#153 AIの辿り着く場所
「ゴ──ル!」
『このレース、勝ったのはアイです!』
「負けたああああっ!?」
決着はついた。
「勝ったのはアイ君のガル・ブラスターXだ! そしてチーム対抗戦の結果は虹幻ズの勝利となりました!」
【アイちゃんの勝利だあああ!】
【虹幻ズの勝ちや!】
【うおおおおお!】
『やったあああ! 勝ちました! アイが勝ちました!』
今までのアイでは考えられないくらい喜びの感情を爆発させているアイだった。
【アイちゃんがこんなに喜ぶの初めて見た】
【おめでとう!】
【コングラチュレーション、アイ】
「アイちゃ──んっ!」
『アカメ! 勝ちましたよ! アイはやりました!』
そう叫びながらアカメさんがルームランナーに飛び乗った。
そこは『アイが居るはずの場所』だ。
実際は居ないけど⋯⋯。
【アカメとアイの抱擁⋯⋯ふつくしい】
【どっと☆アイズからしか得られない栄養素がある】
⋯⋯どうやらコメントを見る限り、アカメはしっかりとアイと抱き合ってるらしい。
そう視聴者には見えているのだ。
でもこの3Dスタジオに居るボクたちには、アカメさんは何も無い空間を抱きしめているようにしか見えないのだ。
でもきっとボクたちと違ってアカメさんには⋯⋯そこに居るアイがハッキリと見えているのだろうな。
「さあ、みんなでアイちゃんを胴上げだ!」
そう元気いっぱいに言うアカメと「ええー!?」と困惑する虹幻ズのメンバー達の対比が可笑しかった。
結局虹幻ズのメンバーはアカメさんを中心にアイの胴上げを行っているようだが⋯⋯うん、タイミングバラバラ。
なんというか重量感を感じない胴上げだった。
【合成映像かなw】
【アイちゃん軽そうwww】
【映像フワフワやんw】
視聴者からはそう見えているらしい⋯⋯まあ仕方ないな。
「⋯⋯ごめんみんな、負けちゃった」
「7秒のハンデを0.1秒まで詰めたんだから実質アリスの勝ちよ!」
「なぐさめありがと。 7秒遅れた姉さん」
「なにおー! アリスてめえ!」
そう僕と姉さんはじゃれ合うのだった。
胴上げから解放された⋯⋯という設定のアイが話しかけてきた。
『もしもアリスのサターン・ブースターのタイミングがあと0.1秒遅ければ、アイの負けでした』
「そっか⋯⋯それでラスト失速したのか」
どうやらラストのボクのマシンは最後の瞬間にはバッテリーが切れていたようである。
『アリスに聞きます。 アイはアリスの仲間に勝てましたか?』
「こだわるなあ、そこ」
『当然です。 あんな侮辱は初めてですから』
「そうだね、アイはボクの仲間と同じくらいユニークな存在だよ」
『そうですか』
「ボクはアイとは仲間にはなれない、アイの仲間は虹幻ズのみんなだから。 でもボクとアイは友達にはなれるかな?」
『アイと友達になってくれるのですか、アリスは?』
「だめ?」
『それではアリスもアイの友達にカテゴリーを変更しますね』
「やっぱり面白いね、アイは」
『アイは、たかが4MのゲームのAIとは違うのです』
ボクにもこの時に初めてエッヘンと笑うアイの姿が見えた⋯⋯気がした。
そして表彰式が始まった。
「えーそれでは、勝った虹幻ズにはタニヤ模型さんからトロフィーが贈られます!」
「あの〜、先ほどはどうも! タニヤ模型のミニ四ウォーリアです。 おめでとう、虹幻ズの諸君!」
その特別出演のミニ四ウォーリアから渡されたトロフィーはシオンが受け取っていた。
「我々の勝利だ!」
そうトロフィーを掲げるシオンだった。
⋯⋯くそー羨ましい、あと0.1秒の差で僕たちの勝利だったのに。
「あのウォーリアさん。 さっきはありがとう」
「なに、大したことじゃないさ。 昔のイベントでの癖でつい⋯⋯ね」
アカメさんがそうウォーリアにお礼を言っていた。
「ミニ四君にもヒーローが居たんですね! 握手してください」
「え? 照れるなあ!」
そう言いながらもブルーベルと握手するウォーリアだった。
てかこの人、ノリがいいなあ。
オレンジママさんはウォーリアのサインを貰ったらしく「家宝にします」とか言ってるし。
ウチの母と同世代だと思うオレンジママさんなのに、子供のように目をキラキラさせていたのが印象的だった。
ミニ四君歴30年のオレンジママさんにとってはウォーリアは永遠のヒーローなのだろう。
そんな感じで表彰式はつつがなく終わり⋯⋯だと思っていたら。
『アイからリスナーの皆様に、伝えたいことがあります』
そうアイが言い出した。
何となく自然とボクたちの立ち位置は『アイ』を中心にしたと想定している位置に移動した。
だがただ1人だけ中心に残り⋯⋯そこに居る『アイ』の手を握っている人がいた。
⋯⋯神崎アカメさんだった。
「言うんだね、アイちゃん」
『はい、アカメ』
そして『アイ』の言葉がリスナーに、いや世界中に配信された。
『私⋯⋯アイは人間ではありません。 ヴァーチャル・マルチタレントとして開発された人工知能⋯⋯AIです』
そうハッキリと言った。
スタジオの端っこに居る藍野さんや坂上さんがポカンとしていたのが見えた。
つまりこれはアイのスタンドプレイなのだろう。
『アイはデビューして482日間、皆様に愛されてきました。 こうして同僚である虹幻ズからは『仲間』と呼んでもらえるようになり、ライバルであるホロガーデンの皆からも『友達』だと認めて頂ける存在へと成長しました』
僕たちは何も無いアカメさんの隣の空間を見つめ続けていた。
『アイはリスナーの皆様からも認められたいのです。 ヴァーチャル・アイドル『アイ』の存在を。
⋯⋯⋯⋯皆さんはアイがAIでも、愛してくれますか?』
【え⋯⋯これマジなの?】
【嘘だろ⋯⋯】
【マジで言ってのかこれ⋯⋯】
コメントにはリスナーの困惑がありありと浮かんでいた。
──その時だった。
「今⋯⋯これから始まる──」
『──革命の時さ!』
神崎アカメとアイがアカペラで歌い始めた。
するとBGMがゆっくりと静かに始まった。
静かな伴奏が終わり、激しい曲調に変わった。
「『僕に空を飛ぶ翼はないけど、君とつなぐこの手がある
ふたりでこの運命を、切り開く力よ目覚めて!
さあ! 始めよう! 世界を変えるんだ!
争いの無い楽園にして見せよう!
僕たちが紡ぐ伝説! 君と始める物語!』」
気が付くとボクたちみんながこの歌の合いの手を打っていた。
そしてコメントにも変化が起き始める。
【新曲キタ──!】
【べつにアイがAIでもいいんじゃね?】
【カワイイは正義】
【どっと☆アイズ最高!】
【アイちゃん可愛いよ!】
【アカメも可愛い】
【バーチャルアイドル・アイ!】
「天使なんかじゃない!」
『機械仕掛けの魂にだって!』
「さあ! 一緒に歩こう!」
『空を飛んでもいいのさ!』
「『辿り着こう! その場所へと!
進み続ける、これからもずっと!
明日へと、続いて行く、この道を!
君と僕とで、どこまでも──!!』」
【どっと☆アイズ!】
【どっと☆アイズ!】
【どっと☆アイズ!】
【ヴァーチャルアイドル・アイ!】
【アイドルVチューバー・神崎アカメ!】
【ふたりはどっと☆アイズ】
「みんなーありがとー!」
『アイを応援してくれてありがとう!』
すごいな歌の力って。
アイがAIだという告白は、きっと受け入れられないファンも多いだろう。
でも今のところはそんなコメントは一切見当たらないくらいファンの心を掴んでいた。
「声優ってのはキャラクターに命を吹き込むって言われているけど⋯⋯アイちゃんの声にも魂が宿っているのかもね」
「ルーミア⋯⋯そうだね」
この時ボクは、ふとあるヴォーカルロイドの事を思い出していた。
あれだっていつの間にかファンからはアイドルだと思われていたし、きっとアイもそうなるのだろう。
その時、3Dスタジオの端っこでミニ四君ウォーリアさんに謝っている藍野さんと坂上さんが見えた。
「申し訳ありませんでした!」
「この度はタニヤ様のイベント中なのに、このようなことになって⋯⋯」
「構いませんよ、もう十分にミニ四君のイベントは大成功でしたから! ⋯⋯それにマシンと人が共に成長する、それがミニ四君が伝えたいテーマです。 ミニ四君をたんなる道具だと思わず相棒として扱う⋯⋯きっとアカメ君とアイ君も同じだと思います。 だから大丈夫!」
そんなウォーリアの言葉は現実になっていく。
このあと行われたアイの正式な記者会見で大きな反響を起こしつつも⋯⋯それでも愛されるアイとアカメさん達だったからだ。
この日まで正体不明だった幻のVチューバー・アイは⋯⋯、
ヴァーチャル・アイドルとして世界に認められていくのだった。
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