リアルで女声で無口な僕が幻想美少女に!?~美少女Vチューバー達にヴァーチャルワールドでは愛されて困っているボクのゲーム実況録~
#162 1年前へのプロローグ! 朝倉來未、歩き始めた臆病な音楽家(ミュージシャン)
#162 1年前へのプロローグ! 朝倉來未、歩き始めた臆病な音楽家(ミュージシャン)
私、
元々ギターはお父さんの趣味で持ち物だったんだけど⋯⋯子供の頃の私にとってのオモチャだったから。
そしてお父さんと一緒に見たアニメの影響で、私もこんなロックスターになりたいと思うようになった。
ギュイイイィ──ンッ!
「争いなんかくだらないぜ! 私の歌を聞きな!」
⋯⋯じつに若気の至りである。
まだ中学校に入ったばかりの私は、そんなアニメの主人公みたいに自分もなれると思い込んでいたのだった。
そして教室で喧嘩している男の子たちの前でギターをかき鳴らして、さっきの決めゼリフ!
⋯⋯すっごい沈黙が私の心をゴリゴリ削るのだった。
あ⋯⋯私なんかやっちゃった⋯⋯。
そう自覚した時にはもう手遅れで⋯⋯どうもクラスどころか、学校中が私をヤベー奴認定で関りにならないように決めたらしかった。
私、朝倉來未は中学生デビュー1月で、孤高のぼっちキャラになってしまったのだった。
⋯⋯せめて学校に軽音楽部があればまた話も違っていたのかもしれないが、無かったのだ。
しかし、それでもめげずに私は憧れのロックスターになるべく練習を続けたのだが⋯⋯。
あの時のクラスの視線が思った以上にトラウマだったらしく、人前だと怖くて指が震えてギターを弾けない体になっていた⋯⋯。
いっそギターを辞めてもよかったんだけど、お父さんがニコチューブチャンネルを作ってくれてそこで私は音楽活動を続けることにした。
まあ不思議なもんで、こうして人前じゃないならフツーに弾ける私のままだったわけだ。
そんなこんなで私はとりあえずチャンネル登録者数を増やすべく、みんなもよく知ってるような有名なアニソンやゲームのBGMなんかを中心に動画をアップしていたのだった。
⋯⋯作曲? オリジナル曲?
いや無理無理、私にそんな才能は無いから。
そして気がつくと登録者数は1年間で5万人を超えていたのだった!?
「うへへ⋯⋯私のファンがこんなにいっぱい⋯⋯」
そう思うとニヤケまくる私だった。
そんなある日だった。
とつぜん私にメールが来たのだった。
「⋯⋯ヤバイ、権利者からの警告かな?」
しかしその内容は思っても見ないものだったのだ!
「え~~!? あのヴィアラッテアさんからのスカウト~~!」
ヴィアラッテア総合芸能事務所は私が憧れるようなロックバンドも多数在籍する業界最大手だったのだ!
「もしかして私の伝説始まっちゃう⋯⋯」
しかしそのスカウトの内容は⋯⋯。
「Vチューバーとして? ⋯⋯Vチューバー? なんで?」
よくわからなかった。
しかし未だにトラウマを克服できない私にとっては顔出しのデビューは無理だし、もしかしてロックなVチューバーとしてならワンチャン⋯⋯。
そう思ってついOKの返事をしてしまったのだった。
⋯⋯めっちゃ後悔した。
やっぱりやめとこう⋯⋯私なんかがそんな大それた事出来るわけないから。
何度もお断りのメールを送ろうとしては削除を繰り返し⋯⋯。
煮え切らないまま、はるばる東京からスカウトの人が来てしまう日になってしまうのだった。
「どうしよう⋯⋯」
全部、私がダメダメなせいである。
「ほんとうに、ごめんなさ~い!」
そう言って土下座でスカウトの人を出迎える私だった。
まあそれで、はるばる来たスカウトの人がそのまま帰るわけにもいかず⋯⋯私や両親とお話することになったのだが。
「いや~、まさかウチの娘がヴィアラッテアからスカウトとか!」
「そうですか! ご両親はオリオンミュージックの方でしたか、いつもお世話になっております」
そう、私そっちのけでスカウトに来た木下さんと私のお父さんは盛り上がっていた⋯⋯。
あれ~?
父さんの会社は小さな音楽関連の企業だと思っていたのだけど、どうもあのヴィアラッテア様の下請けなんかもしていたらしい。
「來未さんがこの九州でVチューバーをするのは一向にかまいません。 こちらにもヴィアラッテアの支局はありますから。 でも将来的にはお父様も東京に支社に転勤して娘さんと一緒に上京するという選択肢もありますが⋯⋯どうでしょうか?」
「たしかに⋯⋯それもアリだな」
どうやらお父さんの方でもそれでいいと思っているらしい⋯⋯ヤバどうしよう!?
私は恐る恐る会話に加わる。
「あの~、やっぱり私なんかがVチューバーとしてやっていける自信ないので⋯⋯」
それを聞いた皆は。
「お父さんは來未がやりたいなら引っ越ししてもいいと思っているぞ。 転勤もたぶんOKだしな!」
「東京かー、ちょっと憧れるわよね~」
父さんと母さんはなんかすっかりその気らしい⋯⋯故郷に未練は無いのか?
⋯⋯いや別に私にも未練はないけどさあ。
私にとっての世界とは、友達の居ない学校とたくさんのファンに愛されるネットだけだから、どこへ行こうとも関係ないし。
「⋯⋯來未さん。 Vチューバーというのはやはり本人のやる気が無いと続かないと思います、どうしても無理という事ならこのまま帰りますが?」
なんという事だろう⋯⋯この木下さんは東京という遠く離れた場所からはるばるやってきてこの対応なのだ⋯⋯神か?
正直コミュ障の私としては、いずれどんな社会に出るとしてもそこの上司と上手く付き合える自信もないので、この木下さんのような方との奇跡的な出会いを捨てるのはあまりにも惜しく⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯やっぱり今回はご遠慮します。 本当にごめんなさいです木下さん」
こうしてやっぱり私はヴィアラッテアからの誘いを断ってしまうのだった。
⋯⋯ヘタレだな私は。
そして私の家族は一緒に、木下さんを東京への帰路となる新幹線の駅まで見送りに来た。
しかし⋯⋯新幹線の発車時間にはまだだいぶ時間があった。
苦手なんだよな⋯⋯こういう時間つぶしは。
「⋯⋯來未さんは、ギターいつから弾いてるの?」
「⋯⋯⋯⋯ずっと昔からです。 私の最初のオモチャが父さんのギターで、今でも私のオモチャのままで」
「私もね、子供の頃からずっと楽器を弾いてたの」
「⋯⋯木下さんも?」
「私はピアノだけどね」
その木下さんの視線の先には駅に設置してあるストリートピアノがあった。
「⋯⋯なんか久しぶりに弾きたくなったわね」
そう言って木下さんはそのストリートピアノに近づくのだった。
そして流れ始める曲は⋯⋯私でも知ってる有名なゲームの音楽だった!?
ちょっと意外だった。
木下さんみたいな素敵な大人の女性がクラッシックならともかく、こんなゲームの曲を演奏するなんて⋯⋯と。
その演奏の素晴らしさもだけど、誰もが知ってる曲というのもあってだんだんと足を止めて聞き始める人達が増え始めた。
すごいな木下さん⋯⋯。
あんなに堂々と人前でピアノなんか弾けちゃって。
「⋯⋯私もなりたい、あんなふうに」
そんな私に父はそっとギターを渡してくれた。
⋯⋯てか持ってきてたのお父さん!?
私はそのギターを構えてゆっくりと歩き始める、木下さんの傍に。
そして木下さんの曲が終わったタイミングで私はギターをかき鳴らし始めた!
⋯⋯無心の私が奏でる曲は、これまた有名なゲームの戦闘BGMだ。
ゲームでは珍しいロックなギターソロがカッコよすぎる名曲で、ずっと練習した曲だった。
木下さんが集めたギャラリーの中にもこの曲を知ってる人は大勢いたようだ。
私のギターソロの伴奏が終わると木下さんがピアノでセッションを始めてくれた!?
すごいこの人! ギターとピアノってあんまり相性良くないのに!
⋯⋯でも凄く楽しい!
木下さんの弾き方はガチっぽくない遊び心たっぷりで私に合わせてくれていた。
ピアノってこんな弾き方出来る楽器なんだ!
それに曲の方も普段練習するギターソロとは違った聞こえ方で楽しい!
気がつくと私は、人前なのに踊るようにステップを踏みながら演奏を続けていたのだった⋯⋯。
そんな私は観客の拍手で曲が終わっていた事に気づいた。
「あ⋯⋯終わってたんだ」
夢のような時間はとっくに過ぎてしまった後だった。
その後⋯⋯ギターを弾いたことで駅員さんに怒られる私達だった⋯⋯。
そして私は無言で木下さんを見送る為に新幹線のホームまで来た。
「今回はご縁がなかったみたいだけど來未さん、ギターがんばってね」
「⋯⋯あ」
行ってしまう、木下さんが。
プルルルルル──。
ベルの音が響く。
新幹線のドアが閉まるまであと僅かな時間しか残ってない。
言わなくちゃ! でも何を?
「あの、木下さん?」
「なに來未さん?」
「⋯⋯Vチューバーの仲間には、楽器が弾ける人⋯⋯居ますか?」
「居るわよ」
居る!
もしもVチューバーになったらその人とも、さっきみたいなセッションが出来るかもしれない⋯⋯。
こんな私にも仲間ができるかもしれない!
「木下さん! 私、やっぱりVチューバーやりたい!」
でもこの時すでに木下さんは新幹線の中⋯⋯ドアは閉まる寸前。
間に合わなかった⋯⋯。
ふわり⋯⋯。
その魔法使いは何事もなかったように新幹線を降りて⋯⋯その背後でドアが閉まった。
そして新幹線は走り出す、東京へと。
木下さんを乗せずに⋯⋯。
「木下さん⋯⋯どうして?」
「あなたという才能がやる気になった。 だったら新幹線のチケット代くらいなら安い物よ」
「き・の・し・た・さ~ん!」
思わず私は抱きついてしまった。
この木下さんなら信じられる、一緒に頑張れる、そうこんな私にも思えたんだ。
⋯⋯そして。
「⋯⋯あ、社長お疲れ様です。 実は今日帰れなくなりまして⋯⋯⋯⋯それで休暇の申請をお願いします」
それだけ言い切って電話を一方的に切る木下さんだった。
その時の木下さんはなんだかとても晴れ晴れとした満面の笑顔だった。
そして私と私の両親と一緒にご飯を食べに行き、めちゃくちゃ楽しそうにお酒をいっぱい飲んで、父さんと母さんと一緒に騒いでいたのだった。
⋯⋯⋯⋯あれぇ?
結局このあと私は木下さんと一緒に仕事する事はなかった。
私の担当は九州地区の担当マネージャーに引き継がれたからだった。
まあその人も凄くいい人で、今でもなんとかVチューバーを続けています。
そんなこんなで私のVチューバーは、デビューから1年がなんとか経過した。
まだ私はリアルだと臆病なままだけど、仲間のVチューバー達と会うために1年ぶりの上京を決意した。
これはちょっとした大冒険である、この私にとっては。
「木下さんと会うのも久しぶりだなー。 ⋯⋯それにエイミィさん」
私は思い出す。
去年は少ししか話せなかったけど、とても上品でおしとやかな大人の女性のエイミィさんの事を。
彼女は見た目だけじゃなくて音楽の、楽器の天才なのだった。
ほとんどの種類の楽器を弾きこなせるというすごい特技を持った天才音楽家なのだった!
そんな
⋯⋯私なんかギターだけが専門なのにすごいな~。
「今年はエイミィさんともセッション出来るといいな⋯⋯」
まだまだチキンハートの私だけどなんとか歩き続けている。
こんな私にも仲間が出来たのだから⋯⋯。
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