火と風と
アルフィスはザックとライアンが対抗戦に向けて特訓していることは知っていた。
ザックとライアンもアルフィスに対して特訓を促していたが、アルフィスはあまり乗る気ではなかった。
アゲハの骨折が治らないことを理由に練習から逃げていたのだ。
そんなある放課後の帰り。
「アル、バディ組むって言ってから一週間経つけど、お前、連携特訓とかしてるのか?」
「いや、全然」
即答だった。
そもそもバディを組むと言ってから一度もアゲハとは会ってない。
「流石にまずいと思うよ。特にアルとアゲハさんはどっちも前衛なんだから、連携の取り方とかしっかり打ち合わせしないと」
ライアンが至極真っ当な話をする。
確かに、対抗戦に出場するバディの中で前衛が二人なんてチームはアルフィスとアゲハくらいだろう。
「あいつ、あれから来ないから、そのままになってたな」
アルフィスに二度会いに来ていたが、バディを組んだ途端来なくなってしまったのだ。
「アル、お前バカか。普通男子が女子を迎えに行くんだぞ」
「とにかく、今日はしっかり迎えに行ったほうがいいよ」
二人とも親のようにお節介を焼いてくるが、アルフィスを心配してのことだった。
二人はアルフィスの母親の事情を知ってから、何かと今まで以上に心配してくれるようになっていた。
「わかったよ!行けばいいんだろ!」
アルフィスは女子の免疫はほとんどない、前世では、"彼女なんて弱い奴が作るもの"と思っていた。
そんなアルフィスが自分から女子を迎えに聖騎士学校の校門前で待つという行為は拷問にも似ていた。
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聖騎士学校校門前
聖騎士学校の校門前には男子もちらほらいた。
自分のパートナーを迎えに来ていたのだろう。
アルフィスがズボンのポケットに手を突っ込み、あくびしながらアゲハを待つ。
それを見た聖騎士学校の女子生徒は蔑むような目で睨み離れていく。
「俺なんか悪いことしたか?」
独り言が溢れる。
すると一人の女子生徒がアルフィスを見つけ近づいてくる。
その女子は金髪、肩下まである巻き髪で見るからにお嬢様という感じだった。
リボンの色はブルーで腰にある剣は異様に細い。
そして極め付けは後ろに執事のような老人もついていて、そのまた後ろには取り巻きもいた。
「ああ、あなた、確かアゲハさんに勝った……んー名前なんだったかしら?」
「アルフィス・ハートル様です」
後ろの執事が答える。
「そうでしたわね。下級貴族の名前なんていちいち覚えてられませんから」
めちゃくちゃ高飛車、上から目線が露骨すぎてアルフィスは言葉を失うが、それよりも見た目のインパクトが凄すぎた。
完全にアルフィスの苦手なタイプだった。
「それにアゲハさんとバディを組んでおいて迎えにも来ないなど……紳士は淑女をエスコートするもの。あなたにはアゲハさんはふさわしくありませんわね」
そう言って執事と無数の取り巻きと共にアルフィスを睨んで帰ってしまった。
「なんだあのゴージャスは……」
言われたことはごもっともなことだが、それ以上の存在感にアルフィスは度肝を抜かれて、それどころではなかった。
そもそも日本にはあんなのはいない。
「アルフィス。ようやく来ましたね」
そうこうしているうちにアゲハがやってきた。
周りには数人の女子の取り巻きがいたが、アゲハが先に帰ってくれと帰した。
「すまんな、迎えに来なくて」
「別に構わないですよ。あなたに蹴られた腕が治るまで少し掛かりましたから」
骨折は一週間だと治らないだろうとアルフィスは思ったが、ここは剣と魔法の世界。
どうせエンブレムに治癒能力的な何かがあるのだろうと予測した。
逆にアゲハはアルフィスが骨折を心配し、配慮して迎えに来なかったのだろうと思っていた。
だが実際はアゲハが来るまで待っているつもりだったとは流石にアルフィスは言えなかった。
「万全ではないですが、訓練はできますよ。闘技場へ行きましょうか」
「そうだな」
二人は並んで闘技場へ向かう。
周りにいた女子生徒はアルフィスの背中をじっと睨んでいるのだった。
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闘技場
アルフィス達が到着するとすでに数人の生徒がいた。
対戦時の作戦や連携などを話し合いながら訓練していた。
入口まで来たところで二人の生徒とすれ違う。
もう訓練が終わって帰る生徒のようだ。
「あら?あなた確か聖騎士に勝ったとかいう……ロイ、あんたも知ってるよね?」
ショートカットの女子で少し赤が混ざった髪、首にゴーグルをぶら下げており、腰にはショートソード。
赤いリボンを見る限り、火の国出身ということがわかった。
「うん。聞いてるよ。自分が負かした聖騎士とバディを組んだっていう変わり者。なのに対抗戦の優勝候補だって」
ロイと呼ばれた男子生徒は身長160センチほどでアルフィスよりも小柄だった。
髪の毛はボブヘアで少し緑掛かった色をしていた。
体格に似合わない大きな杖を持っている。
ネクタイの色は緑で、風の国出身だということがわかった。
「へー。弱い奴とわざわざ組むなんてどうかしてるわね。私はリナ・ロックハート。試しに私たちと戦ってみない?」
「弱いのと戦っても意味ないと思うよ。僕、さっさと帰りたいんだけど」
リナとロイのやりとりを聞いていたアゲハは感情的になり喧嘩しそうな勢いだ。
「あなた達、失礼ではないですか!」
「まぁまぁ」
アルフィスがアゲハをなだめる。
喧嘩上等のアルフィスだが、さすがに連携も練習してないのに戦うのもなんだと思ったのだ。
「売られた喧嘩は買ってやるが、また今度な」
そう言ってアルフィスはアゲハを引っ張るように闘技場の奥へ向かおうと二人に背を向けた。
アゲハも冷静にと、自分に言い聞かせ、アルフィスの後を追う。
「あら残念。ビビっちゃったのかしら」
リナのその言葉を聞いたアルフィスが立ち止まった。
「……お前、今なんて言った?」
「え?聞こえなかった?ビビって逃げたって言ったの」
言葉が付け加えられていた。
明らかにアルフィスを挑発した発言だった。
アルフィスは振り向くが、その表情は明らかにキレていた。
こめかみには血管が浮き出ており、今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。
「あ?てめぇ、誰がビビってるって?」
ドスの効いた声に、近くのアゲハが息を呑む。
リナはニヤニヤしながらそれを眺めている。
アルフィスとアゲハにとって初めてのタッグマッチが始まろうとしていた。
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