アウトロー


補助魔法、特に火の補助魔法はまず使われない。


その理由は魔法使いの相棒は必ず聖騎士だと言うことだ。

火の下級魔法は"持続系"の補助魔法のため、聖騎士がエンブレムを発動すると全て効果が無効化される。


だから自然と火の補助魔法は自分に使うということに辿り着く。

しかしバディのお陰で、魔法使いが自身を強化する必要がないし、さらに火の中級魔法は攻撃的なものが多い。


だから前衛が聖騎士で後衛が魔法使い。

これで戦いの編成は完結していた。


だがアルフィスはその魔力の低さから下級魔法しか使えない。

なので初めから自分を強化して戦うことを念頭においていた。


アルフィスが最初に刻み込んだスキルは"複合魔法"と"無詠唱"だった。

複合魔法は下級魔法を二つ同時に発動できるというもの。

無詠唱は下級魔法の詠唱を無くしてしまうというものだ。


通常、補助魔法は最大二つまで対象に付与できるが、重ね掛けができない。

なので一人の対象に使う補助魔法は違う魔法でなければならなかった。


だがアルフィスは複合魔法で自分に二つの補助魔法をかけてあることに気づく。


"減ってる魔力は魔法一回分だった"


つまり"複合魔法"は"複合魔法"という一つの魔法だということなのか?

これなら複合魔法で同じ魔法を二つ入れても一つの魔法と処理されて発動するのではないか?


試してみたらファイアボディの効果が二倍になっていた。


そしてさらにアルフィスはもしかしたらファイアボディと複合魔法(ファイアボディx2)を付与できるのではないかと考えた。


やってみたらできてしまった。


ファイアボディという魔法と複合魔法という魔法は別なため、重ね掛けではなかったからだ。


だが、あまりにも付与する負担が大きすぎて、アルフィスはその日気絶して一週間寝込んだ。

なにせ二つしか付与できない補助魔法を実質三つ付与してしまったから。


次に"魔法解除"のスキルを刻んだ。

これで戦いの状況に応じて付与する補助魔法を変更しながら戦える。

そして極め付けは"下級魔法強化"だ。

これは下級魔法の効果が二倍になる。


ただ弱点もあった。

それはアルフィスの魔力では、一日に唱えれる下級魔法は三回だけということと、魔力量の問題で補助魔法の持続時間はせいぜい一分程度ということ。


つまり魔法三回、三分以内に戦いを終わらせなければいけない。


しかし、この下級魔法とスキルの組み合わせは、誰もが上を目指すこの世界では、誰にも想像及ばない構成だった。


アルフィスがこの結論に辿り着いたのは、"転生術"を見つけてから。


アルフィスはこの戦い方を最大限に生かせる強者で、魂の器の形が似ている者を探して、一人のヤンキーに辿り着いたのだった。



闘技場



アルフィスとアゲハとの距離は大体10メートル程度だった。


アルフィスが何か口にして、魔法陣が現れた瞬間に、アゲハに鋭い眼光を向ける。

その瞬間に姿を消した。


ワープ系の魔法なのか?

しかし、そんな魔法は火の魔法には無い。


アゲハは目がよかった。

カウンターに特化している天覇一刀流だが、アルフィスはあまりにも早すぎた。


次に姿を現した時にはアゲハの目の前でジャンプ蹴りのモーションを取っていた。


右のジャンプ蹴り

アゲハはギリギリのところでショルダーガードする。


「うっ!」


めりっと嫌な音がした。

そのまま横に5メートルほど吹き飛ばされたが、なんとか足を踏ん張って耐えた。

アゲハは左肩の骨が砕けたことを瞬時に悟った。


アルフィスは止まらず、また一瞬でアゲハの目の前に現れ、体制を低く取る。

凄まじい勢いで左拳が地面を擦り、そのままアッパーを繰り出す。


「うおおおおお!」


そのスピードにアゲハは刀を構える事すらできず、ボディを狙ったその拳を鞘でガードすることが精一杯だった。


アゲハはあまりの衝撃に数十メートル上空に吹き飛ばされる。

アルフィスはビュンと地上から消え、素早くアゲハよりも高空へ移動していた。


あれだけ賑わっていたギャラリーが静まりかえる。

すると何人かの男子生徒が声を上げる。


「マジか!魔法使いが聖騎士に勝てるのか!」


「アルフィスやっちまぇ!」


「頑張れアルフィス!聖騎士を倒してくれ!」 


あれだけ悪態をついていた男子達はもうアルフィスの味方だった。

聖騎士が生まれてからこの数百年、目には見えずとも、明らかに男子と女子とでは格差があった。

それは魔法使いである男子は聖騎士である女子には絶対勝てないということが原因だった。


だが今、それをひっくり返そうとする者が現れた。


「これで終わりだ!」


上空のアルフィスは右手に力を込め渾身の右ストレートを叩き込む。

アゲハは鞘でガードするも苦悶の表情。

さらに鞘にヒビが入る。


離れて見ていたコイントスをおこなった女子生徒が必死に声を上げる。


「アゲハ様!エンブレムを発動して下さい!」


その言葉にアゲハの右手の甲は光を放つ。

アルフィスの魔法は一瞬にして解除された。


しかし、発動が遅かった。

アルフィスの右ストレートのパワーは明らかに伝わり、右拳を振り抜いた瞬間、勢いよくアゲハは地面に叩きつけられる。


ズドン!と甲高い音が闘技場に響き、その衝撃で砂埃が上がった。


ゆらゆらと立ち込めた砂埃の中に影があった。

アゲハは刀地面に杖のようにつき、かろうじて立つ。


「これを食らって立ったのは、お前が初めてだ」


「まさか、これほどとは……エンブレムを発動しなければ死んでいた……」


エンブレムには肉体強化の作用もあるため、ある程度であれば攻撃を受けても耐えられる。


「アルフィス・ハートル。あなたの勝ちです……」


「楽しかったぜ」


アゲハはその言葉を聞いたと同時に力尽き倒れ込んだ。

近くの女子生徒が駆け寄り救護する。

他の女子生徒も客席から降り、足早にアゲハの元に駆け寄っていた。


アルフィスはそれを横目にブレザーの上着を拾い、肩にかけて闘技場を後にした。


この出来事をきっかけにアルフィス・ハートルという生徒はこの後に"補助魔法の悪魔"と呼ばれ、両学校に長く語り継がれることになる。

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