第14話 錬金術
ビゼルさんの工房は冒険者ギルドからそう遠くない大きなビルだった。
一階は錬金店として経営されているようで、外から覗く限りだと中々繁盛している。
俺達はビルの裏側から階段を上り、中に入っていった。
工房が二階から入れて、護衛なども見えないから、王都がどれだけ治安が安定しているのかが分かる。
二階の工房は自分が想像していた研究所のような場所ではなく、綺麗に整理整頓された診療所のような雰囲気の場所だった。
「ミールさんも来て良かったんですか?」
「えっ? は、はい! 少し事情がありまして…………」
シャリーが付いてくるのは分かるけど、何故かミールさんも付いて来たからな。
受付の仕事はいいのか……?
「ここが俺の工房だ! さあ、約束通り、メガル草を売ってくれ!」
「いや、まだ錬金術を見せて貰えてないんですが……
「おお! そうであったな。錬金術を見せればいいのだな?」
早速棚の中から、いくつかの瓶を取り出してテーブルに並べる。
料理で使うような銀色のボウルに瓶の中の粉末を入れた。
四種類の粉末を入れ終えたら、そのボウルを台座に乗せる。
「――――錬金術、混合」
ビゼルさんの手と台座が光ると共に、銀色のボウルが小さく揺れ始める。
中に入っている粉が波を打って混ざり始めた。
「これは手で混ぜるのとは違うのですか?」
「うむ。今やっている事も錬金術の一つで、素材をかき混ぜるのとは違い、物質で融合させて新しい物質を産むのさ。錬金術の基礎であり一番大切な部分になるかな」
冒険者ギルドでは忙しい人の印象があったのに、錬金術となるとまるで人が変わったように落ち着きぶりを見せるビゼルさん。
これぞ、職人! という感じがする。
たった数十秒で粉が混じり合い、一つの黄金色にも見える粉に変わっていった。
一緒に眺めていたミールさんが小さい声で耳打ちをする。
「アルマさん。素材混合は錬金術の中でも一番の初歩と言われています。ですが一番実力が出る基礎とも言われています。混合を上手く成功させるために魔力を使い、その知識と実力がなければ、4種類の上位素材をああも簡単に混合できる錬金術師は王都でも数える程しかいません」
それだけで彼が相当な実力なのが分かる。
冒険者ギルドのミールさんの情報なら間違いない事実だろう。
「では次の工程に進む」
工房で最も存在感を出しているのは――――大きな釜である。
釜の中には不思議な水が入っていて、その中に迷う事なく黄金の粉を入れ込んだ。
その前に立つビゼルさんが両手を釜の上に掲げる。
彼の周囲に弱い風が吹き始め、魔力の鼓動が感じられる。
魔力の波動がどんどん釜に集まり始め、ビゼルさんの中から感じる魔力がどんどん釜に吸われていく。
その状況が数分続き、魔力の波動が止んだ。
「ふぅ……今回の出来はまあまあかな」
そう話すビゼルさんが隣にあったおたまを取り出して、釜の金色に輝く水をすくって瓶の中に入れた。
そして、俺に渡してくれる。
「これがいま市販されているポーションです」
ポーションと言われたモノは、瓶の中に透明の水が入っていて、その中にキラキラと輝いている何かが入っていた。
金色の粒か? 目では見えないくらい小さいが、どこか暖かい気持ちが伝わってくる光だ。
「一度飲んでみても?」
「ええ。構いません」
ぐいっと飲み込んでみる。
味は飲みやすいお水で、ほんの少し甘味もして、何より身体中が暖かい気持ちになる。
それと共に、俺の全身に淡い光が灯り始めた。
「アルマくん? ポーションって傷口にかけてもいいんだけど、そうして飲み込むことで全身の回復を活性化させてくれるんだ。回復魔法は傷を防ぐだけだけど、内部から治すポーションは冒険者達にとっては必須品だったりするよ」
「シャリーも利用したりするのか?」
「もちろん。ほら、ここに常備しているでしょう?」
そういや、冒険者達が腰に掛けているバッグがあり、厚みだけで10センチはあるくらいバッグで、邪魔にならないのかなと思ったら、その中にポーションを入れておくのか。
緊急時に使うためなんだろうな。
「それに、ここに入っているポーションは、ここのポーションだったりするよ」
瓶には可愛らしい天使の絵が描かれている。
工房の一階に同じ絵が描かれていたのが目立っていた。
「さらに瓶を回収までしてくれるので、凄い優良物件だよ。どれも安くて冒険者だけでなく住民のためになる錬金店だよ」
「シャリーがそこまで言うのなら、本物なんだろうね」
「!? う、うん!」
そもそもメガル草は
金貨一枚もなるなら売っても問題ないし、どの道、使い道もそう多くないしな。
究極スキル『道しるべ』の機能の一つ、『植物収納』のリストを開く。
絵柄付きで名前と数が数字で沢山並んでいる。
その中から『メガル草』と書かれているリストを
緑色と赤色の茎がくっついて、ぐるぐる曲がった不思議な草が俺の手の中に姿を現した。
「アイテムボックス!?」「メガル草!?」「急に現れた!?」
三人ともそれぞれ反応を見せる。
「本当に金貨一枚でいいんですか?」
「い、いいとも! ぜひお願いしたい!」
すぐに懐から金貨一枚を取り出す。
「シャリー。これって金貨で合ってる?」
「う、うん。金貨で合ってるよ」
「そうか。では草あげます。サービスしてもう一つあげます」
ここは上客を逃さないためにもう一つ草を取り出してビゼルさんに渡した。
非常時のためにアルキバガン森の全ての植物を十年間収納し続けたおかげで、メガル草だけで数千個あるからな。二つくらい大した痛手ではないな。
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