同じ匂い、見る景色、過ごす時間
みずうみりりー
土台
プロローグ 出会いの音
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。
真冬の凍えるような寒さの日に突然チャイムが鳴った。
今の時代ピンポンを三回も間隔を空けずに鳴らす業者なんているのだろうか。
……ピンポーン、ピンポーン
普段チャイムなんてなることは出前を頼んだ時以外に鳴ることなんかない。
もちろん出前の配達員は一回しか鳴らさないだろうし今は頼んでいない。
頼むような性格でもないから尚更だ。
朝九時の休日から困ったことになったが対応しないわけにもいかない。
立ち上がってモニターまで歩みを進めると、液晶越しに一人の若い女性が立っていた。
ボタンを押して一応返事をしてみると思いがけない言葉が帰ってきた。
「……すいません……話を聞いていただけませんか……いや、聞いてください……本当に聞いてください……」
マイクからかろうじて聞こえる女性の声。
いきなり画面越しに話を聞くよう言われた。
普通の感覚なら断るが俺は廊下を歩き玄関にいた。
つまり、相手の話を聞くことを選択した。
この一軒家に住んでいてチャイムが鳴って自分の家の玄関の戸を開く行為は久しかった。
ドアを開けるとストーブが空気を温めているのと相対して、外は冬らしい北風が吹き、息をするたびに冬の空気が鼻孔に入る。
その北風に吹かれている女性が立っていた。
背丈は俺より少し小さく、若々しい真っ白な顔が青ざめていて唇が真っ青な色をしている。
頬は風が吹き付け赤くなっている。
髪の毛は肩ぐらいまでの長さの黒髪を持っている。
目はやわらかい優しそうな眼をしているが、その奥の瞳はとても不安そうな目をしている。
見た目は薄汚いとまでは言えないがこの寒い中で薄そうな黒いズボンと薄いコートを着ていて冬に適した格好ではないことが見て取れた。
靴は土で汚れたスニーカーを履いている。
横がメッシュ素材だから足の指に空気が通りやすいと思う……考えただけで痛い。
荷物は……リュックを背負っていて、足元には大き目のボストンバッグを置いているが形が萎んでいて中にはあまり入っていいないようだ。
この雪が降るかという冬場にこんな軽装備で普通ではないことは容易に想像できた。
コートの内側になにかを入れているのか膨らんでいて、右手でそれを支えている。
「……こんにちは……すいません……」
かなり小さい声を発したその声は、もちろん女声だから俺よりは高かった。
俺は一歩前に出て返答をした。
「……こんにちは……どうしましたか……」
「あの……一晩……いや少し休ませていただけませんか……」
目線をコートの膨らみのほうに一度移してからもう一度彼女のほうを見た。
視線に気が付いたのか困ったようにしながらコートのボタンを外した。
すると、小さな小さな命を女性は連れていた。
この赤ちゃんはきっと、この女性の子なのであろう。
視線に気が付いたようで女性は苦笑いで空いているほうの手でカバンをもって一歩下がった。
「あはは……あの……迷惑ですよね。すいません……他を当たります」
俺の視線が赤ちゃんと女性を行き来していたら、女性は申し訳なさそうな顔をして頭を下げて立ち去ろうとしたが、ここで止めずに突き返したらこの後また同じことをするのだろうかと思う。
このまま返すのは正直心が痛むし、扉を開けて赤ちゃんの存在を確認した以上は関係ないで済まされるものではない。
いや、関係ないで済むことではあるが、一歩下がったはずの女性が目線がこちらを離さず、元の位置に戻っている。
少しだけと自分に言い聞かせるように一息ついてから口を動かした。
「とりあえず、こんなところでよかったら休んでもいいですよ」
「本……当……ですか……」
命乞いをしたかのような顔をしている。
「はい、どうぞ。あなたも赤ちゃんも風邪ひくかもしれないし。もう体調崩しかけてそうだけど。入っていいです」
「ありがとうございます。ありがとうございます。えっと……」
目の前の女性はチャイムボタンの横にある表札を見た。
「
もう一度頭を下げた女性と赤ちゃんを家の中へ入れた。
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