第12話 才能

「あ、アルマくん……ほ、本物だよね?」


「ん? ああ。問題ないぞ」


 というやり取りもこれで四度目。


 シャリーはまだ色々信じられないようだ。


「私…………カゲロウって初めて見たよ…………」


「くっくっ。小娘。あれはそうそう見れるものじゃないぞ」


「そうですよね!? 噂では――――」


 何かを言いかけたシャリーが肩を落とした。


 そんなシャリー達と共に廊下を進み、不思議な気配がする部屋の前に着いた。


 ミールさんがゆっくりと扉を開くと、中から普通ではない空気が外に溢れてくる。


 妹弟の身体に空気が触れるとふたりも気になるみたいでだるそうにしていた体を起こして、部屋の中を見つめた。


 部屋の中は窓がないようで外の光を一切に入れずに暗い雰囲気の中、部屋の中央に不気味な色で輝いているクリスタルが置かれていた。青色が主だが色んな色が混じり合い、虹色と化している。


 ギルドマスター達に誘われて中に入っていく。


「こちらのクリスタルに手をかざすと、自分の才能を感じる事ができる。その中から好きな才能を選ぶとその能力が上昇したり、修行を続けると新しいスキルを手に入れたりと強くなれるぞ」


「修行ですか?」


「ああ。主に魔物を倒す事だ。まぁ、人を殺しても得られるがな」


「マスター!」


「人を殺した場合、罪人になるからあまりおすすめはしないぞ」


 才能というのは、前世の感覚からすると、ゲーム内のレベルのようなモノだろう。


 異世界ここでは魔法が使えたり、不思議な力が使えたりする。


 それならレベルという概念があってもおかしくないと思ったんだけど、残念ながらレベルという概念はなかった。


 俺だけないのかと思ったけど、シャリーもないようだった。


 そう思っていたのに、まさか才能がレベルシステムだったとはな…………レベルというか、熟練度システムだろうな。


「さて、儀式中は俺が全力で守ってやる。のんびり決めるといい」


「ありがとうございます」


 クリスタルの前に置かれている木の椅子に腰を下ろして、目の前の不気味なクリスタルに手をかざした。




 不気味な光が俺の手に伝わって、巻き付きながら全身を覆い始める。


 光はやがて俺の心臓部に渦を巻きはじめた。



 ――【個体名『アルマ』に、才能が与えられました。】



 不思議と自分の中に大きなを感じられ、そこに何かを嵌めたくなる欲に駆られる。


 自分の中に増えた力に意識を向けると嵌められそうなモノはいくつか感じ取れた。



 ――【才能『神獣使い』が発現しました。才能『剣聖』が発現しました。才能『賢者』が発現しました。才能『トレジャーハンター』が発現しました。才能『魔導剣士』が発現しました。才能『英雄』が発現しました。才能『闘王』が発現しました。才能『先導者』が発現しました。】



 八種類の才能も選べるようだ。


 人によって多い場合があると聞いていたけど、まさかここまで多いとは思わなかった。


 その中でも良く聞くのは剣聖から魔導剣士の5つ、珍しいのが『神獣使い』『英雄』『先導者』。


 神獣使いと英雄は何となくどういう才能か想像できてしまう。


 しかし、最後の先導者という才能に目を奪われる。


 中々聞き馴染みのない才能名に色々想像を膨らませるけど、全く想像がつかない。


 そういえば、ギルドマスターからいつでも才能は変えられると聞いていた。


 もしハズレ・・・だとしても、また付け替えればいいだけの事だ。


 才能を『先導者せんどうしゃ』を選択する。



 ――【才能『先導者』を設定しました。】



 頭の中でアナウンスが流れて目を覚ます。


 周囲の光が不思議と消えずに漂っていた。


「珍しいな。導きの光がまだ消えないなんてな」


 ギルドマスターが不思議そうにつぶやく。


 この青い光を導きの光と呼ぶのか。


 まだ俺の周りをゆっくり飛んでいる。


 何となくだけど、俺が選んだ『先導者』という才能と何か関わりがありそうな気がする。


 この光を『導きの光』と呼んでいるのも気になるからな。


「ありがとうございます。これで才能を持てたようです」


「そうか。これからも冒険者を楽しんでくれ。もし困った事があれば、いつでも相談に来ていいぞ」


「何から何までありがとうございます」


「いや、お前さんの実力を見たくて、あんな連中をけしかけたからな。その支払いだと思ってくれ」


「分かりました。もしもの時は頼らせていただきます」


 ギルドマスターと握手を交わす。


 そして、冒険者ギルドを後にした。




「シャリー? 大丈夫?」


「はは…………アルマくんってものすごい人だと思ってたけど、こんなに凄い人だとは思わなかったよ……」


「そうか? 俺は普通だと思うんだけどな」


「普通ではない! まさか……カゲロウって初めてみたよ」


「えっと……カゲロウって何?」


「えっ?」


 シャリーだったり、ギルドマスターが話していた『カゲロウ』という言葉が気になっていた。


「まさか……分からないで使っていたの?」


「ん?」


「えっとね。ある一定の速度を超えた動きを見せた時、あまりの速さで残像が残る現象があるんだけど、それをもうひと段階上げると残像がまるで生きている人のようになるのが『カゲロウ』という現象なの。それを起こせる人って限られていて、中々見れないんだよ?」


 そうだったのか。


 あれは、森に住んでいた頃から魔物を狩る時に多用していた技だ。


 そういう名前が付いているとはな。


「シャリー、色々教えてくれてありがとう」


 感謝の言葉を伝えると、一瞬ポカーンとしたシャリーが満面の笑みを浮かべて「どういたしまして」と答えてくれた。


 やはり女の子は困った表情よりも笑った表情の方がいいね。

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