#070 アリスの冒険世界 1日目その3 適正無視の冒険者たち

 無職のボクは妬みながらみんなのステータスを見ていた。

 すると気がつく、みんなのステータスもわりとおかしい事に。


「あー、やっぱりバレた?」

「え? そうなの???」

「みどりんはそう悪くないわよ」


 ゲーマーであるシオンはわかっているらしい。

 ゲームとくにRPGに慣れていないルーミアは自分のステータスに違和感が無いようだった。

 あと、みどりさんはわかってて作った感じだった。


「どういう事、アリス?」


 今までボクを慰める立場だったのに、いつの間にか逆転している不安そうなルーミアの声だった。


「みどりんはいいんだけど⋯⋯。 ルーミアとシオンは種族と職業が合ってないんだよ」


 そうなのだ。

 シオンのパンパイアは力と魔力を両立した『魔法戦士』みたいな職業があっているが、序盤はそんな職業が無い。

 その為ただの魔法が使えない撃たれ弱い戦士になっている。


 一方ルーミアの獣人は力と素早さを兼ね備えた武闘家向けの種族である。

 しかし就いた職業は後衛の黒魔法師である。

 これだとせっかくの力が意味が無く、肝心の魔力が低いキャラになっている。


「あははは! いつもだったらもっといいのにしたけど、このゲームなら自分を作らないと⋯⋯って思ったらこうなった! まあ大器晩成の魔法戦士でも目指すさ!」


 めげないなシオンは⋯⋯。


「上級職があればいいけどな。 まあ絶対あると思うけど」


「そこへ行くとみどりんなんて素早いバフ師なんてチートキャラよ!」


 そういう考えがあるってことは、みどりさんはかなりの知識のあるゲーマーなのだろう。


 たいていのゲームではバフ係の素早さは低い事がほとんどで、第1ターンを無駄にする前提である。

 そのバフ係が素早くて先行を取れると世界が変わる。

 たかが1ターン、されど1ターンの世界なのだ。


「みどりんは良いけどそれを活かせるかな、ボクたちが?」


 いくらバフ係が有能でも、その仲間がこの調子では⋯⋯。


「そんなに悪いの? 私のキャラって?」


 不安そうな声だったルーミアは。

 彼女にとっては初めての公式からの案件だ、ボクもだけど。

 それを失敗にはしたくない責任感だろう。


「⋯⋯ルーミアの獣人は力と素早さが特徴で、でも黒魔法師だと素早さはいいけど力はあんまり意味が無い」

「そうだったんだ⋯⋯」


「でもさ、黒魔ってたいてい『攻撃力アップ系』の魔法が使えるじゃん。 自分の腕力強化で戦えるキャラって強いよ」


 なんとかそうフォローするボクだったのだが⋯⋯。


「⋯⋯え? 魔女の私が殴って戦うの?」


 どうもルーミアの理想とは程遠かったらしい。


「殴り魔道士、強いんだけどなー」


 シオンもフォローしてくれるが、もう遅い。


「えー⋯⋯。 私はもっと火の玉とか飛ばして戦いたいのに⋯⋯」

「そのためには魔力が低いわね」


 そうみどりさんがとどめを刺した。


 チーン。

 ルーミアはその場でうなだれてしまった。


「ほらほら! そこへ行くとボクなんか無職だぜ! なんの適性も無い! ルーミアの方が優秀だよ!」

「⋯⋯」


 こうしてボクらの冒険は始まる前から暗雲が立ち込めるのだった。


【面白すぎるコイツらwww】

【キャラ作成みんなアカン】

【普通にするより面白そうではある】

【ワイの本番の為に参考にしよう】

【ホントに自由がウリなんだなこのゲーム】


 そうリスナー達が裏で大いに盛り上がっていたのが、かろうじて救いではあったが。

 こうしてすでに困難が予想されるメンツでの冒険が始まるのだった。




 このゲームではストーリーらしいストーリーが無い。

 その為のクエスト制なのだ。

 街の中のNPCからイベントが始まったり、こうしてギルドでクエストを受注するのがゲームの進め方である。


「んーと、最初のクエストは⋯⋯これだな」

「だね」


 ボクとシオンはゲーマーとしての勘で、いかにもチュートリアルっぽいクエストを見つける。


 [依頼:薬草の入荷が止まっています! モンスターを倒して!]


「これをクリアするの?」

「うん、これを始めにしないとたぶんボクたちは詰むと思う⋯⋯」

「なんで?」


 ボクは理由をルーミアに説明する。


「ルーミアは道具屋の商品見た?」

「見たけど⋯⋯買わなかったわ。 何がいいのかわからないし、それに高かったし」


「それだよ! ボクらの所持金1000Gなのに初期の傷薬が200Gはおかしい、たぶん意図的に高額になっている!」


「つまりこのクエストをクリアすれば安くなる?」

「たぶんね」


「それにどのクエストもいずれはクリアするんだし、コレが最初でも全然問題ないよ」


 そうシオンも賛同した。


「へー、なるほど⋯⋯」


 あんまりゲームの事を知らないルーミアはそんなボクらの推理に感心している。


「⋯⋯でも、大昔のゲームの回復薬って無茶苦茶高いのはよくあったわよ?」

「⋯⋯まあそう言うのは死んだとき全財産没収とかのハードゲームだし、そこまでこのゲームは鬼畜じゃない⋯⋯ハズ」


 そんなゲーム黎明期とはもう違うんだ、信じているぞエミックスさん、スフィエアさん。


 こうしてボクたちはこのクエスト『薬草の入荷が止まっています! モンスターを倒して!』を選ぶのだった。




 街を出たボクたちは森の中にいる。


「えーと、クリア条件は⋯⋯『薬草を食べるスライムを20匹倒す』か」

「けっこう数が多いわね?」

「4人でだからだよ、1人なら5匹だった」


 どうやらシオンは先に1人用のオフラインモードの依頼を見に行っているらしい。


「なるほどね」

「でもたった5匹スライムを倒しただけで薬草の入荷が捗るとか、この世界どうなっているのかしら?」

「まあその辺はゲームなので深く考えても⋯⋯ね?」


 そんな雑談をしていたボクたちの前に、ついに初エンカウト!


「スライムが現れた!」

「倒せるかしら?」

「この最初の敵が倒せないバランスだと、これはクソゲーだよ!」

「まあ気楽にいきましょう」


 軽快なバトルBGMが気分を盛り上げる!


「イトケンだ! この曲イトケンだよ!」

「あー、わかるわー、この曲の入り方で!」


「ちょっとあんた達! スライムに集中しなさいよ!」


 ボクとシオンはみどりさんに怒られた。


「イトケン?」


 スフィエア所属の作曲家、糸井健一を知らないルーミアはなんかキョトンとしている。


「あー、でもいい盛り上がりの曲ね、カッコいい曲!」

「だろルーミア! わかるよねイトケンの良さが! 今度サントラ貸してあげるよ!」


「そこの二人! イチャイチャしとらんで戦わんか!」

「⋯⋯ハイ」

「⋯⋯ハイ」


 ⋯⋯みどりんがキレた。

 こわ⋯⋯。


 そして戦闘が始まった!

 初めに動いたのは一番素早いみどりんである!


「聞きなさい! 我が調べの旋律を!」


 みどりんの奏でる竪琴から音符が飛び出す!

 それがスライムにヒットして⋯⋯『5』という数字が出てきた。

 これがダメージ値なのだろう。

 しかし一撃では倒せなかった。


 次に動いたのはシオンだった。

 シオンとルーミアの素早さは一緒なので、この辺はランダムなのだろう。


「我が剣の錆となるがよい⋯⋯」


 そう言ってシオンは900Gもした鋼の剣を振りかざした!

 ミス!


「あっれー?」

「良かったなシオン、買ったばかりの剣が錆びなくて」

「こんな、はずは⋯⋯」


 シオンの種族のバンパイアは器用さが低い、だから命中率が悪いようだ。


「今度は私の番! 紅蓮の業火よ我が手に集て踊れ! 『ファイアー・アロー』!」


 うーん、ルーミアはわざわざ中二チックな詠唱までして気分たっぷりに初歩魔法を撃った。


 それは命中した!

 ダメージは『10』!

 その一撃でスライムは燃え尽きる!


「やったルーミア! 今度はボクの番だ!」


 最後に動いたのはボクだった。


「頼んだぞ! ボクのデリンジャー!」


 ボクのアリスの器用さはシオンよりも高い、外すことなくスライムに命中した!

 ダメージは『8』でスライムは消えた。

 どうやら6から8以内がスライムのHPらしい。


 しかしここからスライムのターンだった。

 攻撃が終わったボクたちはその生き残った最後のスライムの攻撃を避けられない。


 狙われるのは誰だ?


「ごふっ!?」


 ダメージを受けたのはシオンだった。


「フフフ⋯⋯やるではないかスライムよ」


 けっこーデカいダメージだな『7』は⋯⋯。

 まあシオンは防具無しの紙装甲だし⋯⋯あんなもんかな?


 こうして次のターンでボクたちはとくに危なげなくスライム3匹を倒したのだった。

 初戦闘、初勝利である!


 ここから始まるのだボクたちの快進撃が!

 そう思っていたんだ、この時までは⋯⋯。

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