神物語 つまり、私が本当の神様になった世界でのお話。

大歳士人

第1章 魔法と剣の世界

第1話 自由人

意識を漂わせる。ただ自由に——。こうしていると想像の世界が広がる。この〈想像の世界〉ではすべてが自由だ。そう、私にとって。


ここでは私が創造神となる。


ただ語るだけでいい。この語りによって私のリアルな〈意識世界〉が構築されていく。そうだ、私は私自身にたいして語ろう。それこそがまた、自由の源でもあるのだから。私は誰にも支配されない。されていない。私の支配者はつねに私自身、自分自身である。


さあ、これから、どこに行こうか。一話、二千文字の世界。制限はそれのみ。それを果てしなく繰り返していくのみ。ただし、原則が二千字であると同時に、最低でも一千字を超えなくてはならない。そうでなければきっとこの世界を本質的に維持していくことはできないであろうから。


ふと見やると、草原の大地に人がいる。上空から私はそれを発見した。体格のよい男が二人と華奢な少女が一人。三人が歩いている。フード付きのマントで身を包んでいる装いから察するに、旅をしているのか。しかしどうにも薄汚れている。長いこと旅をしてきたのだろうか。足取りはしっかりと力強いがどこか疲れているようすも垣間見える。


私は先回りをして彼らがやってくるであろう場所に降り立った。その姿は、人の形。青年の〈うつわ〉だ。麻の質素な衣をまとい、この世界のどこにでもいるふうの純朴な若い男の格好をした。


この世界には男女の差はあっても人種の差はない。後天的に日に焼けていれば肌は黒くなっていくだろうし、そうでなければ青白くなる。勇ましければ骨格も太くなり、人によっては彫りが深く、または張り出してもくるだろうし、気が弱ければ平らな、貧弱な体つきにもなる。私はこれといった特徴のない中肉中背の見た目あまり強そうでない男の体をつくりあげた。相手の警戒心を解くためである。


私はこの世界の人間には「魔力」を与えていた。いや、それは、人間ばかりではない。この世の生きとし生けるものすべてにそのチャンスを与えた。魔力を扱える者は知性や自由を勝ち取ることに成功しているようだった。腕力の劣る女性や子供でも、魔力によっては屈強な男性と対等もしくはそれ以上に、戦える。筋力を鍛えるように魔力を鍛えれば、その体格差など容易に補える。ここはそんな世界となっていた。


さっそく彼らはかなり遠くから目視で私を発見し、探知の魔力を仕掛けてきた。魔力とは、生命体から発せられる〈意識〉そのものだ。それは人の目には見えない霧状のようなもので、その強さによっては、まるで生き物が這いずるが如く、どこまでも広がる。数百メートル先からそれが届いたということは、探知にかけては相当の使い手である。


私はこちらの〈力〉を気取られぬよう、あふれんばかりの魔力を抑えていた。この〈器〉から外に広がっていかぬよう押しとどめて、そのあいだ、この空っぽの〈器〉の中に濃厚な意識を流し込みかき混ぜていた。そうやって記憶を捏造し、固有の人格を形成した。するとその記憶はすぐさまこの世界の時空をねじ曲げ、その瞬間に、この世界の事実となる。


個々の放つ魔力には、個別の種は当然のこと、質の差もあった。いま探りを入れんがため、私の肉体にからみついている者の魔力は、とても良質なものであった。透明感がありほとんど気配を感じさせない。これならおいそれとは気づかれないであろう。私以外になら。


良質の魔力を放つ者は善人である。意識に穢れがないから、それは透明感を保つことができる。そもそも魔力とは、魔の力であり、基本は、我欲、強欲、つまり〈欲〉を満たすための野性的な生命力でもある。だからその力ゆえに、人は得てして、悪の道に走りやすい。


「敵意はない。」


手のひらを見せるように彼らは右手を軽く挙げながら近寄ってきた。あいさつの仕草というより、武器を手にしていない、攻撃するつもりはない、という意思表示でもあるのだろう。二人の男は同時に手を挙げていたが、後ろの少女は男たちの仕草に気づいて慌てて手を挙げた。私はマントを羽織っていないので、まさに明らかな丸腰ではあったが、私もゆるりと右手を挙げた。


「近くに村か町があるのだろうか?」いかつい大男は言った。


「あなた方はなんだろう? ただの旅人か、それとも、移民難民のたぐいか。もしくは、魔物を狩るハンター、冒険者か?」


私はすべてを知っている。知っているうえでそう聞いた。彼らがどう反応するのか、それを見るのは、自分でも思いがけなく、想像以上に新鮮で楽しいのだ。


大男は「ああ、我々は……、」と言いよどみ、隣の背の高い男を一瞥してから、「移民だ。生活の拠点となる場所を探している。」と私の質問に答えた。

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