第18話 結婚とは?
「とりあえず、この屋敷について大まかに説明しておきます。まずは1階部分についてですが、こちらは応接間や、客室などといった客人関係の部屋が多くを占めております。2階は執務室や、寝室といった旦那様や御坊っちゃまが暮らす空間で、3階は私達使用人の居住空間となっております。因みに当家の使用人は私を含め総勢21名です」
前を歩くルイスさんの前説を聞き終えると同時に、判明したエドワード家の使用人の総数に度肝を抜かれる。
「まずはハンナ様が本日お休みになられる部屋から案内しましょう。ハンナ様は今日時点ではまだ正客の扱いである為、こちらの客室で休まれる事となります」
「そしてこちらが、明日以降のハンナ様がお休みになられる寝室でございます」
「そして、こちらがお風呂……」
「こちらがお手洗い……」
「こちらが御坊っちゃまの執務室……」
「こちらが旦那様の執務室……」
「こちらが食堂……」「応接間……」「ホール……」「図書室……」「エントランス……」「大広間……」
次へ次へと屋敷内を案内されていく。
そのどれもに私はさすがは公爵家と感嘆させられ、目を剥き驚くばかりだった。 まぁ、当たり前か。
特にあのお風呂は凄く素敵だったなぁ〜。あのお風呂にこれから毎日入れると思うと今からもう待ち遠しい!
白を基調とした造りはまるで神殿のようで、それでいてものすごく広かった。そして浴槽も超巨大。
どれくらい巨大かというと……2、30人入ってもまだ余裕があるんじゃないかな? たぶん。
あと、それとトイレ。確かにこれだけ大きな屋敷だから至る所にトイレが必要なのは分かるけど、24もいるかな?
「これでもまだ全ての部屋は回れていませんが、今日のところはこの辺にしておきましょう。回れなかった部屋は追々という事で」
こうして、2時間程掛けた屋敷巡りは終了した。
うぅ〜……疲れた。
案外気丈に振る舞えているように見えて実はめちゃくちゃ緊張している私はこの屋敷へ到着してからずっと肩に変な力が入っている。
いくら孤独が嫌いな私でも、今だけは一人になりたい気分だ。
しかし、そんな私の希望も虚しく次なる婚約イベントがルイスさんの口からもたらされる。
「では、屋敷の案内はここまでとして、この後は庭園を2人で散歩して頂きます」
それは、お馴染み『庭園散歩』だった。 本来であれば――
ようやくヴィルドレット様との2人きりの時間がやってきた!
なんて事を考えて気合いを入れ直すところだが、
……はぁ。 もう限界……さすがに落ち込む。
ヴィルドレット様のこれまでの言動から察するに、やはりこの結婚に対しても、消極的である事は明らか。
それは対面した直後から感じていた。
自分自身に対して「それは分かっていた事でしょ?」と、何とか言い聞かせて敢えて悲観的に捉えないよう努めていたけれど……。
いくらなんでも屋敷巡りの間、一言も声を発さないなんてあんまりじゃない? それに、すっごく気怠そうな表情してたし。
分かっていた事とはいえ、ここまで顕著に態度で示されるとさすがの私もへこんでしまう。
例え『愛』のない結婚だったとしても、長い時を共に過ごしてさえいれば、おのずと『愛』は育まれていくもの――
結婚とは、そういうものだとずっと信じてきた。いや、違う。
結婚=愛してもらえる。
そう信じ込む事で折り合いをつけていた。
せっかく好きな人と結婚出来るのにその人から愛されないなんて恐くて考えられなかったのだ。
でも実際にヴィルドレット様と会ってみてその懸念は現実味を帯びてきた。
とはいえ、今更この結婚を取り消す事など出来ない。
もしも愛してくれないならば、努力しよう。
努力してヴィルドレット様から愛される女になろう。
こうして私は『結婚』=『愛し、愛される事』の間違った固定概念をようやく改め、これからは『愛される女』を目指していく事を心に決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます