第11話 冒険者試験

「マスター!?」


「ふむ……」


 ミールさんが連れて来たおっさんは、はち切れんばかりの筋肉が服越しからでも分かる程に大きな男だ。


 無能先輩達の言葉からどうやらギルドマスターか。


 おっさんの内側から感じられるのは、とんでもない迫力を感じられる。


「小僧」


「はい」


「小娘と共に、そちらの3人と試験をする。いいな?」


「俺は構いませんが、シャリーは?」


「私は問題ないよ!」


 そして、ちらっと無能先輩達を見つめると、また嫌らしい表情を浮かべていた。


 お互いに承諾を得たので、訓練所に向かう事となった。




 訓練所はわりと広くて、体育館くらいの広さがある。


 お互いに対峙していると、こちらを見つめる無能先輩達は「きししし」と変な笑い声をあげて見つめていた。


【なんか嫌な感じ~】


「まぁあれくらいしかやる事がないんだろう。仕方ないよ」


「?」


「あ、妹が嫌な感じだと言うから」


「ふふっ。クレア様がそう思うんだから罰当たりだね~さっさとボコボコにしてやりますか~と言いたいところなんだけど、ああ見えて実力はあるんだよね。Cランク冒険者になっているのがその証拠だよ」


 そもそも、魔物とは戦った事があるが、人間と戦った事なんてない。


 前世でも喧嘩とは縁の遠い存在だった。


「殺人は認めないが、怪我は認める。相手から負けたと言わしめた方が勝ちだ。よいな?」


「「はい!」」「「「おうよ~!」」」


「では――――――開始!」


 おっさんの声と共に、無能先輩達がこちらに向かって走り込んでくる。


 実力者というだけあって、普段からの連携がしっかりなっているのが、中央と左右に分かれてやってきた。


 全員素早い動きで翻弄するタイプか。


「アルマくん。私も出――――えっ?」


「シャリーは見ていて。クレアとルークもシャリーと一緒にいてくれ」


【【は~い】】


 妹弟をシャリーの肩に移して、無能先輩達と対峙した。


「きししし~! 俺達三人を相手できると思うなんて、思い上がりもはなはだしい!」


 中央の男が手に持った短剣で襲い掛かるが、明確に首を狙ってくる。


 殺人は禁止だったはずなのだが…………。


 首を狙うかのようで、別な狙いがあると思ったら、まさか右手側から来た男の攻撃を隠すためのフェイントだった。


 見た目以上ににかなった戦い方をする。


 今まで魔物としか戦っていないから、こういう知能戦はワクワクすら感じる。


「アルマくん!」


 シャリーの叫び声と共に、俺を斬る長剣の一筋が見えた。


 剣が俺の腕を斬りつけ、右腕が宙を舞う。


 それに畳みかけるように左上と腹部を剣が刺さった。


「きししし~! シャリーちゃ~ん~! お前のせい・・で初心者くんはここで死ぬかも知れないんだぞ~?」


 倒れ込む俺の身体越しに嫌らしい笑みをシャリーに向ける。


 そこには目に大きな涙を浮かべたシャリーが信じられないモノを見ている表情が、絶望に満ちた表情が見えた。




「いや~先輩達は容赦がないね~冒険者の厳しさを教えてくださった・・・・・のだな?」




 声がする方に、その場にいた全員が一斉に視線を向ける。


 ただ一人だけ。ギルドマスターだけは、口角が緩んでいた。


「あ……るま……くん?」


「シャリー。どうした?」


「どうした……って……だって……目の前で……」


 目の前に倒れているボロボロになった俺の身体と、後方に立っている俺の身体を交互に見つめるシャリーと無能先輩達。


「訳が分からんがもう一回切り刻んでやる!」


 無能先輩達がこちらに走ってくる。


「Cランク冒険者というのは、これくらいの実力しかないのか? ギルドマスターはあんなに強いのに」


 俺の声が訓練所に響くと同時に、こちらに向かってくる無能先輩達がその場に倒れ込む。


「あまり弱い者イジメは好きじゃないんだが、シャリーを嫌らしい目で見た罰くらいは受けろ」


 ボギッボギッと骨が割れる・・・音がして、無能先輩達の悲痛な叫びが訓練所に鳴り響いた。




 ◆




 豪華な調度品が並んでいる部屋で、俺とシャリーと妹弟がゆっくりと待っているとギルドマスターとミールさんがやってきた。


「待たせてすまないな。こちらが冒険者プレートになる」


 と、テーブルに置かれた小さな箱の中には、黄色に輝く冒険者プレートが入っていた。


「いいんですか? 一気にCランク冒険者にしてもらって」


「寧ろ足りないくらいだ。俺の権限ではここまでしか与えられない。後は実績を積んで貰う必要がある」


「黄色でも十分ありがたいです」


「ふっ。カゲロウ・・・・が使える者にCランクプレートしか渡せない俺の身にもなってくれ」


 わざとらしく大きな溜息を吐く。


 これで大体の人族と呼ばれている種族の強さが分かってきた。


 少なくともあれ・・がCランク冒険者である無能先輩達とシャリーが見通せなかったのに、この二人・・には見通せたのだから。


「ギルドマスターはAランクですか?」


「ああ。厳密に言えば元Aランクだがな」


「もしかして――――」


「ふっ。野暮な事は聞くな。それよりも『魔物使い』ではないな?」


「そもそもこの子達は魔物ではなく、俺の妹弟ですからね」


 俺は膝の上に丸まっている妹弟を撫でる。


 暖かい体温が手から伝わってくる。


「まさかとは思うが、才能の儀を受けていないのか?」


「嘘!?」「えっ!?」


 シャリーとミールさんが驚く。


 無能先輩達のような者がはびこっているなら、冒険者ギルドなんて大した組織ではないと思っていたけど、ギルドマスターは中々鋭い。


 それについて俺が隠す必要はなさそうだな。


「はい。そもそもここに降りて来たのは初めてですから」


「そうか……分かった。せっかくのCランク冒険者だ。祝いに才能の儀を受けていかねぇか?」


「いいんですか?」


「もちろんだ。優秀な冒険者を育て・・ると儂も色々都合がいいんだ」


「ふふっ。ではよろしくお願いします」


 ギルドマスターと握手を交わす。


 その隣にいたシャリーとミールさんの目が回っていた。

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