#087 そして『伝説』が生まれた!
ボクのスパチャのお礼コメントは、かなり時間がかかってしまった!
⋯⋯今日中に終わらなかったな。
もう0時をかなり越えてしまった。
そしてボクはゲーム機の電源を切って動画配信も終わろうと思った。
【お願いアリス部長今すぐクラン作って!】
「ん?」
【お願いしますクラン今すぐに作って!】
【クラン作って早く!】
リスナーからこういったコメントが数多く寄せられた?
「え? なんで?」
【お願いしますなんでもしますから!】
リスナーがボクにこんなに頼んでくるなんて初めての経験だった。
「⋯⋯まあいいか、そう時間もかからないだろうし」
ボクはゲーム内のキャラの『アリス』を操作して冒険者ギルドへと向かった。
するとそこではクラン設立に関するチュートリアルがあって、それは3分くらいで終わった。
「はいみんな! ボクのクラン出来たよ!」
その言葉の直後からどんどん入隊希望者の冒険者カードが送られてきたのだった!?
「え? なんで???」
【一般のテスターの参加は今日からだから】
「あ⋯⋯そっかもう15日になったから──」
ボクが何の気なしに開いたリスナーの冒険者カードには自己紹介をするコメント欄がある。
そこには⋯⋯。
[アリスちゃんお誕生日おめでとう!]
と⋯⋯書かれていた。
ボクは次々と贈られてくる冒険者カードを1つ1つ開いていく。
[アリス部長誕生日おめでとう!]
[これから一緒に冒険しましょうねアリス部長]
[祝!アリス製造記念日!]
「あ⋯⋯ああ⋯⋯ありがと──」
その時ボクの部屋の扉が開いた!?
「お誕生日おめでとうアリス!」
「るっ! ルーミア!」
思わず『留美さん』と呼びそうになった。
ヤバい! 今ここで留美さんが居ることがリスナーにバレたら!
「ハッピーバースデー、アリス!」
「おめでとうアリス!」
クラッカーを鳴らして姉さんと映子さんまで乱入してきた!?
「ど・ど・どうして、みんなが!?」
「イエーイ! サプライズ大成功!」
「今日のルーミアは、アリスのお隣の部屋から配信してました!」
【そっか今日のルーミアはマロンの機材で配信していたのかw】
【それなら納得!】
⋯⋯ボクの隣の部屋は留美さんと物置なんだよなあ⋯⋯姉さんの部屋はその物置を挟んだ向こうである。
そんな映子さんの言った『ホントの事』はリスナーには勝手に勘違いされてしまった。
「「「お誕生日おめでとうアリス!!!」」」
「⋯⋯ありがとう、みんな」
そんな風に感極まっていると映子さんがロウソクの立ったケーキを持ってきた。
「うわ⋯⋯ケーキまで用意していたんだ」
「ふふふ、アリスの配信中に近所で買ってきた」
そう姉さんが説明する。
近所というとあのラスダンみたいな名前のスイーツショップかな?
【アリスのケーキロウソク何本?】
【1万本くらい刺さってそうw】
【アリスは4000年前のオートマタだからなw】
「うーん、リアルバレになるのでロウソクの数は教えられません!」
いちおう16本刺さってるけどね。
そっか⋯⋯今日から僕は16歳なのか。
16歳といえばドラファン3の主人公が家を出て冒険を始める歳だな。
思えばVチューバーになって以来『ボク』は大冒険の繰り返しだった。
そしてこれからも『僕』の冒険は続くのだろう。
いや続けていくんだ!
ここに居るみんなと一緒に!
「ほいアリス! 誕生日プレゼント!」
「えー、姉さんからプレゼントとかなんだろう?」
それは何かの封筒だった? 中身は!?
「⋯⋯WEBマネーカード?」
「それで好きなゲーム買いなさい」
「うーん、嬉しいけどもっとこう⋯⋯さあ?」
「中途半端な物より無駄にならなくて嬉しいだろおおー!」
「うんまあ⋯⋯ありがとう姉さん」
その時チラっと見た留美さんの表情が何とも言えない感じだった?
「どうしたのルーミア?」
「⋯⋯⋯⋯いや、何でもないデス。 それよりコレ、私からのプレゼント!」
そうして留美さんから渡されたのは⋯⋯!
「ファミステスイッチ・ライトだ! しかも限定版の白色の!」
ボクはせっかく買ったファミステスイッチがただの仕事道具になってしまって、やや困っていたのだった。
⋯⋯外に持ち運べないので。
「これは嬉しいよ! ありがとうルーミア!」
「⋯⋯どういたしまして」
顔を真っ赤にした留美さんは可愛かった。
「ねえアリス、私の時と喜びに格差があるんじゃない?」
「いや、あんな無機質なプレゼント貰ってもどう喜べと? まあ嬉しいけどさ⋯⋯」
この時の安堵したような留美さんの表情はなんか印象的だった。
リスナーや姉さんたちに祝福される誕生日。
それに酔いしれる僕はこの時『伝説が生まれた』事など気づいていなかった。
── ※ ── ※ ──
同時刻エミックス本社にて。
プロデューサーの干田は久しぶりの夜勤だった。
それは本日0時より『ロールプレイング・アドベンチャーワールド』ベータ版の一般のテスターのゲームプレイが始まるからだった。
もちろんトラブルが起これば対処するスタッフは十分に揃っている。
もういい歳した干田自身が夜勤などする必要など本来は無い。
だがこのお祭りの始まりを、ここまで苦楽を共にしたスタッフたちと迎えたい。
そんな思いが今夜の干田をここに居させたのだった。
「干田プロデューサー! ベータ版用のテストサーバーの負荷が半端ないです!」
「完全に想定以上です! この瞬間にこれだけのユーザーが同時接続するなんて!」
今回のベータ版の一般テスターの数は500人である。
しかしその全員が参加するわけではない。
中には冷やかしで当選した者も居るだろう。
中には事情があってプレイできない者も居るだろう。
なのでせいぜい200人くらいが参加してくれれば御の字⋯⋯というのが開発チームの想定だったのだ。
「接続ユーザー数⋯⋯427人?」
その数字は干田の想定を上回る数字だった。
「嬉しい悲鳴ですね、干田プロデューサー!」
「ああ!」
3日前⋯⋯アリスたちVチューバーのテストプレイが始まった。
その反響はすぐに表れたのである!
それまで落ち着いていた『ロールプレイング・アドベンチャーワールド』の事前予約数は一気に跳ね上がった!
このたった3日間で約50万人くらい増加したのだった!
それまでの予約数と合わせると、初回出荷100万本オーバーが確定したのだった!
しかもダウンロード版には予約が要らないので、さらに販売本数は伸びるだろうと期待は膨らむ。
「はは⋯⋯このタイミングで誕生日とはな。 君に頼んで本当に良かったよ『アリス君』」
今回のVチューバーに宣伝を任せるというマーケティングは少なからず社内では批判的だった。
もしも失敗していれば干田も責任を取らされていただろう⋯⋯。
「期待以上の成果だよ!」
この時の干田は、このゲームの確かな成功を確信したのだった!
── ※ ── ※ ──
そして大慌てになっていたのはエミックスだけではない。
アリスの所属するVチューバー事務所『ヴィアラッテア』でもそうだった。
「同時接続者数⋯⋯20万人!?」
そう絶叫したのは今夜も夜勤の木下マネージャーだった。
Vチューバーのチャンネル登録者数ならトップは『ネーベル・ラ・グリム・紫音』の210万人である。
しかし、その彼女の同時接続者数の記録でさえ約10万人ほどなのだ。
「こ⋯⋯これは⋯⋯他のチャンネルからも誘導されて来ている!?」
今夜の配信は最強Vチューバーのネーベルと風巻みどりという『他社』のVチューバーと、アリスと同僚のルーミアも参加している。
そのすべてのチャンネルの視聴者たちが今、アリスのチャンネルに殺到していたのだった!
「アリスの⋯⋯チャンネル登録者数がどんどん上がっている!?」
ほんの数時間前まではアリスの登録者数は約60万人だった。
それが今や⋯⋯。
「⋯⋯80万人を越えた!?」
それでもまだ止まらないこの勢いが!
「⋯⋯これ時間当たりの登録者数の上昇なら世界記録なんじゃ?」
その木下の予想は現実になる。
── ※ ── ※ ──
さて、そんな事が起こっているとも知らないアリスはというと──。
「じゃあ皆さん、スクショ撮りますよー!」
ボクは集まったリスナーさんたちをゲーム内に作った『ロビー』に集めて記念撮影をしていた。
このゲームはパーティーを組むのは4人までなんだけど、こうして100人くらいまで集まれる『ロビー』という場所があるのだ。
本来はチャットで会議したり、パーティーを探して組んだりするための機能だった。
「はいチーズ!」
スクショを撮り終えるとすぐにリスナーは『ロビー』から出ていく。
そしてまた別のリスナーでいっぱいになるのだった。
ボクはひとりでも多くのリスナーさんたちとの記念撮影を続けるのだった。
すると──。
ピンポーン♪
チャイムが鳴った!?
⋯⋯そういや姉さんたちが入ってきて部屋の扉を開けたままだったな。
【チャイムの音?】
【放送事故www】
【防音扉開けっ放しだったのかw】
姉さんがその深夜の訪問者を出迎えに行った。
「おーいアリス! 客が来たぞー!」
「客?」
そう姉さんに連れられてボクの部屋に入って来たのはシオンだった!?
「シオン来たの!?」
「えへへ⋯⋯来ちゃった!」
【うそ!ネーベルも来ちゃった!!】
【マジかよ!】
「あれ? そちらは誰?」
ボクはシオンと一緒に来た別の女性に気がついた。
かなり年上の上品そうな大人の女性だった。
⋯⋯顔が引きつっているけど。
「⋯⋯あなたが⋯⋯『アリス』なのお⋯⋯?」
「⋯⋯もしかして、みどりさん!?」
なんとシオンが連れてきたのは、さっきまで一緒に同じゲームをしていたVチューバーの『風巻みどり』さんだった。
【みどりんまで来たw】
【みどりん今夜も徹夜確定やんwww】
「いやーいきなり夜中にみどりんが来て『今からアリスの家に行くぞ!』って強引に引っ張ってこられてさ!」
⋯⋯どうやらシオンが連れてきたというより、みどりさんがここに来るためにシオンに道案内させたらしい。
てかシオンさあ⋯⋯ボクが男だって忘れてただろ!
僕がジロっとシオンを見ていると向こうもその事実に今更気がついたらしい。
急にあわてて僕とみどりさんの間をキョロキョロし始めた。
その申し訳なさそうなシオンのオドオドした仕種はなんか可愛かった。
一方みどりさんの方は⋯⋯激しく動揺していた。
そりゃ驚くよな⋯⋯ボクのこと女だと思ってたんだし⋯⋯。
しかしみどりさんは冷静に事情を把握できる人だった。
「キャー、生アリスちゃんかわいい!」
「ははは⋯⋯どうも。 みどりんも綺麗ですよ」
やはりというか、かなりの年配の女性だったようだ。
そして深夜の訪問客2名を加えての騒がしいバースデイパーティーが始まった!
配信は繋いだままでの──。
しばらく騒がしくはしゃいでいると姉さんが⋯⋯、
「おーいアリス! ルーミアのやつ自分用のスイッチ・ライトも買ってるぞ!」
「ちょっとバラさないでよマロンさん!」
「ルーミアもライト買ったんだ! なに色?」
「⋯⋯黒」
「黒か! それも限定版のだね。 お揃いだ!」
「⋯⋯そうね!」
【ルーミアお揃いで自分のも買ったのかw】
【汚い汚いよこの猫娘www】
【ルーミアリスおそろいのスイッチライトてぇてぇ】
つけっぱなしのパソコンにはリスナー達のコメントが止まることなく流れ続けていた。
その後、ちょっと盛り上がりすぎた結果⋯⋯ニコチューブの回線が落ちるというオチまで付いたのである。
最後に一緒に冒険した4人でゲーム内の『部屋』に集まってスクショを撮った。
戦士『ネーベル』
吟遊詩人『みどりん』
黒魔法師『ルーミア』
そして無職の『アリス』
それに現実では姉さんと映子さんまで加わっての6人でも記念写真も撮る、深夜の誕生日パーティーになった。
今年の7月15日のこの夜は、僕の忘れられない思い出となり⋯⋯。
そして消えない『伝説』が生まれた日になった!
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