第7章 銀河の星々

#158 中学生Vチューバー『あくみん』登場! 憧れの東京へレッツゴー!

 いま私、朝倉 來未あさくら くみは新幹線のホームに立っている。


「來未、気をつけてね」

「向こうのお仕事仲間にちゃんとご挨拶するんだぞ」


「うん! わかってるよ、パパママ!」


 そうホームまで見送りに来てくれたのは私の両親である。


「途中でお仲間と食べなさい」

「來未コレを、大事にしろよ」


 ママからはお弁当を、パパからは私の中学の入学祝いで買ってくれたギターを受け取った。


 プルルルル──。

 そろそろ新幹線が出る時間だ。


「じゃあパパ、ママ! 來未は行ってまいります!」


 こうして大好きな両親に見送られて私はひとり新幹線に乗ったのだ。

 目指すは東京である!


 私が普段生活しているのは福岡県福岡市なんだけど、来年には東京に引っ越す予定だった。

 これも私の夢とお父さんの転勤が重なったおかげなのだ、ラッキーである!


「東京か⋯⋯どんなところなんだろう?」


 実は一度だけ行ったことがあるのだが⋯⋯その時はほとんど観光などできない日程だったのだ。

 なので今回はちゃんと東京見物を楽しむ予定である!


 ⋯⋯それに。


「みなさんとリアルで会うのも1年ぶりかー」


 私には仲間が居る、私と同じVチューバー仲間だ。

 クラスの皆には内緒にしているけど実は私はVチューバーなのだ。


 もともとは個人でギターを演奏していたニコチューバーだったのだけど、ある日⋯⋯。




 [あくみん様へ。

 総合芸能プロダクション・ヴィアラッテアのマネージャーの木下とお申します。

 この度当社ではVチューバー事業を始める事になり、あくみん様をスカウトしたいと考えてます。

 もしもこのお話に興味がありましたら良いご返事をお願いします。

 Vチューバー事業部マネージメント科所属 木下]


「ふええええぇ~~!?」


 その1通の電子メールから私の人生は大きく変わったのだった。


 私はその⋯⋯引っ込み思案で人と話す事がニガテだった。

 もっぱら趣味はお父さんのギターをひとりで弾くのが好きなだけの陰キャの女の子だったのだ。


 しかしある程度ギターが上手くなって誰かに聞いてもらいたいと思ったのだが、やっぱり人前で演奏するのは怖くて⋯⋯。

 それでお父さんに頼んでニコチューバーチャンネルを作ってもらって動画を上げていたのだった。


 登録者数5万人。

 それが私のあくみんチャンネルの登録者だった。


 ちなみに『あくみん』とは私の本名の『朝倉來未』をあだ名っぽくしたものである。

 とうぜん自分でつけたあだ名だった。


 私! 友達居ないから!


 そのおかげで全然クラスメートにはバレなかった。

 ⋯⋯⋯⋯ちょっと寂しいけど。


 でもいいもん、私にはネットの5万人が居るから!

 うへへへ⋯⋯。


 ギターくらいしか取柄の無い私だけど、こんなにも愛されるネットの世界は素敵だ。

 でも私はそんなネットの片隅でコソコソして終わる⋯⋯と、思っていたのだった。

 そんな私になんとあの大手の芸能事務所からのスカウトが来たのだ!


 実はお父さんは音楽関係の仕事をしていて、このヴィアラッテアの下請けの下請けみたいな繋がりがあったらしい。

 でもべつにお父さんのコネとかではなくて、本当に偶然で来たスカウトだったのだ。


 私には夢がある。

 ギターでロックなスターになるという夢が!


 ⋯⋯でも無理だとわかっていたんだ。

 私は怖がりであがり症で、とてもじゃないが人前で演奏なんかできないチキンハートだったから。


 ⋯⋯でもVチューバーとしてだったら?


 それはそんな私に突然やってきた新しい可能性だったのだ。

 だってVチューバーだったら顔出ししなくていいし!

 それだったらみんなの前でもギター出来るかも!


 そんな私の夢を応援してくれる両親の理解もあって私は⋯⋯。

 14歳の中学生という若さでヴィアラッテア様にお世話になる事に決めたのだった。


 それはずっと独りぼっちだった私に、沢山の出会いと仲間ができる物語の始まりでした。




 そんな事を思い出したり本を読んで時間をつぶしたりしながらの新幹線の旅だったけど⋯⋯。

 事件が起こったのは大阪に着いた時でした。


「あれ? 君かわいいね! ココ空いてる? 座ってもいいかな!」

「ふえ!?」


 あきらかにチャラそうな男の人達が私の隣に座ろうとしてきたのでした!


「あの⋯⋯そこは⋯⋯指定席で⋯⋯予約を⋯⋯」


 ダメダメです。

 リアルだと私は満足に誰とも話せません。


 というか普通に怖いです! この人達が!


「どきな。 そこはアタイらの指定席さ」

「せやで。 ささ! どいてどいて」


 この大ピンチに現れたのは──!


「那奈さん! 明日菜さん!」


 そこに颯爽と現れたのは、この新大阪駅で合流する予定だった私の2人の仲間でした。


「なんだ、このデカい女は!?」

「お? なんだい、アタイをデカ女と言うのかい?」


 そう那奈さんが睨みつけると男たちはビビって退散しました⋯⋯ざまぁです!


「ふっ⋯⋯根性ねえな」

「いやアンタが怖いだけやろ?」

「はっはっはっ! そうかそうか!」


 そう言いながらドカッと座る那奈さんと、


「ほんまお久しぶりやね、來未ちゃん」


 そう上品そうに座る明日菜さんだった。


 これまでずっと空席だった座席に座ったこの2人こそが、私と同じヴィアラッテアのVチューバーとしての同僚です!


「お久しぶりです、明日菜さんに那奈さん!」


 こっちの可愛らしい感じの人のVチューバー名は『ナージャ』、本名は十六夜 明日菜いざよい あすなさん。

 こっちの怖⋯⋯背の高い人のVチューバー名は『ジュエル』、本名は南 那奈みなみ ななさん。


 とても頼もしい私のVチューバー仲間です。


「おっと、本名で呼ぶのはご法度だぜ」

「せやで。 それに慣れるとうっかり配信で本名呼びしてしまうからな~」


 確かにその通りです!

 なので私はおふたりの持っている駅弁を見ながら⋯⋯。


「そうですね。 ⋯⋯じゃあ『牛カツさん』に『たこ焼きさん』で!」


 ずっこける2人でした。


「誰がたこ焼きやねん! 大阪人全部たこ焼き好きだと思っとらんかワレ!」

「ウチ、そんな呼ばれ方したん初めてやわ⋯⋯」


「ご⋯⋯ゴメンナサイ」


 思わず泣きそうになる私だった。


「ああ、泣かんでええんよ! ただ牛カツはちょっとな~」

「まあたこ焼きは好きだからな、アタイも!」


 そう慰めてくれる2人は、なんだかんだでいい人達です。


「じゃあ來未ちゃんの事はなんて呼ぼうかな~」

「コイツ九州人だろ? なら『とんこつ』で決まりだな」

「ええ~! とんこつは無いんじゃないですか~!」

「あっはっはっはっ! ポンコツの來未ちゃんにはとんこつがお似合いやな!」


 そう笑い合う私たちでした。




 そして私達は持ってきたお弁当をシェアしながら楽しく雑談します。

 そんな私達の話題はこれから会いに行く仲間たちのあだ名をつける事でした。


「マロンさんは『プリン』でええやろ。 あの人いっつもプリンで機嫌直るし」

「じゃあエイミィの奴は『モンブラン』だな。 好物がマロンだから!」

「それだとややこしない?」

「でもエイミィってモンブランって感じのお嬢様じゃん。 でもマロンは庶民だしせいぜい栗饅頭」


 そしてこの話題はまだ私達が会ったことのない2人の事にも発展します。


「たしかルーミアってから揚げが好物と言ってたよな?」

「言うてた言うてた」


「たしかアリスさんが作ってくれたから揚げが、めっちゃ美味しかったって配信で言ってましたね」


 こうしてルーミアさんのあだ名は『から揚げ』に決まりました。


「あとはアリスか⋯⋯」

「⋯⋯あいつ、何食ってんだ?」

「ロボやし油でも飲んでるんとちゃうか?」

「さすがにそれはないですよ」


 でも確かに私達が知る限り、配信内でアリスが何か好きな食べ物について話す場面が無かったのです。


「⋯⋯要するにアリスは、自分の好物じゃなくて人の好物ばっかり作らされているんじゃね?」

「せやな。 マロンさん、妹さんを酷使しすぎやわ」


 私たちがこれから会いに行くVチューバーのマロンさんが今年の春から妹さんと同居を始めて、その妹さんが私たちの仲間のVチューバーになったことは有名でした。


 しかし私たち地方勢のVチューバー達には、今まで新人のアリスやルーミアと直接会う機会はまったく無く⋯⋯。

 そんな間柄だからかオンラインでのコラボも少なめだった。


 とくにアリスさんと私は、まったく話したこともないのです!


 人見知りなのかな?

 そう思うと私にはそのアリスさんに親近感が湧いてきます。

 仲良くなれるといいな⋯⋯。


 そんな事を話し合っていたら新幹線は静岡にさしかかりました。


「⋯⋯あいつもここに居たのかもな」

「せやね。 さしずめ『かば焼き』ってとこやな⋯⋯」


 そのかば焼きさんとは、私達と同時にデビューしたVチューバー『ルシファ』の中の人であった深山 揚羽みやま あげはさんの事でした。

 ちょっと怖いところもあったけど⋯⋯とても頑張り屋さんで実は優しい人でした。


 あんな事さえなければ今この駅から一緒だったのかもしれません。


「今頃何しているんでしょうか、揚羽さん⋯⋯」


 そんな私達の隣の⋯⋯揚羽さんが座っていたかもしれない席に、おじさんが座りました。

 そのおじさんはこっちに向かって軽く会釈します。


「おや? 美人三姉妹の隣とは、これはラッキーだなあ!」


 不思議とよく声の通ったおじさんでした。


「姉妹じゃないよおじさん。 でも美人は当たってるね~」

「なかなか見る目あるおじさんやなあ」


 すごいな~、牛カツさんもたこ焼きさんも、自分の事を美少女だと知らないオジサンに言えちゃうこのあつかましさ!


 ⋯⋯痺れる! 憧れる!


「姉妹じゃないのか? 年齢の離れたグループだったから家族かと思ったんだけど? ⋯⋯旅行かい?」


 たこ焼きの那奈さんは24歳、牛カツの明日菜さんは20歳。

 私は14歳のピチピチの中学生!


 たしかに友達というよりは家族や姉妹に見えるのかもしれません。


「せやで~、今から東京見物や」

「おっさんは?」


「僕かい? 僕は今から東京まで出張さ! こう見えてなかなか忙しい仕事でね! まあ自分のせいなんだけど」


 そのおじさんはなにやら東京の会社とのいろんな契約をする為に最近頻繁に静岡と東京を行ったり来たりしているそうです。

 お仕事ご苦労様です!


 私は知らない人の前だとあまり話せないので話題に入らずに、窓の外の富士山を眺めていました。

 スマホで富士山の写真を撮ってそれをパパとママに送ります。


「⋯⋯東京か、どんなところなんだろう?」


 朝倉來未、いや中学生Vチューバー・あくみん!

 東京へレッツゴーです!




 そしてこれが、出会いの物語⋯⋯。

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