第8話 父の執念
私の密かな女心に気付いていた父は、愛娘である私の為に考えを巡らせた結果、一縷の望みを見出した。
父はヴィルドレット様の公爵家嫡子という立場上『生涯未婚』とは、そうはいかないのではなかと考え、更に近頃では申し込まれる縁談自体も少なくなったのではなかろうかと、頃合いを見計らって持ち掛けた縁談が見事的中。今回、その実を結ぶ結果となったわけだ。
まさに父の執念――娘である私の幸せを一番に願ってくれた父が起こしてくれた奇跡。
ありがとう、お父さん! 私はお父さんの娘で幸せです!
とはいえ、現時点でこの結婚に『愛』は無い。そもそもヴィルドレット様は私の事を知らない。ヴィルドレット様からして私と会うのはこれからが初めてだ。
一方の私はというと、ヴィルドレット様がお目見えする社交の場には積極的に参加していた事もあって見知っている。
もちろん言葉は交わした事は無いし、近づく事すら叶わなかった。
ただただ父の後ろに付きながら遠目でヴィルドレット様のその麗しい御姿を眺めるだけだった。
更に前述に倣うならヴィルドレット様はこの結婚に対しても消極的だと思われる。
だけれど、結婚さえしてしまえば――、
共に笑い合い、支え合い、苦しい時でも互いに励まし合って、そんな風に苦楽を共にしていれば次第に『愛』は芽生えていくはず。 私はそう信じている。 いや、信じたい!
私はそう自分の中での一抹の不安を説き伏せ、エドワード公爵家からの迎えの馬車に乗り込んだのだった。
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