第43話 初めての野宿

 丸々一日近く歩いた。


 こんなに歩いた感想としては――――ステータスって凄いな! という事だ。


 森で生きている時は、長時間散歩に出たことはないし、王都に来ても長時間歩いた事はないけれど、道をひたすら歩き続けて感じるのは、ステータスが上昇したおかげなのか全く疲れない。


 それは俺だけでなくシャリーの顔にも疲れの色は全くなく、リアちゃんもソフィアちゃんも加護のおかげなのか、まだまだぴんぴんしている。


 ただ、すっかり日が落ちて、世界は真っ暗に支配されている。


 いつでも野宿ができるようにと、魔法のテントを購入しておいて良かった。


 これはビゼルさんが強く勧めてくれた品で、金額は高価な物らしいけど、俺が持っている植物のいくつかと交換してくれた。


 なので、俺にとってはタダで手に入れた事になるけど、ビゼルさんはそれでもいいと寧ろ喜んでくれた。


「あんなに小さな箱からこんなに大きなテントに変わるなんて、魔道具って凄いんですね~」


「そうだね。俺も初めて使ったけど、思っていたよりもずっと凄いな」


 早速テントの中を覗くと、入口近くにはいくつかのプレボックスが並んでいて、中には布団が並んでいた。ちゃんと靴脱ぎばまであって、内側から鍵を閉めると外から開けられないようにできている。


 テント自体からも不思議な魔力の力を感じるのは、防御魔法が施されているからだ。


 これだけで魔法でも魔物の攻撃や誰かが斬りつけても弾かれるそうだ。


 中の確認が終わったので、プレボックスを外に出して蓋を開く。


 ボックスの中には数々の調理器具が入っていた。


 みんなで手分けしてテーブルを取り出してはセットしたり、料理を担当してくれるソフィアちゃんが料理しやすいように調理器具をセットしたりと、初めての野宿で慣れないけど何だか楽しいセッティングの時間を過ごした。


 完成したセットにはすぐにソフィアちゃんが調理に掛かり、リアちゃんとシャリーはソフィアちゃんの指示通りに皿を運んだり野菜を斬ったりする。


 なんだか三姉妹のようにも見えて微笑ましい。


 俺は妹弟たちと共に、周囲を警戒だ。


 こういう時も魔物が襲ってくるから、常に気を引き締めている。


 といっても道しるべの地図で常に見張っているので、こちらに敵意がある存在が近づいてきたらすぐに分かる。


 ある意味、周辺の探知にも役に立つスキルだなと改めて感動した。


 ここら辺で取れそうな植物はあまりなかった。


「アルマ様~出来上がりましたよ~」


 ソフィアちゃんの呼ぶ声がして、それほど時間は経っておらず、野宿も予想していて練習を重ねていたと言ったのは本当の事でもあり、彼女の手際の良さを示す。


 テーブルにはリアちゃんとシャリーが涎を垂らす勢いで、フォークとスプーンを握って目の前の料理に視線が釘付けになっている。


 本当に姉妹に見えるのがまた可愛らしい。


「周囲の警戒は俺のスキルで賄えるからクレアとルークも気にせずに食べよう」


【【あい~!】】


 テーブルに座り、みんなで手を合わせる。


「「「いただいきます~!」」」【【いただきます~!】】


 大きなプレートにパンと野菜、お肉、魚と野宿とは思えない品が並んで、お椀には美味しそうな野菜スープが匂いを発して存在感を放っている。


 真っ先に野菜スープをスプーンで一口食べてみる。


 口の中に広がる野菜の甘さが異世界ならではなのか、はたまたソフィアちゃんの腕の良さなのか分からないが、全く臭みがなく野菜とスープの甘味が全く喧嘩せずにすーっと口の中に広がっていく。


 飲み込んだ後の後味もまた素晴らしい。こういうのを胃の中が幸せというのかな。


 今度は一口サイズに切ってあるパンに隣にある野菜とお肉を乗せる。その上からフォークで差し込むとお肉から肉汁があふれて真下にあり野菜を伝ってパンに沁み込み始める。


 この料理はレストラン『スザク』で開発した肉汁をパンに沁み込ませて食べるもので、ほんの少しの手間でものすごい旨さを誇る。


 肉汁がパンに沁み込んだのを確認して、待ちきれんばかりの速さで口の中に入れる。


 肉汁の旨味が口の中に広がるが、嚙み始めると野菜の優しさとパンの素朴な甘みがワイルドな肉汁と合わさって、とてつもない旨さを口の中で表現し始める。


 見た目はただのハンバーガーにも似てるのに、あまりの旨さに頬が吊り上がる。これにはどうしても抵抗できない。


 それは俺だけでなく、リアちゃん、シャリーも頬が吊り上がり、珍しくクレアもガツガツ食べる。ルークに至っては言うまでもない。


「「美味しい~!」」


 声は出せないが、リアちゃんも一緒に声を上げる。


 作ってくれたソフィアちゃんに感謝しながら、目の前の食事を次々口の中に運んでいく。


 会話も忘れて目の前のプレートに乗った食事を平らげた。


 それを待っていたかのように、俺が提案した和風マグカップが渡された。


 中にはアルキバガン森の深部でしか取れない植物で作れるお茶が入っており、初めて飲んだ時は衝撃を覚える旨さだった。


 ただ、クレア曰く普通の人は、一日一杯以上飲むのはよくないという。


 というのもアルキバガン森の深部の植物はものすごい魔力を吸い込んでいて、どの植物も濃い魔力を身ごもっていて、いくらお茶として作ったとしても、濃い魔力が体の中に入り過ぎると良くないという。


 葉っぱ一つで十人分に割って丁度いいそうだ。


 余った分は問題がない俺とクレア、ルークにそれぞれ分けられて多めに入っている。


「このお茶、本当に美味しい……幸せ…………」


 お茶というよりは、もはやジュースとも思える甘さと旨さと言葉では表現できない美味しさがある。


 近いものはと聞かれたら、ミルクティーの全ての味が濃くなって甘さが強調された不思議な味。


 初めての野宿での食事はものすごく満足いくものとなった。


 食べ終わるとソフィアちゃんを除いたみんなで食器洗いをして、片付けに入る。


 これはパーティーメンバーが全員平等・・であるための決め事だ。


 美味しい料理を準備してくれたソフィアちゃんはソワソワしながら椅子に座って見守っているけど、途中で一人だけ除け者にされてる気分だからと簡単な手伝いだけしてくれた。


 その日は初めての魔法のテントの中で、みんな仲良く布団に並んで眠りについた。

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