第2章 出会いし5人目のVチューバー

#029 スーパーアリス爆誕!?(ただし揺れない)

 僕は栗林有介、男だ。

 しかし自分の声が女の子みたいなままで声変わりしなかった、そのため周りからはイジられて⋯⋯他人と距離を置くようになった。

 しかしそんな僕がひょんなことからVチューバー『アリス』として、デビューすることになったのだ!?


 始めは不安だった。

 とても一人では始められなかったに違いない。

 しかし姉の栗林真樹奈はVチューバー『マロン』となっていたのだった!

 僕がVチューバーになれたのは、そんな姉が居たからこそだった。


 そんな僕は同じVチューバーの『ルーミア』こと、芹沢留美さん。

 そして『エイミィ』こと相川映子さんと、一緒に暮らしながらVチューバーをしている!?


 自分一人だけだと思っていた世界がすっかり変わってしまった。

 いや⋯⋯変えられたというべきか、姉によって。


 この姉は僕が10歳の頃まで実家で一緒に暮らしていた。

 しかし姉は高校を卒業したタイミングで家を出た。

 それから僕はずっとボッチになった──。


 ⋯⋯いや、一人だけ友達が居たんだ。

 姉と入れ違いになった直後の1年間だけ親友と呼べる人が僕には居た。

 しかし彼は今どこで何をしているのだろうか?

 今でも楽しくゲームで遊んでいるのだろうか?


 あれからもう4年が過ぎている、きっと彼はすごく変わってしまったのかもしれない。

 もしかしたら僕はまったく変わっていないのかもしれないが⋯⋯。


 どこか遠くへ転校していった彼は、いま何をしているのだろうか?

 また会いたいような、会いたくないような⋯⋯。

 霧島紫音君。

 君は今、どこで何をしているのだろう?


 ── ※ ── ※ ──


「みなさんお待たせしました! 今夜からVチューバーアリス、3Dで復活です!」


 ボクがVチューバーとしてデビューして約1月。

 テスト勉強で配信を少しお休みしていたが、この度3Dニューアバターでの配信再開である。


【アリスお帰り】

【3D化おめでとう!】

【めっちゃ揺れている⋯⋯髪の毛がw】

【パット入れるんじゃなかったのか⋯⋯】


「いやパットは入れませんよ? ボクに何を求めているんです?」


【胸部装甲の強化】


「いや、必要ないし⋯⋯」


【俺たちには必要だった⋯⋯】


「そんな事より見てくださいよ! 3D化したボクを!」


【あ、うんカワイイよ】


「うわー、なげやりだ⋯⋯」


【結局3Dになっても平面のままでまるで成長していないw】


「成長しませんよ! アリスは完成されたオートマタなんですから!」


 なんか言ってて虚しくなる⋯⋯。

 まあ自分のアバターのおっぱい盛るのが嫌なだけだったんだが⋯⋯。


 僕は女として生まれていれば人生楽だったとは思うが、いまさら女になりたいわけじゃないし⋯⋯この辺が自分なりの落としどころだっただけである。

 自分でもどうかと思うが⋯⋯。


【どの辺が変ったの?】


「お、いい質問ですね見てください」


 そう言ってボクはアリスのアバターを拡大して、画面いっぱいにそのカワイイ顔を映す。


「ここだよ ここ!」


【かにかにどこかに?】


 画面いっぱいに拡大し映ったアリスの目の中に⋯⋯デジタルな光が流れる演出が起こった。


「見た? なんかすごくロボっぽいでしょ、これ!」


【オートマタが何か言っているw】

【確かにいい機能だがw】

【アリス部長嬉しそうで草w】


「他にもこれとか!」


 今度はアリスの腕を拡大する。

 するとそこには腕時計のようなリングが、手首のところで浮いてて回っている。


「ほらほらSFみたいじゃん、これ!」


【その腕輪に何の意味が?】


「そこは君たちで勝手に妄想してよ」


【設定頑張れよw】

【設定丸投げかよw】


「とまあ、胸を揺らすためのギミックやポリゴンを節約した結果、このように小道具や髪の毛がサラサラになりました!」


【力の入れどころw】

【アリスは夢よりもロマンだったか⋯⋯】

【おっぱいは犠牲になったのだ】


「みんな、そんなに喜んでくれてボクも嬉しいよ!」


【ワイらは悲しみに包まれているw】


「そんなにみんなおっぱいが好きなら、姉のマロンやエイミィさんのチャンネル登録をお願いしますね」


【さらっとルーミアは紹介しない鬼畜アリスwww】


「いやだって、ルーミアの見どころはソコじゃないでしょ?」


【ヤバいw また長くなるぞwww】


「いや今回はさすがに脱線しないよ、3D化の記念すべき初配信なのに」


【これまでと何か変わるの?】


「ふっふっふっよく聞いてくれました、今回ボクは3D化に伴い機能が拡張されました!」


【ほうほう】


「今までずっとファミステのゲームばっかりしてましたが、これからはスーパーファミステにも対応可能です!」


【8ビットから16ビットに進化したw】


「つまり今日からボクは、スーパーアリスだ」


【負けフラグじゃないかw】

【これダメなやつw】


「それ以外にもVチューバーの初任給でファミステスイッチを買いましたので、通信ゲームにも対応しました」


【ひどい進化っぷりw】

【そっちがメインだろw】


「あとはチャンネルの収益化も通りました」


【あ⋯⋯ホントだ】

【気づいてなかったw】


「まあ投げ銭は皆様のお気持ちでいいの⋯⋯でっ!?」


【1,000円】

【2,000円】

【500円】

【5,000円】

【200円】

【800円】

【3,900円】

【15,000円】

【100円】

【1,500円】


「ちょ!? 皆さんやめてくださいよ!」


 いきなり始まったスパチャの嵐にボクはパニックになった。


「ストーップ! ストップです!」


 数分後、やっとスパチャが収まった時、その合計金額は100万円を超えていた!?


「こんなにたくさん⋯⋯ボクなんかの為に⋯⋯」


【今までずっと投げたかったけどできなかったからその分】


「本当にありがとうございます、でも皆さんお金は大切にしてくださいね」


 その後しばらくボクはスパチャのお礼を返し続けるのだった。




「とりあえずお気持ちスパチャは100円にしませんか? ほらゲーセンみたいに⋯⋯」


 なんかよくわからない妥協点をボクは提案する。


 こうしてボクの配信では、見に来た人のほとんどが入場料として100円投げるという風習が生まれることになる。

 しかしそれはまだ先のお話だった。


 そしてようやくスパチャとそのお礼がひと段落した頃──、

 ボクの営業用のスマホに着信があった。


 一応着信音や振動は止めているので視界の中でピコピコ点滅していた。

 木下さんかな?

 そう思っていると相手は姉だった。

 一応この通話は配信で流れるように設定済みだった。

 今日という記念日に事務所の他のVチューバの方からのお祝いメッセージを受け取るために。


「ちょっと電話です、相手はねえさんですが」


 そうみんなに断ってボクは電話に出た。


「ハイハイねえさん何?」


『おーアリスよ! 3D化おめでとう!』

「ありがと、ねえさん」


 ガチャっとそのまま切った。


「全く、ドアの向こうに居るのにわざわざ電話して、もしこの間に他の先輩方から電話があったらどうするんだよ?」


【塩対応で草w】

【マロン隣に居るだろうにwww】

【なんかリアルな姉妹だなやっぱり】


 するとまた電話が来た。


「ハイハイ! ルーミアちゃん、お待ちしてました!」


【姉との違いよw】

【君さっきと対応違くない?】


『アリス、今日はおめでとう。 ⋯⋯ところであなたのお姉さん、泣いてるわよ?』

「ねえさんには冷蔵庫にプリンがあるって言っといて下さい。 それで機嫌が治るので」

『わかったわ、じゃあまた後でね』


 こうしてルーミアとの電話も終わった。


【あれ? ルーミア来てるの?】

【今ルーミアとマロン一緒なの?】


「はいそうですよ、あとエイミィさんも居ます」


【いつもの4人じゃないかw】

【電話の意味ないなw】


「この後、ボクの3D化と収益化のお祝いにみんなでゲームするんですよ」


【リアルで4人で?】


「はい、リアルで4人でするならあのゲームですよ⋯⋯麻雀です」


 こうしてボクの3D化の記念配信に、事務所の他の先輩Vチューバの人からもお祝いがあった後いったん終了して──、


 仁義なき麻雀勝負の配信が始まるのだった。

 それはのちにVチューバー界に語り継がれる修羅の夜だった。

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