75話 報告①

 少し時間が経つと切り替えたようで遥さんは表情がすっきりしている。

 俺の横に座っている彼女は一息吐いてから口を開いた。


「改めて、結大丈夫だった? ギャン泣きの大炎上しなかった?」

「とてもお利口さんだった、大丈夫。これまでの期間での経験が生きていて、手慣れたもんですよ」

「よかった、優さんいてくれて。すっごくいい時間だったよ」


 帰ってきてから俺が寝てしまっていて、遥さんが不在時の様子を伝えていなかった。


「やっぱり心配だったよね。他人の俺が面倒見ていて」

「そこの心配はしてない。むしろ信頼してるよ。任せられる」

「それなら良かった。ゆっくりできた? いい時間だったと言っても頭の片隅では結ちゃんが浮かんでいたでしょ?」


 信頼してくれていることは分かっているが、心配で気が張っていたのではないかと思う。

 よく自分の親に預けて出かけて行っても心配で早く帰って来ることは聞く。

 きっと彼女もそうだと思っていたが、彼女は首を横に振った。


「うーん。私は結構頭空っぽにできたかな。まぁ、ちょっとは気に掛けたけどね。結がお腹に来てから今まで、二十四時間付きっ切りだったからさ。ずっとずっと、結結ゆいゆいで疲れてたよ。少しは忘れる時間が欲しかったかな。良いのか悪いのか分からないけどね」

「ゆっくりできたようで良かったよ。こっちは問題なく過ごせてたよ。二人で寝ちゃったけど」

「結と優さんの二人の時間も必要だったから。二人で仲良く寝ている姿、可愛かったよ。そうやって今日という日常を過ごしてくれていて良かったよ。私と優さんは言葉でキャッチボールができるから日々の悩みとかやって欲しいことを相談出来たりして、それを解決してくれてそれが嬉しくなったり、安心したりして信頼を積むことができる。でも結は言葉がまだ話せないから触れ合いとかおむつ替えとかミルクをあげたり、不快を取り除いてあげることで信頼を積まないといけないじゃん。もっと仲良くなってもらうためには私が見ていないところでも二人で過ごしてもらおうかなって思ったの」


 胸のところで手を組んで目を瞑り、願うように語った彼女の思いは十二分に伝わった。


「俺、出来たかな?」


 目を片方開けてこっちを見ている彼女は指を一本指してこう言った。


「それは結に聞かないと分からないよ。きっと結はあなたの見えない優しさをしっかり受け止めていると思うよ?」

「うー……うー、あー」


 結ちゃんが何を伝えたいか、わかった気がする。

 俺への信頼がしっかりと積まれていることが自分でもわかったのであった。

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