第8話 初めての王都

「こんにちは。こちらの子が初めて入場なんですが、入場料を支払いします」


 シャリーの言葉を聞いた衛兵がちらっと俺を見つめる。


「そちらの鳥の魔物は?」


の従魔です」


「!?」


「こう見えても、この子、凄腕ですよ~」


「そ、そっか。分かった。入場料は確かに貰った」


「アルマくん。こちらのクリスタルに手をかざして」


 シャリーに言われたまま、俺は左手をクリスタルに手をかざした。


 クリスタルに不思議な光が灯り、すぐに消える。


「さあ、入ろう~」


 シャリーは俺の手を引いて、王都の中に足を踏み入れた。


 入口付近にはめぼしいお店はないらしく、特に説明とかはなかったけど、大通りに入った途端に多くのお店が並び、シャリーは一つ一つ丁寧に説明してくれる。


 ここで一つ分かった事は、俺が持つ究極スキル『道しるべ』で染め上げた地図には、建物の名前も載るようだ。


 ただ、一度でもその建物が何の建物か分かる必要があって、シャリーが「あれは宿屋だよ~」と教えてくれると宿屋の名称が映る。


 さらにいうと、もし間違った場合、名称は映らない。例えば、シャリーから「あれは道具屋だよ~」と教えてもらっても武器屋など他の店の場合は地図に表記されない。


 それにしてもこの地図って便利だな…………恐らくだけど、転生特典のスキルだと思われるだけの事はある。進化特典スキルとかも手に入れているから、転生特典に間違いないはずだ。


 俺が熱心に頷いているのもあって、シャリーは一生懸命に説明をしながらとある宿屋に入っていった。


 こちらの宿屋だと知るだけで、この建物が『安らぎの木』という名前の宿屋で4階建て、1階は食堂であり、2階の半分が自宅でそれ以外と3階4階が宿屋部分になっているのが分かる。


 部屋は全部で25室で、3階4階が10室で2階が5室。ここまで鮮明に構造まで分かるようになるんだな。


 中に入ると女の子が元気そうに「いらっしゃいませー! あっ! シャリーお姉ちゃん!」と出迎えてくれた。


 ここを拠点にしているというだけあって、顔見知りみたいだ。


「エマちゃん。友人を上げさせてもらうね?」


「えっ……? お姉ちゃん? 彼氏くん?」


「っ!? ち、違うよ! と、友達だよ!」


「ふ~ん」


 まだ十歳くらいの女の子は、俺を品定めするかのように下から上まで眺める。


「シャリーお姉ちゃんも遂に……」


「違うってば!」


「えへへ~何か必要になったら言ってね~」


「ありがとう~」


 こちらに手を振る女の子を残してそのまま階段を上り、2階の部屋に入っていった。




 部屋の中は宿屋だけのこともあり、とても綺麗な場所だった。


 前世では山登りの際にビジネスホテルに泊まっていたのを思い出すと、ビジネスホテルの部屋よりも遥かにランクの高い部屋だな。


「そちらに座って~いま紅茶を用意するね~」


「ああ。ありがとう」


 椅子に座ると同時に、クレアとルークが飛び上がり、部屋を模索し始める。


 初めて見る景色に興味津々のふたりを見て笑みがこぼれてしまう。


 俺も前世の記憶がなければ、はしゃいでいたかも知れない。


 少しすると、美味しそうな紅茶の香りが部屋に満ちていく。


 すぐにマグカップを持ってきて、俺の前に置いてくれた。


「アルマくん? 妹様と弟様も紅茶飲むのかな?」


「飲むと思う」


「じゃあ、おふたりの分も用意する~!」


 駆け足でまた紅茶を淹れに行くシャリー。


 彼女が淹れてくれた紅茶を口にしようとした時、一つ頭を過る事がある。


「あ~アルマくん~睡眠剤とか毒薬とか入ってないからね~」


 …………心を読まれていたみたいだ。


 いまの自分と妹弟がどれくらい強いか分からないが、シャリーが俺に追いつけられなかったのを考慮すると、飲んだ瞬間に倒れたらルークでもなんとかなるか。


 久々にマグカップを手に持ち、口に持っていく。


 この世界に生まれて初めて文明が作り出したモノを手にする。


 母さんと過ごしていた頃は基本的に肉を焼いて手で食べるとか果物を食べていたから、懐かしい気持ちに浸りながら紅茶を口に入れる。


 香ばしい香りが口の中に広がっていく。


 果物とはまた違う味――――風味が久しく感じていなかった味覚を刺激してくる。


 一口味わったらもう止まる事ができず、マグカップを置く事なくずっと飲み続けた。


「おまた――――ふふっ。もう一杯飲む?」


「いいのか?」


「まだ沢山あるからいいよ~」


「ありがとう」


 もう一杯貰った紅茶をまた堪能する。


 妹弟もテーブルにやってきて、器用にマグカップの中にくちばしを入れて飲み始めた。


【美味しい~!】【兄ちゃん! 美味しい!】


「ふたりとも、とても美味しいみたい」


「それは良かった~」


「少し聞いてもいいか?」


「もちろんだよ。色々聞きたい事もあるだろうから、ここに連れて来たんだから」


 向かいに座るシャリーが紅茶をテーブルに置き、足を汲む。


 美少女の綺麗な両足が交わり、色白肌の太ももをさらけ出す。


 あまり直視するのは失礼だと思うから、できる限り視線を向けないようにしよう。


「まず入場について教えて欲しい」


「全ての国、全ての街に入るための入場料が必要なんだ。中には自由の国があるけど、入場料なしで入れるが犯罪者は入れなかったり、まあ色々あるんだけど、まず、どこの街も入るためには入場料がいると思ってくれていいよ」


「それをシャリーが代わりに払ってくれたよな?」


「そうだね。それについてはまた説明するよ。入場に関して、入場料を支払わなくても良い方法があって、その王国にを置く人は払わなくてもいいというか、代わりに国民税を支払う事になるんだ。どっちがいいとかはないけど、入場料の方が値段は高いよ。でも誰でも王国に席を置ける訳ではないんだ。その資格を持つために何らかの仕事に従事していないといけないんだ」


 要は住民になって街に入るか、入場料を支払って入るかか。


「それ以外で冒険者という職業は優遇されていて、Dランク冒険者以上だと入場料なしで街に入れるんだ。王国によるけど、少なくともCランク冒険者になれば、どの街もただで入れるようになるよ」


「それは冒険者が戦力になるから、国としても歓迎するという理念か?」


「ふふっ。アルマくんって凄く聡明だね。その通りだよ」


 どの国も戦力なら歓迎するがそうでないなら要らないだろうからな。


 それは異世界でも変わらないか。いや、魔物がはびこっている世界だからこそ、前世よりもその色が濃いのかも知れない。


「入場料を支払わずに入る方法もあって、入口で『経由する』話すと入場料なしで通してくれるんだけど、これは街から12時間以内に外に出なければならないんだ」


 12時間……という事は、この世界にも時間の概念があるのか?


「時間とはなんだ?」


「え~っと、あそこに時計ってあるでしょう?」


 彼女が指差した壁には前世でもよく見かけた丸い時計が掛けられていて、1から12までの数字が書かれていた。


 数字ですら前世と一緒か……。


 シャリーから長い針と短い針の説明があり、1日24時間も変わらず、朝、昼、夕方などの感覚も前世と同じだった。

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