第3話 魔女に恋した猫

 もしも、仮にボクが人間だったとして、ボクは君にとってどんな存在になれる? もしも、ボクが人間になれたとして、その時、ボクの姿は君の目にどう映る?


 君の心が欲しい……だから、ボクは人間になりたい。




 猫は魔女の哀しい微笑みを見る度に思う……もしも、自分が猫じゃなかったら……と。


 猫は己が『猫』として生まれた事を心底恨んだ。


 何故なら、人間からの愛を欲する『魔女』に猫は恋をしてしまったからだ。


 無論、猫が抱くその恋心は決して叶う事は無く、そして、伝わる事すらも無く、自然の摂理の元『猫』としての生涯を終えた。




 400年後――女神は猫の願いを聞き入れ、猫は人間として生まれ変わった。


 しかし、女神によってもたらされたその奇跡は皮肉にも猫にとって残酷なものになった。


 かつて、魔女に恋した猫は、名家エドワード公爵家令息――ヴィルドレット・エドワードとして新たに生を受けたが、400年後のその時代にはもう魔女は存在してはいなかった。


 あれほどなりたいと願った人間も、肝心の魔女が居なければ猫にとっては何の意味も成さなかった……。


 猫は信じていた。


 魔女が強く求めたのは『人間』。その存在にさえなれれば……魔女と恋仲になれると。

 

 これが、猫が『人間』になりたいと願ったたった一つの真意であり全てだった。




 猫を改め――ヴィルドレットは、公爵家嫡子という身であるが故に周囲から結婚を強く勧められるが、ヴィルドレットの心には未だ魔女への想いが残っていた。


 今世を生きる上で、前世での思い出に縋る事は無意味であり、愚かな事であると、幾ら頭では分かっているつもりでもどうしても心がついて来ない。

 大好きだった魔女との思い出が未だ鮮明に頭に残るヴィルドレットにとって魔女以外を愛する事は不可能だった。


 とはいえ、公爵家嫡子の身であるヴィルドレットにとって結婚は不可避。


 悩みに悩んだ末、ヴィルドレットは一つの折衷案にたどり着く。


 それは、文字通りの意味しか成さない『政略結婚』をする事。妻となる者へ予め「愛さない」と宣言する事だった。

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