第7話 美少女は怪しい
どうしようかな……名乗るべきか? 一応助けてくれたから名乗るのが普通なんだろうけど、あまり女性に掛かるとろくな事がないので、偽名でも使うべきか。
「えっと~私、怪しいよね?」
そう聞かれれば、頷いて返すしかないよな。
「そうだな~じゃあ、こうしよう」
彼女がまさかの行動に出る。
俺の前で跪きこうべをたれる。
突然すぎる行動に驚いていると、まだ想像もしてない言葉が続いた。
「初めまして。神獣朱雀様。私は朱雀様を崇める一族の娘です。こちらの二柱は朱雀様と見受けられます。そして、貴方様もまた朱雀様に関わる者とお見受けします」
母さんから朱雀は人族から神聖な鳥として崇められたりすると聞いたことがある。
だからこそ、兵士達が妹弟を見て『魔物』だなんて言うのが信じられなかった。
そんな妹弟を神獣朱雀であると一目で分かった彼女は、それだけで信用してしまいそうだ。
「分かった。俺はアルマ。こちらは妹のクレアと弟のルークだ」
「ええええ!? 朱雀様が妹に弟!?」
優雅に跪いていたのに驚きすぎてその場で飛び上がった。
「もしかして、君も朱雀様?」
「まぁ、そんなとこかも?」
「ええええ! た、大変申し訳ございませんでした!」
今度は土下座を披露する。前世で土下座っていうとだいぶプライドをへし折るモノだったはずなんだが、異世界は違うのか?
「ま、待って。そもそも君にそこまで言われる理由が分からない」
「え、えっと、朱雀様は私達一族の――――」
「普通に喋っていいから!」
一度顔を上げて「本当に?」という視線を送ってくる。
目が合って、少し経つとやっと起きてくれた。
「私達ミルクリィー族は長年朱雀様を崇めて来たよ。族長のお告げによって、今日この日に
俺に嘘を看破する能力はないけど、目の前の女の子は信じても良さげだと思えてしまう。
今は頼る人もいないし、街に入ればお金なんかも必要になるかも知れない。前世の記憶から冒険者というのは、魔物を倒してお金を稼げる職業だったと思う。
彼女がCランク冒険者ならそこら辺の情報を聞けるかも知れないしな。
「分かった。それで、俺達に何か用か?」
「…………ん?」
「いや、用事があるから会いに来たのかなと思って」
「あ~」
少し目が泳ぐ彼女は、少し抜けた笑みを浮かべる。
「実は何もないんだ~」
「ないのかよ!」
思わず、ツッコんでしまった。
そもそも会う必要がないのに、会いに来たのか!?
あれか? 朱雀様を一目見ようとしたとか!? …………まさか。
「朱雀様を一目見たい」
「ギクッ!」
「見た事ないから、そんな神獣いるわけない」
「ギクッ!」
ものすごく困ったように誤魔化す笑みを浮かべる。
「で、でも、私がここにいたから兵士さん達に変な誤解されなかったでしょう? だから、それでいいでしょう!」
「まぁ、助かったのは事実だしな」
「えへへ~それで、お願いがあるんだけど~」
なんだ。ちゃんと頼み事で来たじゃないか。
少し怪しいのは怪しいが、誠実そうだし、こちらも助かったから何かできることがあるなら力になるか。
「えっとね? す、朱雀様を――――」
目にハート模様が浮かび、両手をくねくね動かし始める。
「もふもふさせて欲しいな~!」
「させる訳ないだろうー!」
やっぱり関わってはいけない人だったみたいだ!
俺は全力で彼女から逃げ去った。
◆
城門の前にたどり着くと、多くの人が出入りしている。
シャリーが王都だと言っていただけあって、とんでもない数の人の出入りだ。
王都というからには、日本で言う東京のようなモノだろうな。
入口は五十人が並んで入れるくらいの横幅だが、二パターンに分かれている。
まず右側が馬車の出入り部分になっているようで、馬車が綺麗に並んでいる。
中から外に出られる馬車は自由に出ているので、中に入ってしまえば、承認した事だから出るのは自由という感じなのだろう。
入る時は、不思議なクリスタルに手をかざしてから中に入っているが、大半の人が貨幣を渡しているから通行料みたいなものを払っているのだろうな。
左側は3つの列があり、一番左は馬車同様にクリスタルに手をかざして中に入っている。
中央はクリスタルとかなく、そのまま中に入っている。
右は中から外に出る人達が通っている。
レーンとかもないのによく綺麗に分かれて行動できているんだなと感動すら覚える程だ。
恐らく、暗黙の了解とかだろうな。
さて、俺は王都に入る事ができるのだろうか。
「ま、待ってよ~! アルマくん~!」
入口の列を眺めていたら、どうやらシャリーに追いつかれたようだ。
列に並んでいた人々を眺めた結果として、シャリーは恐らく異世界でも美少女ランキング上位だと思われる。
美少女と関わっていると、色々面倒な事が起きてしまうからな…………。
「アルマくん! 入り方も分からないでしょう! 触りはやめるから!」
「…………妹と弟に手は出すなよ?」
「わ、分かった!」
彼女がいないと、どちらかというと俺の方が困るのだが、不思議と彼女の方が嬉しそうだ。
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