第16話 洋食屋

 ミールさんが紹介してくれたお店は『猫ノ手』という洋食屋で、色んなメニューを扱っているようだが、中でも海鮮系が絶品だそうだ。


「アルマさん…………その…………全部食べるのですか?」


 目の前のテーブルには、ここで売っている全てのメニューが並んでいる。


 どれが美味しいか分からないから、全て頼んでみないと分からない。


 せっかくだから、全部頼んで、みんな好きなモノを食べるようにした。


 もちろん、余った分は俺と妹弟が食べるから問題ない。


「ええ。問題ないです。俺達はわりと大食いなので気にせず好きなモノを食べてください。シャリーも遠慮しないでね?」


「分かった!」


 すぐに小皿に次々と食べたいモノを一口ずつ取って食べ始める。


 ミールさんも諦めたように、小皿に食べたいモノを一口分ずつ取り、食べ始めた。


 俺は妹弟が食べたいものを寄せてあげたり、目の前の食事を片っ端から胃袋の中に詰め続けた。


 その料理も美味しくて、味もバランスよく、甘さ、しょっぱさ、苦さ、旨さ、どの味も美味しさに繋がり、味わい深い。


「アルマくん。泊る場所は決めた?」


 食べているとシャリーがおもむろに聞いてくる。


「いや、特に決めてはいないけど?」


「なら安らぎの木に泊まらない? 長期宿泊だと安くしてくれたり朝食もいつも美味しいよ?」


「それもいいかも。あの宿の食事も美味しかったね」


「うん! じゃあ、依頼を受けに行く前に宿屋に話に行こう!」


「ああ。よろしく頼む」


 どうしてか安堵したように胸をなでおろすけど、どうかしたのだろうか?


「それと紅茶を買いたいのでよろしくね」


「クレア様達が好きだと言っていたもんね」


「ん? クレア様?」


 ミールさんが不思議そうにこちらを見つめる。


「妹のクレアと弟のアレンです」


 そういや、紹介がまだだったな。


「えっと、従魔ではないと思っていたけど……妹弟?」


「まぁ色々ありまして。俺は妹弟と話せたりします」


「えっ? 話せる??」


 ますます難しい表情を浮かべる。


 苦笑いを浮かべたシャリーが「どうしよう」という視線を送ってくる。


 恐らく神獣というのは、あまり話さない方が良さげに見える。


 ただ、ミールさんとギルドマスターは信用に値すると思う。


 あまり自分達の情報を安く与えるのはよくないだろうけど、せめて信頼できる人にはある程度明かしてもいいと思う。


 そこから繋がる絆もあるだろうし、俺の才能『先導者』を考えれば、誰かを導く事も考えれば、ここは冒険者ギルドで顔が利くミールさんと仲良くしておいても損はない。


「実はこの子達って神獣なんですよ」


「…………」


「ミールさん?」


「…………」


 右手にフォークを持ったまま動かないミールさん。


 返事が返ってこないので、とりあえず食事を続ける。


「アルマくん? ミールさんが固まったよ?」


「そうみたいだね。ひとまず食事を続けようか」


「そうだね」


 早く食べないと妹弟に全部食べられてしまいそうだ。




 テーブルの食事が全てなくなって、デザートが運ばれてきた頃。


「えええええ!?」


「あ、起きた」


 やっと現実に戻ったミールさんがその場に立ち上がった。


 勢いよく立ち上がって椅子が倒れて音が周囲に鳴り響く。


「ミールさん。やっと正気を戻したんですね~デザートが来ましたよ~?」


「しゃ、シャリーちゃん!? どうしてそんなに平然としているの!?」


「え~そもそも私って朱雀様を信仰する一族ですし、アルマくんですし」


 アルマくんですしの部分がちょっと気になるけど、まぁ悪い気はしない。


「あ、アルマさん? 様?」


「普通に呼んでください。さん付けもいりませんよ?」


「えっ? そ、そう?」


「ミールさんの方がお姉さんですし、俺はミールさんを信頼して話したくらいですから」


「わ、分かった。アルマくん? 妹弟様が神獣というのは本当?」


「ええ。朱雀ですよ」


 ふたりともれっきとして朱雀なのは間違いない。


 ただ普段は身体を小さくしているからこの大きさだ。


「普段から身体を小さくしてくれています。大きいと街には入れませんし、俺の肩にも乗りませんからね」


 デザートをむしゃむしゃと食べながらクレアが頷く。


「それにしても、この店はデザートも美味しくていいですね。王都にいる間は愛用したいくらいです。ミールさん。紹介してくれてありがとうございます」


「い、いえ……どういたしまして…………」


 力が抜けたように座り込むミールさんを見て、クスっと笑みがこぼれた。


 食事を終えて、ミールさんは魂が抜けたようにギルドに帰って行った。


 送ろうかと思ったけど、ミールさんは一人で整理したいとの事で、先に宿屋に向かって宿を取る事にした。




「えっと、空いている部屋はないですよ?」


「…………」


「シャリー姉ちゃんの部屋は元々二人部屋なので、そこに泊ってくれても構いませんよ?」


「ええええ!?」


「ん~それはシャリーに申し訳ないからな……」


「アルマくん!? わ、私は構わないわ! 寧ろ、隣でクレア様が眠ってくださるなら、ご、ご褒美というか、寧ろお願いします!」


 心の声が駄々洩れしているが、気に留める事すらしない。


 他に泊る場所も見当たらないので、シャリーの部屋でお世話になる事が決まった。

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