第2話 ループ前の俺(2)
『見せてやるぜ、俺の炎の力! 見よ、この膨大な熱量! 庶民じゃ決して生み出せねえ、選ばれた者の力! ファイヤーバースト――――ッ!?』
『ぐっ、何という力!? どうしてそれほどの力を正しいことに使わないのですか!?』
俺の敵じゃなかった。
だが、あいつは屈せず……
『それでも僕は負けない! 死んだ兄さんとの誓い……そして世界のために!』
『ぐっ、なんだ、この光は!?』
なんか立ち上がって、眠れる力的なのを覚醒させて……
『な、なに!? 俺の炎を受けとめ……砕いた!? ばかなぁ!?』
『うおおおおおおお!!』
俺の人生の目の前に現れた、本当に神に選ばれたような奴には、俺をこれまで守っていた威光なんかを全てアッサリ蹴散らしやがった。
で、俺は負けた。
『すげえ、何て強さなんだ、奇跡だ!』
『何者だ、あの新入生! あの輝く黄金の力は!』
『どんな権力にも悪にも屈しない……素敵……』
『へへ、なんかスカッとしたぜ』
『うん、私も。あの人のこと嫌いだったし……ざまーみろ?』
『やれやれ、メチャクチャじゃのう……しかし、これだけの力。あの子はもはや試験は不要じゃな。それどころか彼は……人類の希望になるやもしれぬ』
そして、その瞬間からこれまで俺にヘコヘコしてきた連中も教職員連中も歓声を上げた。
さらに……
『ほんと情けないよ……カッコ悪いよ……君は恥ずかしくないの?』
『あんたみたいのを、七光りのバカ息子って言うんでしょ? おまけにあいつに惨敗してダッサーイ、やーい、ざーっこざっこざっこ!』
『主よ……愚かなる悪に処罰を与えることをお許しください……私はこの人を断罪します』
俺を蹴散らした奴だけじゃなかった。
その年の入学の生徒たちは、歴代稀に見る才能の持ち主たちが集まり、未来の勇者候補として人類と魔界の戦争の終止符を打つと期待される『奇跡の黄金世代』と呼ばれるようになり、そして……
『物だとか奴隷だとか、そんなこと間違っている! 彼女たちは人間だ! それどころかとびぬけた才覚を持った二人を飼い殺しにしようなんて、何を考えているんだ! 僕はそんなこと許しはしない!』
奴らは自分たちの思うが儘に正しいことをした。
『ソードさん、マギナさん、今日からあなたも僕たちの仲間として、共に魔王を打倒し、世界の平和を勝ち取りましょう!』
『つらかった日々や心の傷はすぐに癒えないかもしれないけど、私たちが傍にいるよ!』
『新しい恋とか、もっと幸せを掴みなさいよ! 大丈夫、あのクズ野郎と違って、あいつの父親や兄はすごい話の分かる人だったし』
『主もあなた方の幸福を願っているでしょう』
それどころか、俺と違って真面目な親父と兄貴を懐柔して、俺の許可なくソードとマギナを奴隷の身分から解放し、あいつらもその才覚を認められて自由の身となるどころか、奇跡の黄金世代の仲間となって、その名を世界に轟かせて英雄となっていた。
そして、気づけば俺だけ一人になって、ただ虚しい日々が続き、しかしそれだけじゃ終わらなかった。
親父と兄貴が戦争で死に、スポイルド家は一気に没落。
俺を世話しようなんて奇特な奴らは居やしねえし、むしろ誰もが「因果応報」と笑った。
そこから先はいつの垂れ死んでもおかしくない日々。帝国にも居場所がなくなり、俺は外へと追いやられた。
地べたを這い、泥水啜り、ゴミを漁り、ただ何も持っていない本当のゴミとなり、俺は……
『お兄ちゃん、大丈夫? お腹空いているの? 待ってて、ほら、お芋だよ? ウチの畑のお野菜はすっごくおいしいんだから!』
ただ彷徨い、行き倒れ……
『おぬしのような若者がどうしてそんなくたびれておるかは聞かんが……心も体もゆっくり休めなさい。何もない村だが、それでもおぬしを見捨てたりはせんよ』
そんな中で人のほんの小さな情けや温かみを学び……
『はは、あんちゃんもやりゃできんじゃねえか! 目も段々活きてきた。どうでい? 畑仕事で泥にまみれるのも悪い気しねーだろ?」
汗水流して労働する喜びを知って……
『みんな逃げろー! 魔王軍が攻めてきたぞー!』
そして、俺が少しずつ色々なことを学び始め、少しずつ心が安らぎそうになったところで、地獄がすぐに訪れた。
人々が逃げ出し、視界には燃え盛る街並みや、空から降り注ぐ魔砲撃が人々の命をアッサリと奪っていく。
もうダメだ。
ここで俺は死ぬのか?
そう思った時だった。
『させぬっ、坊ちゃまッ!』
『ご主人様!』
ソードとマギナが俺の前に現れた。
『お前たち……何で……』
俺は分からなかった。
『小生も分かりません。今でも分かりません。ですが……気づけば小生はあなた様を追いかけておりました』
『間違った感情なのかもしれません……しかし、私は……ご主人様を失いたくありませんでした』
同情なのか、慈悲なのか、英雄となって全てを手に入れられるようになったはずの二人が、命がけで俺の危機に駆けつけた。
因果応報で全てを失った俺の最後の最後に駆けつけてくれたのは、俺がありとあらゆる辱めをした二人の女だった。
その姿があまりにも美しく、眩く輝いていて、俺はその瞬間、自分が本当にどうしようもないクズ野郎だと知った。
俺は今まで何をやっていたんだと。
こんな心優しい二人を俺は……
『さぁ、坊ちゃま。帰りましょう。そしてまた、小生の全穴を犯してください♥』
『ご主人様にまた飼ってもらいたいんです、もうズブ濡れぶひ♪』
涙が止まらない俺の耳元で空気を和らげるためなのか、『冗談』を口にする二人に俺は心底申し訳ないと思いながら……
『あ、あぶねえ、二人とも!』
『ッ!? ぐっ、砲撃が……まずい!』
『させません! ご主人様は……ご主人様にもう一度―――』
しかし、現実は非情だった。
圧倒的な魔王軍の力が世界を包み込み、同情も慈悲も後悔もあらゆる全てを飲み込んでいく。
その力を前に、流石のソードもマギナもどうしようもできず……
『くそぉ! くそ! 俺は、俺は死んでもいい! だから、だから、せめてこいつらを―――――!』
それが俺の覚えている最後の光景だった。
あとは強烈な光が包み込み目が覚めたら……
「夢だったのか? いや、でも……」
気づいたら俺は……
「あの……坊ちゃま……」
「ッ!?」
目の前には、俺が奴隷商人からソードを買い取って初めての夜に戻っていた。
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