第6話 決意

 前世……『魔女』として生きた私は人々から疎まれ、孤独だった。

 そんな私は『結婚』に強い憧れを持ち、それは今も変わらない。


 前世を孤独に生き、孤独に死んだ私にとって、愛する人と死ぬまで一緒にいられる事は無上の喜びだ。


 だから結婚それが叶おうとしてる今、今度の人生こそ私は幸せになれると、そう信じていた……


 誰かを愛し、誰かに愛され、支え合い、励まし合いながら、苦しくとも険しい人生を共に歩んで行く誓いこそが結婚なんじゃないの?


 確かにこの結婚は急遽決まった貴族同士の政略結婚。


 だけれど、私はこの結婚を心から喜んでいるし、ヴィルドレット様の事を心から愛する誓いも立てている。

 私はこの結婚に本気で臨んでいるけどヴィルドレット様はそうではないという事? 


 やっぱり今日の明日、いきなり結婚するのは気が引ける?


 ――それとも何? 本気だったけど、実際に会ってみて私はヴィルドレット様の好みのタイプでは無かったとか?


 まぁ、貴族の間では美人で大人っぽい女性がモテるって言うしね……


 それに引き換え、私は童顔で実年齢よりも幼く見られる事が多い……


「よろしければ、理由を……お聞かせ願えませんか?」


 その真意を知るべく私は問いた。


 で、それに対してヴィルドレット様からもたらされた答えが――


「……この結婚は『政略結婚』だ。故に、この結婚に『愛』は要らないはずだが?」


 私が思い描いた幸せのかたちを壊すものだった。


 やっぱりこうなるか……


 実は、私にとってこの展開は全く予想していなかった事ではなく、むしろ想定内の事。

 ただ、その『想定内』は最悪の展開である事に間違はない。


 それでも私はなんとか食い下がろうと、ローブの裾をぎゅっと握り締めながら必死に言葉を紡ぎ出す。 結婚ゆめの為に――


「確かにこの結婚は政略結婚であり、今の私達の間に愛は無いのかもしれません。ですが、そんな寂しい事を仰らないで下さい。 私はこの結婚に希望を持ち、幸せな結婚生活を夢みているんです。 たとえ政略結婚であっても共に生活していく中で自然と愛は芽生えていくかと思うのですが――」


「――いや、私は無いと思う。……永遠に」


 再びヴィルドレット様の言葉が遮った。


 そ、そこまで言い切らなくても……


 この一言に私の心は砕け散り、その後に返す言葉を失った。


 思わず涙が溢れそうになった。でも、なんとか堪える。

 今、この人に涙を見せたくない。


「……結婚式は明日だ。今ならまだ間に合う。この結婚取りやめるか?」


 今の私の心情を悟った上での提案だろうが、この期に及んで私に選択権はもはや無い。


「いいえ。結構です! 予定通り明日、私達の結婚式を執り行いましょう。」


 さっきまでの弱々しい声音から一転、低いトーンではっきりとした口調で私は答えた。 少しばかりの怒りの感情を込めながら。


 さて、私達の結婚の有無について話を戻すと、私はこの結婚を無かった事にするつもりは無い。

 そもそも、『――妻になってくれるか?』と言われている時点で、下級貴族の私の口からこの結婚を無くす事は出来ない。


 それに、形はどうあれ前世の頃から夢焦がれた結婚が現実のものとなるのだ。 夫婦となれるのだ。

 こんな形でも『嬉しい』の感情がある事に自分でも驚く。


 それほどまでに私は結婚に憧れていたのだろう。 苦楽を共にし、男と女、常に隣りに寄り添い、綺麗な出来事も汚い出来事も出会ってからの一生を共に歩む――そんな結婚の形に。


 とはいえ、永遠に愛されない結婚かぁ……という落胆の念も同時にあるのも事実で。

 おそらくは愛そうともしてくれないのだろう。


 正直腹立たしい気持ちもあるが、私はヴィルドレット様に対して腹を立てれる程きれいな女でもない。


 いずれにせよ今更、無くす事の出来ないこの結婚。幸せになれるか、なれないかは私次第だろう。


 いつか……


 ――『愛してる』と。


 心からそう言われる女になりたい。そうなれるように努力しよう。いや、そうならなければならないのだ。

 誰の為でもない、私自身の為に――

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