ドラゴン・ハート

ロールが町に帰ってきたのは5年ぶりだった。

魔法学校に入り卒業してからはすぐに水の国の軍に入ったことで、故郷へ帰っていなかった。

ロールは町全体から期待されていた。

逆にその期待はロールにとっては重いものだった。

ロールはあまり魔力があるわけでもなかったが、なぜか周りに恵まれ、そして昔から幸運ラッキーな事が多かった。


"ロールいたから助かった"


ロールが昔からよく言われた言葉だ。

なぜそうなのかは自分でもわからなかったが、ロールはみんなの役に立てることが嬉しかった。

何よりも家族が喜ぶ姿見るのがとても嬉しかったのだ。


だが、初任務でバディを置き去りにして瀕死の重症を負わせてしまった。

バディだったジーナは未だに目覚めない。

ロールは何度も悔やみ、そして軍を辞めて土の国へ向かったのだった。


ロールはアルフィスと出会った時もまた逃げてしまった。

二度と逃げないと思っていたのに、やっぱり怖くて逃げた。

ここまでずっとアルフィスやメルティーナが守ってくれたが、もうこれ以上、二人の後ろに隠れているわけにはいかないとずっと思っていた。


二度と大切な人を置いて逃げることはしない。

ロールの心にはもう恐怖など無かった。


「僕は……もう逃げない!」


曇り空、雪が少し降っている。

ロールは屋敷と弟のルイスを守るように背にし、サーシャに向けて竜骨の杖を構えた。


するとロールが持つ杖から透明なオーラが放ち始める。

ロールは初めて見るオーラに驚いた。


「な、なんだこれ、今までこんなの出たことないのに……」


それを見たサーシャは戦闘開始と受け取ったのか、一気にロールへ向かった。

そのスピードは完全にアルフィスと同等のスピードで人間の目には捉えられないほどの速さだった。


ロールの目の前に現れたサーシャは右の回し蹴りを放つ。

ロールはその回し蹴りを顔面に受けた。

……と思った瞬間、ロールが一瞬で水になり、大量の水が地面に落ちた。


ロールはサーシャがいた場所にワープしていた。

ロール自身何が起こったのかさっぱりわからず、地面に膝をつく。


「な、なんだ?今のは……詠唱もしてないのに勝手に魔法が発動した……」


サーシャは首を傾げ不思議がっていた。

屋敷の入り口付近にいるサーシャは、家の中の怯えるルイスの方を見た。

ロールはそれにハッとし、立ち上がりオーラを放つ杖を構える。


「お前の相手はこの僕だ!!」


サーシャはゆっくりロールを見る。

その眼光は先ほどの虚な目とは違い剣のように鋭い。

ロールはそんな目を見ても"心"は引かなかった。


「水よ敵を切る刃となれ……」


詠唱が完了した瞬間だった。

凄まじい爆風がロールの周りで起こり、バチバチと青い雷撃が周囲に走る。

魔法陣が展開されるが、その魔法陣はロールが唱える中級魔法の魔法陣の大きさではない。

もはや大魔法クラスの魔法陣が展開されていた。


それを見たサーシャはまたしても猛スピードでロールへ迫る。

ロールの腹に右ストレートを決めるが、またもやロールは水になってその場から消る。


ロールはまたサーシャがいた屋敷側へワープしていた。


「これでも食らえ!!水刃すいじん!!」


ロールは勢いよく杖を横に払った。

その瞬間、横に水の刃が出現するが、その長ささは5メールを超えていた。

さらに水の刃の周囲には爆風が纏っており、ロールはその見た目だけでこの魔法のヤバさを実感した。


水の刃は猛スピードでサーシャへ向った。

水刃の直撃を受けたサーシャはクロスガードしているが、耐えている最中も爆風が周囲を切り裂き、家屋の窓や壁が破壊された。


サーシャが耐えていると水刃はその場で一瞬で"青い球体"となった。

爆風は消え、"青い球体"は凄まじいスピードで真っ赤になっていた。

球体は熱を放ち、その熱量で周りの雪を溶かしていき、最後にはサーシャの目の前で爆発した。


その爆発にサーシャは耐えられず、数十メートル吹き飛ばされた。

サーシャは家屋を突き破り止まった。


「や、やったのか……?だけど、これは水刃じゃない……それに勝手に補助魔法も発動するし……なんなんだこの杖は」


ロールは杖を見て困惑していた。

リーゼ王の杖だからなのか、なにか特殊な杖なのだろうかとロールは思っていた。


ロールは安堵してルイスの方に向かう。


「怪我は無いな。とりあえずライデュスへ避難しよう!」


ルイスは涙目でこくりと頷く。

ロールとルイスは屋敷を出て、アルフィスを探そうとしていた時だった。

屋敷の前にサーシャが立っていた。

そのサーシャの姿にロールは驚いた。

サーシャはロールの高威力の魔法を受けて無傷だった。


「ルイス!後ろへ隠れてるだ!」


ルイスはロールのローブを掴みビクビクと震えている。

ロールは再度、杖を構えて臨戦体制だった。


サーシャはその光景をじっと見ていた。

サーシャの眼光に鋭さは無く虚な目だった。

ロールがサーシャの目を見ると、なにか悲しげで涙を流しているようにも見えた。


「ど、どうしたんだ……」


全く襲ってこないサーシャを見て困惑するロールだったが、そんなロールをよそにサーシャは振り向き町の入り口へ向う。


サーシャはそのまま姿を消した。

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