行きましたよ」


「はぁ?どういうことだ!ここで黒い薬の調査するって言ってたんだぞ!」


「グレイ様からはセシリア総隊長の指示だと伺ってます。先に安全確保で向かってくれと」


アルフィスはその言葉に焦りを感じた。

あれから一日しか経っていないのに、ここでも行き違いになってしまった。

しかも、よりにもよって内通者の可能性があるグレイと一緒となれば気が気では無い。


「どうする……」


アルフィスの隣にはいつもアゲハやメルティーナという指示役がいてくれた。

そのおかげでアルフィスはこの場所まで来れたのだ。

一人になったアルフィスは迷っていた。


「どうしたんだ?アルフィス」


噴水前にいたはずのロールが声を掛けてきた。

ロールはアルフィスの表情を見て心配そうだった。


「メルティーナがグレイと一緒にダイナ・ロアへ向かった。セシリアの指示だそうだ」


「な、なんだって!?」


「どうする……」


焦るアルフィスを見てロールは深呼吸した。

そして意を決したようにアルフィスの背中を思いっきり叩いた。

アルフィスは驚いて飛び上がる。


「てめぇ!何すんだよ!」


「"どうする"じゃない。行くんだろ?」


ロールの言葉にアルフィスはハッとした。

いつもの自分なら迷わない。

進もうと思ったら止まらないのがアルフィス・ハートルだ。


「大事な仲間なんだ。迎えに行こう!」


「そうだな……行くかダイナ・ロアへ」


アルフィスとロール笑みを浮かべた。

そして、すぐに真剣な表情となる。


二人はメルティーナと合流するため医療都市ダイナ・ロアを目指すこととなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る