第34話 一番まともな奇跡の黄金世代
何とかしないと。
昨日はトワレたちの所為でもう少しのところでチオとの和解が成立しなかった。
とはいえ、たぶんあと少しのことだと思う。
それを乗り越えれば、チオは何とかなるかもしれない。
でも、親父たちが来週には国を出てしまう以上、チオ一人にいつまでも時間を費やしている場合じゃない。
一応チオが少しは元気になってくれたっぽいし、少し期間を置けば怒りも収まりそうだし、ならその間に俺がやるべきことは?
「えっほ、えっほ……今日……学校でどうにか話してみるかな?」
俺はまだ朝早く人通りも大してない町中を走っていた。
体力づくりの訓練のようなものだ。
屋敷に庭でやってもいいんだけど、ソードやマギナも何かしてるっぽいし、それに走るなら家の庭をぐるぐる回るよりは、風景が変わる街中の方が開放的な気分にもなるので色々と良い。
考え事をするにも落ち着くし―――
「きた! せ~~ん~~ぱ~~い~~♥」
「……」
「おはよーございます! いやぁ~、今日も奇遇ですねえ、ハビリ先輩!」
だが、すぐに邪魔が入った。
雌猫……じゃなくて、猫なで声のネメスだ。
「おう……昨日の朝も会ったな」
「えへへへ、偶然ですねえ~、でもせっかくなので一緒に走りましょ、先輩♪」
「お前、寮の奴らは無断外出許されないんじゃないのか?」
「だから、先輩、し~~、ですよ?」
散々粘ったようだが、ネメスも俺の屋敷から出て、学園の女子寮に入った。
俺の家から通いたいとかホザいていたけど、「お前は女子寮に入るべき」と、トワレ、ソード、マギナが束になってネメスに圧をかけて、泣く泣くネメスは俺の家から出て寮に入った。
そしたら、俺の毎朝の日課のジョギングに待ち伏せでもしているかのように現れてくるのだ。
「そういえば、先輩。チオ・アヘイクさんのこと、どうされるんですか?」
「ん? あ~、一応昨日、あいつの家に行って、あいつやあいつの両親とも会ったが―――」
「ぶっ!? え!? せ、先輩が、あ、あの子の家に行った!?」
「ちょ、いや、お前、声……近所迷惑……」
ジョギングしながらの雑談を振られたので俺が答えると、ネメスは目を大きく見開いて悲鳴のように大声を上げた。
「そ、そんなことより、先輩、あの子の家に行って両親にまで会ったんですか!? ずるいです! 僕の方が早く先輩と出会ったのに、なんであの子の方がそんなに早く!?」
「い、いや、それは俺が押しかけて―――」
「んな!? 先輩どうして!? あの子、すっっっっごい生意気な口の利き方で先輩にも酷い態度だったのにどうして?! え、先輩って、そういう子がタイプなんですか!?」
「ちげーよ! あいつも、そしてお前も、これからの世界のために必要なんだよ。ただ、それだけだ」
「あいつも必要ってなんですか?! 先輩って、女の子がそんなに必要なくらいエッチなのに、でも僕まだ何もされてなくて、ど、どういうことですか!?」
「お前がどういうことだよ、落ち着け」
取り乱して捲し立てるネメスを窘めながら、今後のことを改めて考える。
ネメスの覚醒をどうする?
チオの御機嫌取りはいつにする?
ソードとマギナは戦闘に関しては問題なさそう?
トワレはどうしよう?
そして……
「ふふふ、主よ……今日も賑やかな朝です。ただ、今日は二つの光が少し口論をしているようですけど」
奇跡の黄金世代のもう一人の女。
いつもランニングで通っている、この教会の……
「あっ、おはよーございます、『ミィさん』!」
「ふふふふ、ネメスさん、おはようございます」
って、居たよ!? あの女が!
ん? 『ミィ』? いや、こいつの名前は……ああ、あだ名か。
「ふふふ、朝から精が出ますね。先輩さんも」
「あ、お、おお……」
ヤベエ。いつも教会は通るけど、とくに遭遇することも無かったから油断していた。
シスターの礼服に身を包み、どこか神聖さを感じるオーラを身に纏った、少しおっとりとした感じの柔らかい母性の塊のような微笑を見せる、長い金髪のシスター。
今年入学した、ネメス達の同級生。
奇跡の黄金世代の一人。
「そういえば、初めましてですよね。私は一年の――――」
「……ああ……」
神官魔法騎士と呼ばれた傑物だ。
そしてこれが初めての出会い。
名は――――
「しすたー、おはよー、牛乳持ってきたよー」
と、そこで小さな子供の声が聞こえた。
その瞬間、シスターはクルッと振り返り……
「あい、牛乳!」
「まぁ、タッくん! おはよう! 今日も家のお手伝い? たいへんでちゅねぇ~」
「うん! でも、シスター、俺、赤ちゃんじゃないから、でちゅねって、やめてよぉ!」
「え~? そうでちゅかぁ?」
そこに居たのは、牛乳配達をしていると思われる小さな男の子。
屈託ない笑みにシスターはキラキラの満面の笑みを見せながら中腰になって、赤ちゃん言葉で話しかけている。
「それに、今日はおれだけじゃないよー。あのね、みんなもお小遣いもらえるならやってみたいって! おれのクラスの奴らも一緒にやってんだー」
「「「「おはよーございまーす!」」」」
そして、その少年の後ろには、同じ歳ぐらいの男の子たちが5人ぐらいで牛乳配達の格好で挨拶してきた。
「わぁ、懐かしいなぁ、僕も村でやってたなぁ~」
「へぇ~、そうなんだ」
ネメスが微笑ましそうにしながらそう口にした。
俺はこういうことを一切しなかったな。朝起きてテーブルに行けば勝手に牛乳とかは出てくる生活だったし。
世の中にはこんな小さいガキが働いているというのに……嗚呼……ほんと俺は……
「まぁ! まあまあまあまあ! 何てお利口さんたちなんでちゅか!? もう、もう、あなたたちにはイイコイイコしてあげたいでちゅ!」
「「わっ……」」
と、そこでシスターは目を輝かせて興奮したように叫んだ。
いや、感激しすぎというか……俺もネメスも流石にちょっと驚いた。
「そんなのいいよーだ、じゃあね、シスター」
「「「「「ばいばーい」」」」
だが、そんなシスターもサラリと交わして牛乳配達の少年たちは行ってしまう。
そんな少年たちの背を見ながら、シスターは……
「はぁ……小さい男の子、すこ……」
ん? ん? 今、なんか言ったか?
「ハッ!? あ、し、失礼しました、ネメスさん、先輩。あの自己紹介がまだでしたね」
と、そこで急に正気に戻ったシスターが慌てて取り繕って俺に再び振り向き、改めて自己紹介をしようとした、その時だった。
「お、おお」
「私は――――――」
―――ビリビリッ! ぼいいいいいいいいいいいん♥
「きゃあっ!?」
「うぇっ!?」
「ひゃぅ!?」
次の瞬間、俺は驚いた。何かが破れたような音がした直後、シスターの両胸が一瞬で膨らんだ。
デカい!
デカい!
いや、デカい!
ソードよりもでかい!?
「で……でかすぎんだろ!?」
「ちょ、そ、それは、なななな、なんですか!?」
「はう、ご、ごめんなさい! い、いやだ、サラシが……」
さ……サラシ?
すると、シスターは顔を真っ赤にしながら胸を手で押さえ……
「わ、私、実は下着の合うサイズが無くて、それに醜いので、いつもサラシで押さえつけて……」
「「んなっ!?」」
し、知らなかった。いや、前回も知らなかった。
なに? こいつ、隠れ巨乳?
いや、隠れ爆乳!?
「あぁ……母乳でサラシが……ッ! い、いえいえ、何でもありません。わ、私、興奮したら母乳が出る体質とかそういうのは、ちが、ああ、えっと、コホン! とにかく失礼しましたぁ!」
いずれにせよ、目の前のことが処理できない俺とネメスが呆然としている間に、シスターは慌てて早口で何かを捲し立てて、そのまま教会の中へと行ってしまった。
「せ、先輩……み、見ました?」
「お、おお……」
「あ、あの子、あ、あんなに、あ、あんな……」
「ああ」
貧乳のネメスとはえらい違い。同じ歳とは思えない。
まさか、奇跡の黄金世代にあんな隠し情報があったとは。
「だ、だが、まあ、驚いたけど、気にしないどいてやろうぜ? 本人は隠そうとしていたみたいだし」
「そ、そうですね……でも、先輩? いくらあの子のオッパイがすごいからって、エッチな目で見たり、エッチなことしたらダメですからね?」
「しねーよ!」
そう、しない。
まさかのことに驚きはしたが、あいつも未来を勝ち取るために必要な希望の一人。
「そういえば、自己紹介する前に行っちゃいましたけど、先輩あの子の名前は……」
「知ってるよ」
「え? 何で?」
いずれは世界に轟く名前。
「一年生、『ヴァブミィ・オギャール』だろ?」
神官魔法騎士・ヴァブミィ。
ここ、『ネオターショ教会』で育った天涯孤独の、だけどそれゆえに戦災孤児などの支援や孤児院の世話などを積極的に行い、世界中から『聖母』と称えられた英雄。
色々と前回と状況が変わったこの世界において、奇跡の黄金世代で一番まともな奴なはずだ。
――あとがき――
ようやく、まともなヒロインを出せたかな?
聖母過ぎて子供に対する母性は少し大きいかもだけど、ハビリは小さい子供じゃないから何も問題ないはず!
さて……
【カクヨム・週間ファンタジーランキング:5位】
キープ!!!!
ですが、まだまだ上品な物語でトップ目指すことにしましたので、引き続きよろしくお願いします!
面白いと思っていただけましたら、本作の「+フォロー」及び「★★★」でご評価頂けましたら幸甚です。
何卒おおおおおおおおお!!!!!
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