アルフィスとアゲハ
今日の学校は昨日の対応とは打って変わっていた。
朝の登校時、魔法学校の男子生徒はアルフィスを見る度、声を掛ける。
「よう!アルフィス!」
「昨日はカッコよかったぜ!」
「聖騎士に勝ったなんてマジかよ!」
一体何人に話しかけられたことやら。
アルフィスは戸惑って語彙力を失い、"おう"とか"まあな"という言葉しか出なかった。
昨日の試合を観戦していた男子生徒達が、ある事ない事を語り、瞬く間にその噂は流布していた。
"魔法使いが聖騎士に勝った"
しかもこの実力主義の世界で魔法学校の落第寸前のアルフィスが聖騎士学校の学年最強と言われるアゲハを圧倒し勝利を納めたことは衝撃的だった。
「なんか、今日みんなに声掛けられるだが、俺なんかしたか?」
ザックとライアンと校門前で出会い、三人で教室へ向かう。
「なんかもなにも、魔法使いが聖騎士に勝つなんて前代未聞だぞ!」
「そうだよ。それが学生同士であってもね!」
「ふーん」
話を人ごとのように聞くアルフィスを見て呆れる二人。
アルフィスは全くことの重大さを理解していなかった。
「まぁでもエンブレムを最初から使われてたら負けてたね」
「確かに。相手からハンデもらってんだから、勝ったかどうかと言われれば微妙だぞ」
ザックとライアンは二人で昨日の決闘に盛り上がる。
否定的な意見を言っておきながら、凄く楽しそうだった。
「エンブレム使われても勝ってたさ」
アルフィスの発言に少し小馬鹿にした笑いが出るザックとライアン。
二人は流石にアルフィスが強がっているのだろうと思った。
「はぁ?無理に決まってんだろ」
「そうだよ。特にアルの戦闘スタイルは近接型。補助魔法が掻き消され放題じゃないか」
やっぱり否定的な意見を言う二人だが、お構い無しにアルフィスは続ける。
「エンブレムには弱点があるんだよ」
そのアルフィスの発言にザックとライアンは驚いていた。
この世界で最強と言われるほどのスキルであるエンブレムに弱点があるとは一体どういうことかと。
「弱点ってなんなんだよ」
「そんなの聞いたことないよ?」
「お前らに言ってもわからんさ」
話しをしているうちに教室まで辿り着くと、やはり昨日とは真逆で、まるで英雄が帰還したかのような眼差しでアルフィスはクラスメイトから見られた。
アルフィスは悪い気はしなかった。
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下校途中、校門前に人だかりができていた。
アルフィスがまたかと呟き、人だかりの方を見ると、アームホルダーをしたアゲハが立っていた。
「またなんか用か?」
アルフィスがぶっきらぼうに尋ねる。
アゲハの周りの女子生徒はアルフィスを睨んでいる。
男子からの支持は集めたが、女子からの評価はまた下がったらしい。
「昨日は油断しました。自分の強さを証明するはずが、恥を晒すとは」
「わかったろ、まだ自分が弱いってことが」
アゲハはその言葉を聞いて目を閉じる。
自分はまだまだで、学年最強と周りから言われて慢心していたのだと痛感した。
"強くなった気でいると成長は止まる"と先生にも言われたなとアゲハは昔のことを思い出した。
「ところで、お前、バディは決まったのか?」
アルフィスが思いもよらないことを尋ねる。
周りにいる生徒達も騒めく。
さすがに昨日の今日ですぐ決まるはずはない。
「まだですが」
「俺と取引しないか?」
「取引?」
どこかで聞いたことがある会話にアゲハは戸惑い、ザックとライアンは顔を見合わせる。
「俺とバディを組まないか?そのかわり学位を取ったら水の国の最北端の医療施設へついてきてもらう。母さんが死にそうでな。その後なら火の国でもどこでも行ってやる」
思ってもないことにアゲハはさらに驚いた。
この発言には男子生徒も女子生徒もみな顔を見合わせた。
「なるほど、あなたはこういう気持ちだったんですね……いいでしょう。そのかわり必ず今年優勝する」
「決まりだな」
このやり取りに、周りの生徒達は沸き立つ。
もはや最強パーティなのではないかと。
学年最下位の魔法使いと学年最強の聖騎士のバディがここに誕生した。
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