第44話 山の上の村
夜が明けて、お日様がゆっくりと姿を見せて世界を照らし始める。
初めての野宿で一番心配していたのは、夜間中に魔物が襲ってくる事。
シャリー曰く、野宿は順番で見張り番をするとのことだが、そこは道しるべの地図の力で近くに敵意を持つ者が現れると、アラームを鳴らす力があるので、見張り番はなしにした。
なのにアラームが鳴る事はなく、夜に起きるなんて事はなかった。
僕が異世界に転生してからというもの、胃袋だけじゃなくて他の身体機能も前世とは違う点がある。
それは眠さだ。
眠くならないわけではないけれど、感じる眠さが極端に減った。
それに眠ってから途中で起きて、また眠っても次の日に響くとかが全くない。
これもきっと半神半人である所以かも知れない。
「おはよう~アルくん」
「おはよう~シャリー」
昨晩からシャリーが俺の事を『アルマくん』から『アルくん』と呼ぶようになった。
それを聞いたソフィアちゃんもすかさず『アル様』と呼んでくれるようになった。
早速朝食のためにもう一度調理器具をセッティングしていく。
終わるとともにみんなで朝食の準備だ。
朝食の調理は美味しそうな卵だけで、他は食パンや野菜を洗って乗せるだけなので、みんなで一緒に進める。
リアちゃんが一生懸命に野菜を洗ってくれて、シャリーが用意してくれた食パンの上に敷いていく。
完成した食パンを俺が運んで、ソフィアちゃんが美味しい目玉焼きを乗せてくれる。
今度はシャリーのところに持っていくと、赤色の甘酸っぱいケチャップを掛けてくれる。
特殊な植物以外で食べ物は前世と同じ名前なのは分かるが、まさか調味料品の名前すら一緒だったりする。
ケチャップはトマトで作るのも同じらしい。
美味しい朝食をみんなで食べ終えて、片付けをする。
魔法のテントも中にある魔石を操作して、簡単に元の姿に戻す。設定して、外に出て三分後くらいにテントが魔力の粒子に包まれて、一気に姿を変えて折り畳まれる。
中に人がいる場合、発動しないというのだから、魔道具って凄いなと改めて思う。
片付けが終わって、それぞれリュックに荷物を詰めて、今日も次の町に向かって歩き始めた。
それにしても、魔物が普通に生息している地域のはずなのに魔物が近づいてこないのが不思議だ。
道を歩くと、少し大きな牛の姿をした魔物がこちらを睨むと、ルークが飛んで行って一瞬で倒して帰ってくる。
できればお肉とか行きたいんだけど、荷物が多くなると困るので倒した魔物はそのままにする。
魔物は倒して解体をせずに放置しておくと、数時間後には消える。
解体すれば食用肉として消えなくなるらしい。
異世界ならではの不思議な仕様だけど、異世界なんだから仕方ないよね。
森に住んでいた頃、無益な殺傷は母さんから禁じられていたので、俺達が食べる分しか狩った事がないので、消える事すら分からなかった。
暫く歩くと、道が二つに分かれている。
真っすぐに進むと最初に予定していた王都で一番近い街に着くのだが、もう片方の左手に向かうのは、どうやら山の上の村に続いているようだ。
「アルくん? 山の上が気になる?」
「ん~なんだか山の上っていい景色が見れそうじゃない?」
「そうね。きっと素晴らしい景色が見えると思う」
「じゃあ、先に山の上を目指すか!」
急遽目指す場所を変えて山の上にあるという村を目指した。
道は整備もされていないが誰かが住んでいる雰囲気がある。
リアちゃんは所々に生えている石をひょいひょいと避けながら、可愛らしく飛び跳ねたりする。
何気ない移動でもリアちゃんの可愛らしさに癒される。
すると頭に乗っていたクレアがくちばしで突いてくる。
【お兄ちゃん? リアちゃんが可愛いからってデレデレしすぎだよ!?】
「あはは……ごめんごめん」
右手を伸ばして頭上に乗っているクレアの背中を優しく撫でてあげる。
クレアは余程のことがないと頭を撫でさせてくれないので、普段は背中を撫でる。
「ん? こんなところにも魔物がいるな」
木の上に猿の魔物が十匹程、こちらをチラチラと見つめて来た。
「珍しいね。ウォーモンキーという集団で動く魔物なんだけど、連携力が高いから凄く強いんだよね。でも襲って来ないね?」
今にもこちらに飛んで来そうな雰囲気を醸し出しているのに、全く動こうとしない。
【兄ちゃん~倒して来ていい?】
「ん~いや、ひとまず放置しておこう」
【分かった~】
こちらに敵意を向けないならいいんじゃないかな。
ひとまず無視して山の上を目指した。
山の上に小さな村が見え始め、木で作られた家がいくつか見え始めた。
柵らしい柵も村の門もないので魔物がやってこないか少し心配になる。
門がないので、そのまま中に入っていく。
「こんにちは~」
挨拶をすると、少しして近くの家の窓が開いて可愛らしい女の子がこちらを覗いてきた。
「ど、どちらさまでしょうか~?」
「えっと、山の上に村があるということで、寄ってみました」
「そ、そうだったんですね…………えっと、ここに来るまでウォーモンキーに襲われなかったんですか?」
ん? ウォーモンキーって木の上からチラチラ見て来た猿魔物か。
「いたけど襲ってこなかったよ?」
「そ、そうでしたか…………」
「どうかしたのかい?」
「え、えっと…………」
女の子は困った顔で俺とシャリーの顔を何度か繰り返し見る。
シャリーが満面の笑みで首を縦に頷いたら、女の子は中に入るように扉を開いて出迎えてくれた。
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