第40話 そして英雄がまた一人……

 強すぎる。


「ふぅ、坊ちゃま、もう無事ですよ。そして、もうどこにも行かせませんぞ?」


 圧倒的な力でヴァブミィを退けたソード。


「うふふ、御主人様。今宵は大人の階段に登って頂きましょうね」


 そのソードと同等の雰囲気を醸し出しているマギナ。

 色んな意味で二人は強くてヤバかったんだな……


「……イチクノ……勝てる? 二人に」

「……申し訳ありませんが、正面からは不可能でござる」

「は、はは、そっか……お兄様もエンゴウ総司令もビックリするね」

「……ええ、紛れもなく桁外れの怪物」


 それはヴァブミィと同じように本来なら勇者になる才能のあるトワレも、そしてその側近のイチクノも戦慄するほど。

 

「まっ、待ってください……ハーくんは……ハーくんは……」


 そして、まるで我が子を連れ去られる母親のような表情で、這い蹲りながらもこちらに手を伸ばしてくるヴァブミィ。

 それに対して、ソードとマギナは……


「うひひひ、坊ちゃまぁ~、今宵は小生とお風呂でちゅぞ~♥」

「母乳の出る薬を飲みますので、是非にマーマに甘えてくださいまし♥」


 まるで見せつけるように俺を抱き寄せて悪魔のように笑った。


「だ、め……ハーくん! マーマが、いま、たすけ、わたしの……ハーくん!」


 だが、息も絶え絶えだけども、それでも子のために悪魔にしがみつく母……だから違うってのに!


「あ、あのよぉ、俺は―――ぐっ!?」


 いい加減に正気に戻ってくれ―――そう口にしようとした瞬間、何かが俺の中で弾けた。


「ぐ、う、ううぐ、ぐううう!」


 熱い! 心臓が破裂しそうなこの感覚! これは小さくなったときに味わった……


「うぇ!? あ、坊ちゃま!?」

「どうされたのです、御主人様ッ!」

「ハビリ!」

「御館様!」


 慌てて俺に叫ぶ皆。

 そして……


「い、いやああああ、ハーくん! どうちたの!? いや、しっかりちて! マーマでちゅよ! マーマが、マーマがッ!」


 匍匐前進しながらも執念で、俺をアタフタしているソードから奪うようにして抱きしめるヴァブミィ。

 俺の熱くなり、激しく動悸する体に涙を流しながら……


「うおおおおおおおおお!!」

「ハーくんっ!」


 そして……



「……うぇ?」



 全てが徐々に収まり……


「坊ちゃま! おお、そうか時間切れ―――はう♥」

「たしかにそろそろ時間でしたね……おほ♥」

「わ、は、ハビリ……ゴクリ……な、何アレ!?」

「な、なんたる……雄々しく猛々しい……」


 なんだ? 俺の体に一体何が……いや、それどころか周囲の風景が小さく? ソードたちが小さく?

 違う。


「よっと……あ……おお! 元に戻ってる!」


 そう、どうやら俺の体が元に戻ったようだ。


「はっはー、そっか薬の効果が切れたのか! くははは……さ~~~て!」


 よかった。これでもうオモチャにならなくて済む。

 それどころか、俺を弄ぼうとした……



「マギナぁ!」


「ッ!?」


「よくも俺のメシに薬を……これは、やっていいことと悪いことがあるぞ!(前回は俺も無理やり二人に飲ませたけども)」


「ぶひ♥♥♥」


「それにソードも、つかトワレもイチクノも、よくも俺を玩具にしようとしやがったな! 覚悟は―――」


「わん♥♥♥」



 これは、罰を与えなければ……と、俺が怒りを見せた次の瞬間。

 なぜかマギナが……



「ぶひ♥ ぶひぶひぶひ♥ 御主人様、いけないクソ豚ですぶひ♥ 何卒罰を与えてくださいブヒ♥」


「え……」



 と、目の前で四つん這いになり、メイド服のスカートをペロリと捲って、ガーター付きの白下着を俺に突き出して、左右に勢いよくケツフリフリ。



「御主人様に謀反を起こしたこの雌豚は、御主人様、おほ♥ お仕置き棒で死ぬほど叩いてくださらないとダメですブヒィ♥ (きゃああ~~~、御主人様ぶひいいい! おっしおき、わっからっせ、はっらませるぅ♥)


「い、いや……」



 説教、罰、お仕置き……何をやっても無意味どころか喜ばせてしまうと秒で理解できてしまうほどの痴態を晒すマギナ。

 さらに……



「わんわん♥ わん♥ わんわん♥ 坊ちゃま、わんわん♥」


「っ、ソード!?」


「お仕置きわん♥ 坊ちゃまの雌犬ソード、小生は坊ちゃまにしつけてもらうわん♥ ほっ♥ ほっ♥ わん♥ わん♥ (あぁ、ようやく降臨された、あの絶対無敵最強を見せつけられたら誰もが賛美する、坊ちゃまの裸! あぁ、坊ちゃま、早く小生をぉ♥)」


 

 ソードは両手を頭に乗せて、両足を大きくガニ股で開いて、腰を低くしながら前後に振る。

 ソードは制服の丈の短いスカートなので、黒い食い込みパンツが丸見えである。

 それはかつて、俺が嫌がるソードに無理やりやらせた余興のダンス。

 ガニ股腰振りダンスだ。


「ちょ、ちょぉ、な、何なの二人とも!? え? ねえ、イチクノ、私もコレしたほうがいいの!?」

「い、いえ……それはやめた方が……どうしてもとなったら、拙者がヤルでござる……むぅ」


 トワレもイチクノも、そして教会のシスターたちも呆然としてしまうほどの二人。

 まさかこの世界では俺が命じる間でもなく自分から……


「ブヒブヒ♥」

「わんわん♥」

 

 目の前で発情して、俺に向けてお仕置きをせがむ二人。

 ダメだこいつら……早く何とかしないと……ってか、いかん……どんどんエロい気分に……


「ええい、やめろお前ら、見せつけんな!」


 ってか、俺全裸じゃねえかよ。しかも何というか体も熱くて元気で、そんな状態でこのトビっきりのエロい二人。

 このままではどうにかなってしまうと、俺は慌てて二人に『背を向ける』。


「―――――――ッ!?」

「あ……」


 だが、そのとき、俺は自分の配置を分かっていなかった。

 俺のすぐ後ろには、まるで状況を理解していないヴァブミィが、『上半身だけを起こして』、『口をポカン』と開けたまま固まっていたことを。


「あ……」


 そして、ソレが……



「わ、ワオおおおおおおおん!? ぼぼぼぼ、ぼっちゃまぁああああ!?」


「ぶ、ぶひいいいいいいいん!? ごごごご、ごしゅじんさまあああ!?」



 その場にいた……



「いやあああああああああ!? なななん、何やってんのぉ!? ひ、ひい!?」


「お、おお……ピ、ピンポイントでござる……」


「あああ、何という汚らわしい! しゅ、主よ……嗚呼、シスター・ミィ、な、なんという悲劇!?」



 全ての女たちが悲鳴を上げ……


「――――――ッ!!!!!!?????? ……かくん」


 ヴァブミィは完全に意識を失った。














 そして翌日……


「え?」


 俺は一年の教室の前でネメスから……



「だから~、ミィさんが欠席で……お見舞いに行ったら、すごい病んだ表情で『私の坊や……』ってブツブツと呟いて正気を失っているって……先輩、何か知ってますか?」



 チオに続き、ヴァブミィが登校拒否になったと聞いた。







 ま、待て!? 奇跡の黄金世代がまた一人減った!!!???



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