114話 ここから②
『!!!』
ポコポコとお腹で赤ちゃんが動いている感覚が訪れた。
その拳をゆっくりと広げお腹を触った。
あんなに吐いて、飲めなくて、食べられないのにここまで頑張って育ててきた。
ここにいるお腹の赤ちゃんもお酒の匂いやたばこの匂いを浴びたり、私の食欲不振のなか一生懸命大きくなってくれた。
それにもかかわらずそんなことをしようとするなんて、絶対あってはならない。
目から大量の涙が零れ落ちてきた。
「ごめん。ごめんね。絶対、守るから、何があっても。あなたは私の子供だから、絶対に離さないから」
今私のおなかには新しい命がある、あの男はこの小さな命と向き合わずに見捨てた。
私のことではなくこのおなかの子のことをだ。
もう完全に冷めた。
あの男に冷めたのもそうだけど頭が冷めた。
「さようなら」
そう言ってあのとき取ってもらったキーホルダーを公園のごみ箱に捨てた。
あの男との思い出も、気持ちも一緒に捨てた。
もう後ろ髪惹かれるなんてない、あの男に。
でも、まだはっきりとはわからない。
どうすればよかったのか、この選択が正しかったのか。
でも私には残っているものがひとつある。
それは絶対に失ってはならない、この世界に同じものはない。
あと少しで一緒の景色を見ることができるであろうお腹の子の命。
私は望んでこの子を作った、私はこの子を産み育てる。
この子は親を選べない。
私が親だ。
その後、時が進みお腹の子は無事に外の世界へと出てきた。
「ギャー、ギャー」
「赤ちゃん……ははは……良かった……」
元気そうでよかった、ほっとした。
痛かった。
今まで経験した痛みとは比較にならないほどの地獄のような、気が遠のくほどの痛みだったけれどよかった。
この子が生まれたときは何というか今までのことが帳消しになるぐらいの感動なのか安堵感なのか何とも言えない感情になった。
これは出産した女の人しかわからないと言われている感覚かって。
顔も触ったし、頬ずりもした、おっぱいも吸ってもらった。
そんなことしているときは幸せだったがその後というものの……。
すべてが繋がっている。
あの時の行動言動一つ一つが今に結びついている。
育てられない、私ひとりでは。
でも、近藤優に出会ったことで私の、私たちの未来は開けた。
誰の理想でもない、自分で居ていい場所。
そして、心が休まる居心地のいい場所。
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